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かふぇ&るんばっ♪  作者: 鴉野 兄貴
掃除機さん 掃除機さん あなたに微笑む顔があれば

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むくむくの鬼(き)……むくみ

 ずーとさ。くつはいて就職活動して、立ったりしてるとさ。

「なんだ。澄香」珈琲をすすりながらつぶやく私。

むくみが気になるよね。「いい傾向だな。澄香」


 なんだよ。人が悩んでいるのに。太ももとか足とかパンパンなんだぞ。パンパン。

ちょっと丸顔も膨らんでいる気もするってのに。


 むくみと関係なく膨らむ私の目の前を優雅に通過していくロボット掃除機に私は悪態をついてみせたが。

「何度も就職できないと人間性そのものを否定されている気分になるが、今のお前はそれだけではない」……かも。誰かさんのせいで気が散ってるのかな。


「部屋着がパジャマやジャージではなくなったな」アンタがうるさいからでしょ。

朝起きたら用事はなくても寝具をしまって着物はピシッとしないと背筋も伸びないし気合も入らないって。


「知っていても実行するかしないかで大違いだ」かもね。あと地味にプランタの収穫物役に立ってる。

「家計簿も三日坊主からたまにつける程度には成長した」まぁ。あんたが私が忘れたお金の使い道をなぜか把握しているからだけど。

「それでも自分で確認するだけマシだ。おかげでパチンコに『負けなくなった』」行かなくなっただけじゃないの。

トータル勝ちが全然トータル勝ってないし、むしろ諸経費がかかっていると思うと欝になるし。

あと、あれだ。『玉やるから……』って言って来るセクハラ男は死んでいい。


 ここにはいない男にシャドーボクシングで憂さを晴らす私の脇をするする滑る掃除機は、

私が脱ぎ捨てたストッキングを見事に吸い込み、じたばた。……あ。弱っている。放っておこうかな。


「就職活動の服も一着から着わけているしな」靴とかワンポイント変えてみたりね。

「あと。大便をすれば軽く掃除しているしな」微妙に気分が良いのだ。何度も小をするような家にいる日は。


 そーいえば。この間パン屋のおっちゃんにおまけもらった。

澄香ちゃんかわいいねだってさ。おかしいでしょ。


「基本的に面接は第一印象だ。『この人と働きたい』と思う人物を面接官は大抵一瞬で見抜く」うーむ。



 それよりぃ~。

私は足をばたばたさせながらおねだり。

しよ。しよ。しよ。


「誤解を招くような発言をするな」本題本題。

ちょっと残念だなぁとか思ったりする? 「しない」ちぇ。ツマンネ。


「むくみのことなら」おう。それそれ。

「医学的には血管の外に余計な水分、血漿けっしょう成分が溜まった状態を『むくみ』と呼ぶ」あん。もっと。すてきぃ。


「……なぜだろう。話すのが嫌になってくる」ああん。はなさないで~♪

「不思議だ。手足など要らぬと思っていたが、無性に欲しいかもしれない」もっとぉ。もっとせめて~♪


 ショーツとカッターシャツ姿で蓄電待機モードの彼をつつき倒す私。

「それ以上くだらないおふざけを繰り返すなら私はお前のことなど知らんぞ」ちぇ。あらたならもう狼さんモードだろうに。


「人間と違って掃除機に色仕掛けは効かないのだ」つまんない。もっと唸っていいのだぞ。この部屋は防音マンションだし。

「いいかげんにしろ。

血漿だが、血液の液体部分だな」あ。無理に話戻しやがった。こんなろ。


 優雅にくるくる部屋中を駆け巡りながらむくみについての講義を始める掃除機さん。

「血液が運んできた栄養や酸素は腎臓や肺などの組織に運ばれ、普通は血液に戻るのだが」


 うらんでやる~♪ のろってやる~♪ 男を連れ込んでやる~♪

「その気もないのにそういうことを言うな。澄香」ふーんだ。


「心臓をポンプとして全身の動脈から身体の隅々まで送られた血液は、

血漿部分が細胞間液となって細胞に酸素や栄養を届ける。

 役目を終えた細胞間液は二酸化炭素や老廃物を回収、再び血漿となって心臓に戻る。

このとき静脈の働きが悪い場合、リンパに送られる血漿の量が増えてしまう」

こんなにたまって太くなって……かわいそうに。


「誤解を招く表現を使うな。お前の足はもともと健康的な程度には太い」うっさいっ。


「リンパの流れがうまくいかないと細胞と細胞の間に余計な血漿が溜まってしまい、むくみになる」

それでムクムクとなるのね。


「うるさいっ どうしてそっち方面の話をしようとするっ?! 」ふはは。


「基本的に生活習慣が関係しているが、適度なマッサージ、風呂でよく温める。

こまめに身体を動かす。

顔のむくみは冷水や温水で交互に顔を洗うなどで血行を改善する。

月のもの前にむくむ人間にはビタミンB6が有効らしいな」あずぎとかいいって言うもんねぇ。


 ねね。いいでしょ。ちょっとぐらい。

「同じ掃除機でも私の場合仕様も形状も違う。普通に使えない。抱きしめても重いだけだ」むう。

「澄香。男というものは、いや人間というものは慰めて欲しいと思うことはあっても、慰み物にはなりたいと思わないものだ」そういう日も。あったりするのよ。それにアンタは。



 私の名前は紺野こんの澄香すみか

珈琲を飲むとロボット掃除機の言葉がわかる女。

確かにホースとかないロボット掃除機は。抱きしめると重かった。

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