腋臭去り……わきが【前話補記2】
ふぉふぉふぉ……。
「汚いッ?! やめろっ! 」やめろと言われても♪
私の名前は昆野澄香。現在人類の限界に挑戦している。最大の耳垢を取り出すという偉業に!
「それより、履歴書を書く作業に戻るのだ」どうせ写真だけみてポイだもん。
……。
珈琲を取りに行っている間に、私が成した人類の偉業を彼は吸い取ってしまった。
尻尾をふわふわさせ、右に左にくるくる回って挑発してくる。
吐け~~~~~~~! 吐き出せッ?! この馬鹿掃除機ッ??!!!!!!!!
「無実だ。これはプログラムされた最効率の掃除ルーチンだからな」
うそつけええええええっ?!
先日も世界最大の鼻糞(予定)を吸い込んだじゃないかああああああ?!
「……実に残念な娘だな」
一年かけたんだぞぉぉおっ?!
ひとしきり悪態をつきおわった私は手元の珈琲カップに目をやりため息。
すっかり冷めてしまっていて香りもいまいち。レンジでチンしてもなぁ。香りは戻ってこないし。
「むしろ香りが飛ぶ。酸味も増える」あんたのせいだ。あんたの。
沸騰しないよう細心の注意を払いつつ、カップのままラップで包んで暖めなおす。
でも一回香りが抜けると前ほど美味しくないんだよなぁ。
ベーグルを袋に入れ四十秒レンジで蒸したら軽くオーブントースター。
前日に焼いた目玉焼き。安いときに切ってお湯でかるく茹でて冷凍していたお野菜をレンジで復活っと。
「料理が上手くなったな」ふふ。食べさせてあげていいよ?
「前日に仕込む知恵もついた」うん。食費が段違い。
「だが残念だな。私が納めてよいのはゴミだけだ」つまんない。
ベーグルサンドにコーヒー。お料理って結構楽しいね。
「米を洗剤で洗う。味噌汁に出汁を入れない。魚を焼き崩すと傍から見ていて酷いものだったがな」うっさい。
うん。美味しい美味しい。
「マヨネーズは入れないのか」うーん。……とりあえず自粛。かな。味気ないけど。
ほら、酢の物食べられるようになったんだよ。「マヨネーズも酢加減が重要だからな」
うん。今度マヨネーズ作りも挑戦するんだ。
なんか最近、組み合わせを考えるようになってきちゃった。
「いい傾向だ。前はスパイシーチキンと母上が焼いてくれた卵焼きを一緒に食べていたからな」
香りとか、味とか、組み合わせとか、味の濃い薄いとかあるよね。前は全部マヨネーズつけていたけど。
「両方あんかけにするなら別の料理になるからかまわんがな。マヨネーズでもそうだが」久しぶりに焼いてくれた卵焼きが勿体無かった。お母さんごめんなさい。澄香が間違っていました。
そういえば。
腋臭って、耳垢の匂いでわかるんだったっけ?
