爆弾っと カフェ……体重を減らしたきゃ『太れ』
サイアクだ。うん。サイアクだ。
ウエスト。66センチ~~~~~~~~!!!!!!!!
前は、前は58センチだったのにぃぃ?!! ……腹を凹めるか、通じのいいときは。
63センチとか言うな。殺す。コロシテヤル。
思わず掃除機を睨むが、最近また増えてきたダンボールに囲まれて空しい脱出劇を演じている掃除機はあの香りがなければ無駄口をたたくことはない。
通じが悪くて、一週間とかになるとむくみも酷い。
そもそも、野郎と言うのは女の身体を誤解しているッ! お前等と違って通じが悪いんじゃあああッ!
お前等はウンコしないのかあああああっ! 私はしたいぞッ! もう八日目だあぁぁぁつっ?!
そろそろ口からしてくさくなってきて、面接官に引かれたわぁあああああああああっ?!!!!
ひとしきり周囲に八つ当たりする私の横、掃除機は散らかった部屋を綺麗にする空しい努力を尻尾を振りながら、時々コードや室内に干した下着を吊るすための洗濯ばさみを避けながら動き回っていた。
……なんだよ。私のウエストは56センチって。
嘘書くな。お前のウエストは61くらいだろう。そうに違いない。
お気に入りの冒険漫画をやっている男性用の漫画のグラビアを投げる。
巨乳で可愛いと新が夢中で、一回殴ってやった原因になったグラビアアイドルの子が71だった。
おまえらが詐欺るから、私が無駄にウエストで苦しむのだッ?!
二の腕にこびりついた、むっちり柔らかい肉に触れる。たぷたぷ。たぷたぷ。憂鬱だ。
ああ。脇の毛を処理していない。生え放題だ。面倒だなぁ。
学生時代の新が『二の腕はおっぱいの柔らかさだッ 』とか抜かして触りだし、
ビンタした昔を思い出す。あのコロは恥ずかしくてお互いキスも出来なかったな。
大学に行くようになったら……まあ。その。お互い初めてにしては、優しかった。と思う。アイツも。
偏平足に瞳を向ける。心なしかむくんで見える。
太ももも、むくみに違いない。うん。そうだ。そうなのだ。
運動不足の身体を揺らし、通販で買った埃だらけのマシンを手でどける。
運動は、明日する!
今は就職だッ 私は闘志を燃やして。
ぷち。
ブラジャーのホックが吹っ飛ぶ音。
色々吹っ飛んだ。寒いし明日ハローワークに行く。
こぽこぽ。
珈琲メーカーの音と、社交ダンスサークルに通っていたときの音楽が鳴る。
あのコロの私は、綺麗だったと思う。細いし、今よりスラリとした手足だし。
「女性と男性の主観の違いだな。新なら今のお前のほうが『美味しそう』と言うだろうな」アイツ変態だもん。おっぱい星人だし。
肥満に伴い、ちょっとブラの背中と肩がきつくなってきた。胸も少し圧迫される。
「太ももとか、柔らかい腹もな」おいっ?! 喧嘩売ってるなら買うぞッ?! 掃除機ッ?!
「私は掃除機だ。買うなら消耗品オプションにしてくれ」うっさい。
「女は美観、男は抱き心地と言う」ぶっちゃけすぎ?!
「それに、日本人女性の平均体型からすれば澄香はまだ許容範囲だ。日本人女性のウエストサイズは平均65センチくらいだからな。お前は背丈も平均と大差ない」うっさい。男にとって良くても私には気になるのだ。
「気にするなら、もう少し化粧しろ」うっさい。化粧しなくても可愛いって新はいってくれたもん。
「それは10年も前だろう。その頃の私はまだ元素にすぎない」おい。
やせたいっ! でも運動しても痩せないっ?! 「運動をしろと」
うっさい。途中で面倒になるんだっ!!!!!!!???
「そもそも、掃除機は痩せないでわからぬのだが」うん?
「澄香。お前は体脂肪率を減らしたいのか、それとも体重を減らしたいのか、通じをよくしたいのか、それとも通じも一因のあるむくみを治したいのか」全部に決まっているでしょっ?!
奇妙な沈黙。
彼が絡まったコード類をなんとか登っていこうと空しい努力を行っている。
とればいいんでしょ? ほれっ?
「まず。人間の脂肪細胞は減らないと知っているな? 」子供の時に増えて、それっきりだって言うわね。
「それは古い情報だな。今は大人でも増えるとわかっている」うげええええええ。
「体脂肪と筋肉の比率を変えたいなら、運動すればよいではないか」運動せずに体重を減らしたいんだいっ?!
「体重を減らしたいのか? 私は今まで筋肉の比率を高めたいのだと思っていたぞ? 」痩せたいってのは皆の願いよッ!
「日本人女性が痩せるのを意識しだしたのは1970年代くらいからで、健康に影響がなければそれで良いと私は思うが。太りすぎならさておき、お前の体型は男から見て『オイシソウ』と言うらしいぞ」うっさあああああっいっ?! 私の、私の黄金の体型をかえせっ! 時よッ! 巻きもどれッ?!
「そもそも、『体重を減らす』と『痩せる』は別だ。『体重を減らしたいなら太れ』」???!!!!
いま、コイツ、なんていった??!
「『体重を減らしたいなら太れ』と言った」意味解らん。
私の名前は昆野 澄香。
珈琲を飲むと、電気を取らずして電波を放つ掃除機の言っていることがわかる女。(後編につづく)
経験談に基づきますが、却って『体重が増えた』ならごめんなさい。
『肥満を解消したい』と『体重を減らす』は別物です。
前者は筋肉の比率を増やして脂肪比率を下げ、後者は身を削る行為です。
やりすぎなどには充分すぎるほど注意してください。
身を削らずとも、貴女を愛する人と共にいきるために。