風邪の また寒そう……風邪
「食って寝ておけ。終わり」まてぇええええええええッ?!
あ、頭痛が。吐き気がぁ……。
「湯船の保温モードにするのを忘れて追い焚きだけで長風呂した挙句、
酒に酔って冬場なのに朝まで寝ていたとか。澄香。お前は死にたいのか」ううう。喉が痛いよう。タンが苦い感覚が辛いよう。
「タン自体は苦くないと聞くが、要するに喉が痛いのだな」うん。蜂蜜を瓶から直接喉に垂らした。
「乳児に蜂蜜はお勧めしない」……お前、思いっきり私をバカにしているな。
フローリングの床に直接敷いたお布団の周りを音楽と共にくるくる回りながら悪態をつく掃除機に手近なティッシュペーパーをなげてやる。
ズポッ! という音と共にティッシュを吸ってのたうつ彼に……うう。笑う気力がない。
何故か場違いのお正月の音楽が鳴り、私の周りをくるくる回るロボット掃除機は今日も元気である。
いいよね。あんたは風邪ひかないもんね。
「バカでなくても風邪は引かない」……ううう。くっそぉ~。復活したらビニール袋を食わせてやる。
「風呂場での年間溺死者は一万四千人もいるというぞ」マジか。
「お前に起きた事を解説してやろう。
低温度の脱衣室で裸になり、血管が収縮して血圧が上がった。
そこで浴室に入るとある程度暖かい室温になるため血圧が下がった。
高い温度の浴槽に入ると一気に血圧が上がる。
暫く浴槽でリラックスしていると高い血圧から低い血圧へと急降下の過程を経る中で眠ったというが。
正しくは意識障害を起こしたのだろうな」
ビール飲んでましたッ!
「……本当にお前は残念な娘だな。風呂場での飲酒は意識障害の原因になりやすい」ううう。
「そのまま死んでいたら、お前は風呂のスープになっているな」うぎゃ。
セキがとまらん。おしっこ行きたい~。絶対今日は下痢が出る~!
「風邪と言うモノは基本寝て栄養を取って治すものだからな。
ただ、風邪とインフルエンザは違うので、病院に行くことをお勧めする」うううう。ヤダ。新の顔を見るのはヤダー!
「インフルエンザは本当に怖いぞ。
インフルエンザの場合は風邪の症状に加え、38度以上の高熱や頭痛、関節痛、筋肉痛などの全身症状が突如として現れる。今のお前に症状が近い。小さな子供は急性脳症になったり高齢者は肺炎を併発したりするケースもある。
新型インフルエンザは鳥を媒介してうつる。世界保健機関は最大一億五千万の犠牲者を予測している」うげ……外に出たくないです……。
「昨今は問診しかしないからな。しかもお前にはカネがない。
診るだけならば新に診てもらうのが確実だ」
です。保険証貸してくれる友達もいませんっ!
「それは一応ダメなんだぞ」うしし。
風邪を引いたら鼻水が出る。珈琲の香りも鼻水越しでは楽しめない。
それでも砂糖とマヨネーズとミルクを入れて珈琲を「珈琲への冒涜だな」ううう、こうでもしないと食欲が。
「マヨラーは卒業したのではなかったのか。それも以前は流石に珈琲にだけは何も入れなかったはずだが」塩分ほしいのです。油分も。死にます。
「想像したくもない。味覚センサーが私になくてよかった」でも二酸化炭素と一酸化炭素は感知するよね。
「刑法第二四六条 詐款
人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする」むに?
「保険証を人に貸す、落とすまでは犯罪ではないが、その保険証を貸した、借りた人間は双方罰せられる。この場合前者が澄香。お前だ。罰金では済まないぞ。よくて執行猶予だ。
後者、つまり貸したものも同じだ。懲役だぞ。懲役。お前は刑務所で生活したいのか」むう。
「例のコピペを真に受けるな。まったく」ばれたか。
「ほら、さっさと新を呼べ」……あんたはそれでもいいのか。
「私は掃除機だ。医者ではない」
私の名前は昆野澄香
珈琲を飲むと、優しいロボット掃除機の言葉がわかる女。
……ねぇ。傷ついている?
「傷だらけだが。お前が色々投げるからだ」ごめんよ。でもそういう意味じゃないんだけどね。
「理解してはいる。だが、私は掃除機だ。人ではない」