彼はくるくる。左右にふよふよ。
尻尾ふりふり掃除中。
「……」
聞こえなかった振りしなくていいよ? 大丈夫だもん。
「発見の目安として耳垢が湿っている。
血族に腋臭の人間がいるなど遺伝性の原因があるとも言うが、耳垢が湿るのは優性遺伝らしいな」ふうん。
ラップで脇を強く擦って臭いを嗅いで見る。……うーん。少し変な匂いかも。
「自分で気付くことは珍しいからな」だねぇ。トイレの臭いもそうだし。
最近おトイレも綺麗にしているんだ。「運気が上がるというな」掃除機が非科学的なことを。
「腋臭は思春期以降に見られる。
原因となるアポクリン腺分泌物は衣服に黄色いしみを作り、汗が大量に出る多汗傾向を伴う。
女性の場合、性器や乳輪部にも臭いがある場合がある。この場合『すそわきが』と呼ばれる。
『すそわきが』そのものが原因ではないが、その臭いは男女間のうつ病の原因となったり、
ケンカ別れの原因になりうるな」何処のカップルも悩んでいるんだ。
「新も医者だからな。お前に如何に話すか悩んでいたぞ」
癇癪もちの子供ですから。アイツからみた私は。
ふわふわ尻尾を動かし、くるくる回る彼を見ると。『踊って』
「こら。やめろ。澄香」『音楽スタート』「やめんか」ふふふ。
KPOPが流れ出す。ちょっとやかましいけど悪くはない。
「やめろというに」いやがることをあえてすることで『えんじょうまーけてぃんぐ? 』っていうらしいよ。
「何を売るつもりだッ?! 」ふふふ。
「自分で自分が腋臭ではないかと不安になって、自己臭恐怖症に陥っている者が多く見られる。
腋臭かどうかは安易に自己判断せず、形成外科、美容外科の専門医の診断を受けることが望ましいな。
あと、自己臭恐怖症が疑われる場合は、精神科医の診断を仰ぐことも必要だ」
むー。私の場合はそっち関係は『掃除機の言葉がわかりますッ! 』のほうが。
軽く悩む私の側で激しく踊るロボット掃除機さん。
くるくる! カクカク! シュンシュン! ……この変な動き、キモイかも。
「お前が選んだ選曲だッ?! 」あはは。もっとやれ。あと、何処かで見た気がする。この動き。
「ふりつけは同じだ」ぶっちゃけるな。
「一部の人気アイドルの歌を流しても同じ動きをする古い歌が」やめろ。私がけされそうだ。
「腋の臭いについてだが例によって」剃れとか言うなよ。
「言う」またかっ?! 腋はさておき、パイパンは恥ずかしいんだッ?!
「トイレットペーパー代が浮くぞ」……う……ぶっちゃけるな。この野郎。
というか、トイレの中はトイレットペーパーだらけだけど。
新には解ってもらえない。女には必要なんだッ!
しかしお金なんて限られているし。どうしようかなぁ。臭いより就職だなぁ。あれか。また明礬水さんの出番か。
「オ○ナインでも」??! あのHな軟膏か?!
「別の意味に取られるからやめろ」誰にだよっ?!
あ。転んだ。このダンスプログラムはやりすぎだね。「起こしてくれ」はいはい。
『いち。毎日お風呂に入って身体を石鹸で洗う時にワキの下を3回以上擦る。
にぃ。石鹸はしっかり洗い流す。
さん。両脇にオロナインを塗る。
これを毎日続ける。下着もその都度着替える。剃る』
……か、簡単すぎる。
「これで改善しないなら皮膚科だな」
むう。あ。でもこの間の顔そりと洗顔と同じ技だね。洗浄して消毒して適度に保湿してさ。
「そこまでは私も知らんな」むう。
今度は雑音のないインターネットラジオから優雅なクラシックを流してみる。
滑るように滑らかに、音もなく動き出す彼に微笑む私。
彼と駄弁りながら、私は手元の雑誌に載っている『……な形』の石鹸もどきの記事を見ていた。
あそこの……が良くなる。気持ちよくなる。臭いが改善……か。試すべきだろうか。
「また怪しげな通販に手をだそうと」うっさい。今度こそ本物だ。
「それは明礬を固めたものだぞ」はぁ?
「数百円の明礬を固めて五千円で売っている」……。
「体内や皮膚表面の細菌は悪臭の原因になることもあるが皮膚を守ってもいる。
洗いすぎは良くない。余計悪化する。……あと薬局でビデが買える」あるんだ?!
体質改善体質改善っと。
今日は酢の物の作り置きに挑戦だッ!!!!
私の名前は昆野澄香。
珈琲の香りを嗅ぐとロボット掃除機さんの言葉がわかる女。
最近、香りを意識して料理を作り出しました。
珈琲が前より美味しくなった気がします。