ストロベリーが良いと……缶のつぶつぶコーンスープを綺麗にのむ方法
コーヒーの湯気が冷たく乾燥した冬の空気に縛られた部屋をやわらかくしていくと同時に、
私の干からびた喉を潤し、鼻水のまだ残る鼻に黄金の香りを運んでくる。
私はコタツに寝転がり、ミカンを食べながらじたばた逃げようとするロボット掃除機を捕まえ、頬ずりしながら枕にしている。
壊れる? しーらないっ
「澄香。いい加減にしろ」聞こえてない聞こえてない。ほれほれおとなしくしろ。ちゅ。
「澄香。ふざけるな」ふははは。頬ずりしてやる。
「風邪は持ち直したときが肝心なんだぞ」はいはい。頭が痛くて割れそうであります大佐っ!
「大佐ではない。掃除機だ。掃除機」そーじきなのはじょーしき。なーんちゃって!
「……無駄にハイテンションだな」
私の手を逃れた掃除機はくるくる回りながらフローリングの掃除を開始する。
うむ。今日の私は機嫌が良いのだ。なぜならばっ!
みろっ! この缶をっ 「缶ジュースだな」
違うっ この季節ならばジュースよりコーンポタージュがおいしいっ! よって!
「缶をなぜそこまで振る……」振るっ! 振るっ! 振りますっ! ……今日も粒粒完食っ!
「……指を怪我するぞ」ふーんだ。
「そういえば、二〇年ほど前に口が大きく開いて、粒が全部出る商品があったそうだな。廃れたようだが」へぇ。なんでだろうね。
「澄香。就職できたとか、そちらで機嫌が良いのならわかるが、缶みっつ連続で粒を全部食べたとかその程度でだな」
うっさい。人間にはポシティブさが大事なのだっ。
「……いいか。缶の口の部分があるな」うん。
「そこから指を下ろしていく」うん。
「缶の真ん中をへこませろ」うん? こんなことしたら粒粒がひっかかっちゃうじゃん。
「逆だ。流体力学の関係で言えば、高確率で粒粒が残らなくなる」な、なんだって~!!!!!!!
さっさと教えんか~~~~~~~~!!!!!!!
というか、コーンポタージュを飲む楽しみが減ったじゃないかああああああああっ?!
「……二〇年前の商品が流行らなかった理由が私にもわかった気がするな」
私の名前は紺野澄香。
珈琲を飲むと余計なこと言いのロボット掃除機の言葉がわかる女。
「それより、先に就職をだな」




