就職戦線異常だらけ……論理的に話せ
私の名前は紺野澄香と申します。(略)病院事務の資格を持ち……。
「いまいちだな」なんでよ。
珈琲の匂いのもと、優雅にフローリングを滑るロボット掃除機はそう呟いた。
「さっきから自己アピールと言えば聴こえのいい自慢話ばかりではないか」頑張って自慢できそうなこと考えたんだぞッ?!
「そもそも面接官は一目で『この人間と一緒に仕事をしたいか』を見抜いている。
会話はほとんど確認や第一印象の修正と見て良い」ぐむむ。
どうしても面接で落とされる。
苦悩を露にした私は珈琲を飲みながら掃除機を面接官に見立てて面接試験をする羽目になっている。
「この写真はできそこないだね。受からないよ」どこの料理漫画よ。
「この履歴書を書いたヤツはだれだぁああっ 」あー?! やかましいっっ?! 漫画のネタなんてわかるかっ?!
ふわふわ。ふわふわ。
フローリングを滑るロボット掃除機の尻尾がくるくる。
「基本的に他者意識を持って、面接官からどう見えるかを考えてみたらどうだ。
自慢話しかしない。人の話を聞かないと思しき三十路前の女と仕事がしたいと思うか」うう。
「あと、論理的に話せないのか。せめて感情語を使うのはやめてくれ。
就職できなくて超ムカつく。凹むとか普通は面接でしゃべらないだろう」うっさい。
床にしゃがみこんで泣き出した私の隣で優雅な音楽を流し始める彼。気を利かせているつもりかよ。
「これは定時放送機能だな」ふんだ。
第一印象ってどうすればよくなるの? 整形? 「ばか」ばかっていうな……。
「お前はいい子なんだが、時々欝が欝を呼んで色々逆効果になるからな」うう。
「辛いものでももう一回たべるか? たこ焼きが残っているようだが」……いい。
「熱意をぶつけるのはかまわないが。熱意はただ押し付けるものもあるし、内に秘めているものもある」……。
「お前は面接に落ちて『自分がこの世の中に要らないんじゃないか』と言ったが。
『必要な人間になる』努力を最近怠ったわけではないだろう。もう少し自信を持て」自信なんてない。
「自信は成功によって裏付けられる。そういうがそれだけではないぞ。
自分自信に向き合う怖さを知ること。それを乗り越えていくことだが。お前には既にある」そうかなぁ。
「ただ感情をぶつけるのではなく、その根拠を踏まえて話してみろ。ただし相手はどう自分を見ているかは常に意識してな」……。
ぴんぽーん。
あ。書留? ハンコ何処だったかなぁ……。ナニこれ? 落ちたと思ってた会社の封筒じゃない。
……。
あれ?
思わず封筒の中身を何度も読み返してみる。
受かっている? ……まさかね。震える声で呟く。『受かっている』と。
うかったああああああああああああああああっ?! やったやったいえぇええええええぃぃ?!
パンツとシャツ一枚で踊る私の横を通過する掃除機さんは楽しそうに呟いた。
「見てくれる人はいるものだな」うんっ?!
「ところでどんな話をしたのだ」
つい珈琲を飲むと掃除機の言葉がわかると言っちゃって。冗談と取ってくれたみたいだけど。
あとは新と一緒にジョロキア様を食べた話だけど。あ、あっちの話はしていないけどね。
「面接官が第一印象で決めてくれていて助かったな」うっさいっ! でもやったっ! やったっ!
私の名前は紺野澄香。
特技は珈琲を飲むとロボット掃除機の言葉がわかること。
でもこれはじょうだんじゃありません。本当のことなのです。




