あばれ横着……若年性更年期障害
私の何処が更年期障害だっ?! 私はまだ若いもんっ!?
アプリや箸をぶつけてやる私はふと気がついた。カレがしゃべっていない。
『澄香。珈琲を飲んでいるときは悪口を忘れて香りを楽しもう』
元カレの言葉を思い出して深呼吸。おちつけ。紺野澄香。
面倒だけど。それでも仲直りしなくちゃ。でも私は珈琲を飲まないとカレの言葉がわからないのだ。
お湯が沸騰して、熱い蒸気が軽く炒ってみた豆に当たる。
豆を炒っていると少しだけ落ち着いてきた。ごめんよ。
アプリの錠剤はまだしも箸は駄目だよね。
豆を焼く香りがするのにカレの言葉が聞こえない。なんか、いってよ。
豆を砕いて機械にかけて、蒸気の香りを嗅ぐ。……怒っているの?
ねぇ。なにか言ってよ。掃除機さん。
「若年性更年期障害の症状としては、生理が不順。手足の冷え。ほてり。頭痛に耳鳴りにイライラ感、うつ症状などといったように、閉経前後に起きやすい更年期障害と変わりない」
……よかった。
「澄香。私の話を聞いていなかったのか? 」
聞こえてなかったんだよ……。ごめんよ。
「気にしていない。そもそも私には感情はない」
時々怒ってくれるのに?
折れた箸を握り締める私にカレの声が聞こえる。
「捨てろ。手が傷つく」……ううん。ごめんね。
「気にするな。若年性更年期障害の可能性を指摘した私も問題がある」
それって。私でもなるの? 「なる」……そっか。ごめんね。
「中で出しても排卵そのものが行われていないとか、月経が止まったり不妊症になりやすくなったりするな」
新にだいしゅきホールドしても子供できなかったけど関係ある?
「タダの偶然だろ」そっか。
私、子供できるのかなぁ。ひざを抱えてキッチンに座る私の目に珈琲の蒸気が沁みる。
カレの姿はくるくる回り、キッチンから離れてまた戻ってくる。
あ。写真撮ったな。お母さんが心配するからやめてよ。
「これは定時の行動でしかない」うっさい。
くるくると回り、キッチンから出て行く掃除機。
しばらくして冷えた珈琲を手にフローリングに戻る私。
「若年性更年期障害の原因だが。
ホルモンバランスが崩れ】であり、女性ホルモンのバランスが乱れることによって、
自律神経の働きに乱れが出来るとともに発生するらしい。
これは脳の働きと密接に関係している。
ストレスの溜まり過ぎ。不規則な生活による影響だ」あ。当たっているかも。
「子宮も老化するからな。個人差があるが三十路から衰えだす」むっ?!
「まだまだ四十歳前後になると女性ホルモンのひとつであるエストロゲンの量は急激に減少する」おおっ?
「杉本彩さんみたいにエロになるのは難しいのか」「お前は壇蜜になれるのか」無理。
「とりあえず若年性更年期障害の症状は多岐にわたる。素人判断より医者だ」
「月経不順が続く。寝つきが悪い。眠りが浅い日が多い」ああ。当たってるな。
「腰や手足が冷えやすい。動悸・息切れを生じることが多い」めっちゃ当たっている。
「……不摂生しすぎだろう。冷えはさておき。あと運動不足だ。社交ダンスを再開しろ」カネありません。
「些細なことでもイライラして、怒りやすい」これか。貴様これで決め付けやがったな。
「別に決め付けていない。可能性を示唆しただけだ」むかぁ。
「顔が火照ることが頻繁にある。汗をかきやすい。頭痛。めまい。耳鳴り。吐き気」
や、やばいかも。
「肩こり、腰痛、手足の痺れや痛み。身体がだるいことが多く、疲れやすい」
すいません。更年期障害さんなめてました。当たっています。
「20代後半は仕事やプライベートでの遊びでも、まだまだ無理をしがちだ。
あらゆる面でストレスも溜め込みやすい生活習慣になっている人間も多い。
十分な睡眠時間を取り、ストレスを過剰に溜め込まないことが大事だが、
乱れた生活習慣を急に改善しようとすると、かえって過剰なストレスをお前は感じるだろうな」ぐぐぐ。
くるくる周りを回る掃除機を眺めながら冷えた珈琲に視線を落とす。
うん。それでも君がいるから少しはマシかな。
「性行為の痛みが男性側の局部の大きさにあるわけではなく、若年性更年期障害のこともある」がぶっ?!
「アフターピルを行おうとしてはじめて発覚することがあるな」
新のはジャストフィットだからなぁ。
「イライラして酒を飲みまくる。若年性更年期の女性に多いな」うっ?!
前兆としては。先ほどもある程度のべたが。
ほてりやのぼせなどのホットフラッシュ。
くしゃみをすると尿もれする、残尿感など排尿の悩みなどが」ちょ。確かにちょっと漏れるけど。
「仕事の激務によるストレスや過労。ダイエット。食生活の乱れ。睡眠時間が短い。
タバコや酒を飲む。不規則な生活には気をつけねばならない」
症状をまとめるとこうなるらしい。
血管運動神経系ほてり・のぼせ(ホットフラッシュ)、発汗、冷え、動悸、息切れ、むくみ
精神神経系頭痛、めまい、不眠、不安感、いらいら、憂鬱、うつ状態、耳鳴り、立ちくらみ
運動器官系腰痛、肩こり、関節痛、背部痛、筋肉痛、疲れやすい
消化器系食欲不振、吐き気、便秘、下痢、のどの渇き、口臭、胃もたれ、胸やけ
泌尿器系頻尿、残尿感、排尿痛、血尿、尿失禁
生殖器系月経異常、膣乾燥感、性交痛、性欲低下
知覚系しびれ、知覚鈍麻(感覚がにぶい)、知覚過敏、蟻走感(蟻が体を這っているような感覚)、視力低下
皮膚系皮膚の乾燥、かゆみ、しわ、くすみ
「早発閉経なのか、卵巣の機能低下やホルモンバランスの乱れかは確かめろ。
長く放置すると、治療をしても回復しなくなることもありますから、早めに治療を受けることが肝心で血液検査でエストロゲンや脳下垂体から分泌される性腺刺激ホルモンの量をみればわかる。
早発閉経は骨粗鬆症や高脂血症などの原因になる。気になったら病院にいけ」
うわああああああああああ。一気に言うなぁあああああああ?!
私の名前は紺野澄香。
珈琲を飲むと無駄に知識の多い掃除機の言葉がわかることがある女。
でも、カレの心は、わからない。彼はわかるのに不公平だよね。
「わかっていることでも、はなしてまとめていれば気が晴れるものだぞ。澄香」




