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かふぇ&るんばっ♪  作者: 鴉野 兄貴
梅の花が咲く日に豆を炒ろう

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39/63

ちょっとな……おいしいアイスコーヒーの淹れ方

 しゅわ~。ぽと。ぽと。

コーヒーメーカーから盛大な湯気。無理もない。その下には大量の氷。

サーバーに大量に入れた氷はドリップされた湯気とコーヒーの黄金の輝きを受け止めて香りを封じ込める。

 濃い目にドリップしたコーヒーの液を、直接サーバーに大量に投入した氷で受け止めると香りを損じない。

これで美味しいアイスコーヒーになる。


「このクソ寒いのにアイスコーヒーか」

足元でふよふよと尻尾センサーを振る掃除機に苦笑い。

だってそういうときこそオコタでアイスがいいのよ。


「アイスとアイスコーヒーとガムシロップか。

前も述べたが唾液を伴わない砂糖は」

あんたの自説でしょ。それ。根拠ゼロだから。


 コアラさんの袖つき毛布を身に纏ったままコタツに入る。

うう。あったかーい!


 タブレットを起動。

アプリケーションのインターネットラジオで音楽を聞きながら、青空文庫で本を読む。あっは。我輩は猫である。名はないか。


「我輩は掃除機である。名前はまだない」つけてあげようか?

「不要だ。というか掃除機に名前をつけるな。私は商品であり消耗品だ」みゅ?

「あと、私は餅を食べても踊らないからな。普通に壊れるからやめてくれ」あはは。


 アイスクリームを口に運ぶ。

冷たい味わいを楽しみ、口中で解けた甘みにコーヒーの冷たさと香りとほのかな苦味が加わる。

うふふ。うふふ。


 就職できたど~~~~~~!

「もう今日だけでその台詞を二十回聞いたぞ……」

ふわふわと私の周りを祝福するように回る彼に微笑む。


 ねね。知ってる? すっごく美味しいお茶の淹れ方を新が教えてくれたの。

コレをやればイチコロってくらい美味しくなるのよ。


「掃除機は茶を飲まない。故障する」ぶう。

ふよふよ動く彼は充電装置の前に。つまんない。


「バイトの高校生が澄香に色々教えてくれる話か」うんッ 頼りになるし超可愛い子ッ

「年下好きだからな。お前は」うっさい。



 うしし。このあいだ手が触れ合ったの。

「ぶつかっただけだろう」うっさい。


 お茶を淹れるのは得意なのだ。もともと事務だしな。

「雑巾の絞り汁を淹れるのもな」ぶはっ!? あのときのセンセごめんなさいッ 

だってあらたを苛めるんだもん。昔のあらたは可愛かったんだ。

 まさか高校を出てからあんなに背が伸びるなんて。反則だろ。

「そういう男もいる」こっちは中学以来ほとんど背が伸びなかったのに。くっそ。

「誤解している男、稀に女もいるが。人間の女性は中学二年生くらいで背丈の成長はほぼ止まる」むう。


 あ。そうそう。「ん? 」

さっきの話だけどさ、聞きたい? 聞きたいでしょ? 最高に美味しいお茶の淹れ方ッ


「……『聞け』と言っているではないか。何度も何度も言うが、一方的に話したいことを喋るな。

いい加減オトナの女なんだから、年下が憧れる女を目指せ。どうみてもコドモだ」うみゅ……。


 脚をぽかぽか温めるコタツとヒーターつきの袖つき毛布。

アイスコーヒーの香りと苦味が心地よい。


 もう一回、新以外の男の子を好きになってもいいかなぁ。

あの優しい腕は甘い牢獄だから。


 充電装置に陣取る掃除機は何も言わない。

あのさぁ。そういう時はちょっと態度だけでいいから止めなよ。

「澄香。これだけは覚えておけ」うん?


「女の人生は辛いこと、痛いこと、苦しいことの連続だが。

『世界で一番幸せになる瞬間』がきっと来る。そのときを逃すな。そしてそのときがあったことに気づけ。

そうでなければ、辛いことに流されてしまう」もっと分かりやすく。


「史上、多くの女は『結婚して子を成す事』と答えているが、まぁそうとも限らん。

だが先人たちの言葉には耳を傾ける必要はあると思うぞ」もっとわからん。


 私の名前は紺野澄香こんのすみか

冷たいコーヒーを口に含むと、自分が幸せになれない掃除機の言葉がわかってしまう女。

「私は幸福だ。誰かに使われるために私は生み出されたのだから」

出来たら、私の幸福もセットにして考えて欲しいけどね……。

「無益だ」さいですか。


 私はフローリングに寝転がり、身体をゴキゴキと鳴らす。

さぁ。明日もがんばろう。

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