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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死にかけた赤ん坊を助けた謎の旅の老人は、この赤ん坊は全く別の存在になった、と言い残した。実はその赤ん坊が育ったのが俺なんだけど、どこが別の存在なのかさっぱりわからない。

作者: 葉裏

もう最近は言葉が浮かばずに小説を書けなくなって来ました。

物忘れがひどく、簡単な言葉が思い出せず、何度も立ち止まりながらやっとここまで書きました。

内容はどうとかでなく、とにかく最後まで書いたという努力だけでも認めて貰いたいと、欲張りなことを考えています。私はかなり高齢な世代です。

生まれた時俺は死にかけた赤ん坊だったみたいだ。

放っておけば生まれて間もなく死んだ筈だった。

けれども前の晩に村長のところに一泊した旅人がいて、その男が死にそうな赤ん坊のことを聞いて駆け付けてくれたんだ。

何でも医学や魔法の修行をした人らしい。

男は相当高齢の老人だったが、俺の両親にこう言ったそうだ。

「このままではもう半時もすればこの子は死ぬだろう。それを食い止めるには、別のものを組み込む必要がある」

「そうすればどうなるのですか?」

「本来の赤ん坊だったものとは別の存在になるかもしれないということだ。それでも構わないというのなら、命を助けても良いがあまり時間がないからすぐ決めてくれぬか?」

両親はとにかく助けてほしかったので、それで構わないと言ったとか。

するとその老人は赤ん坊と2人きりになって、他の者を部屋から追い出した。

そしてどのくらい経ったかわからないが、部屋から老人が出て来ると『終わった』と言った。

両親が部屋に入ると、見違えるほど元気になった赤ん坊がいたそうだ。両親は互いに喜んでいたが、ふと気づいて老人にお礼を言おうと部屋から出たがもうその姿はどこにもなかったそうだ。

その赤ん坊こそ俺なんだが、いったい俺のどこが元々の赤ん坊と別なのかわからないまま育った。

両親も自分たちの子供と違う部分を俺から見つけようとしたが分からなかったという。

確かに生後間もなく死んでしまうところだったにしては、その後たまに風邪をひく以外に重い病気にかかったことがない健康体だというのは確かに別人枠かもしれない。

けれども運動神経やものを覚える頭の程度をみても、両親と比べて飛びぬけたものはない。

だから今の俺のどこが、本来の俺とは違うのか全く見当がつかないのだ。






(つまりそれまではごく平凡な生活をしていたために、俺の中の普通ではない部分に気が付かなかったという訳だ)





俺は山菜を採る為に村から出た森の中に入って行った。

森の木陰で薄暗くひんやりした空気を肌に感じながら、目当ての食用になるキノコを目で捜していた。

だからいつのまにか近くまで来ていたその女の子に気づくのが遅れた。

その子は立派な貴族が着るようなドレスを身に着けていたが、全体が血と泥と草の汁や種で汚れていた。

顔も髪もゴミを被っていたが、この辺で見ることのない整った顔立ちをしていたので、俺は思わずドキッとした。

年のころは俺と同じくらい。

だけど身分はかなり上の貴族令嬢だろう。

しかもその様子を見れば襲われて逃げて来た感じだ。

誰から?

暗殺者から?

じゃあ、そいつらがここに来れば、その子と一緒に目撃者の俺も殺されるだろう!

まるで体全体が非常ベルが鳴ったような感じで震えた。

その令嬢は俺が固まって突っ立っているのを見て、その柔らかそうな唇に人差し指を立ててから両手を合わせて上目遣いに頭を下げた。

そして傍らの草藪の中に体を潜り込ませた。

きっと虫に食われるに違いないと思ったがそれどころじゃないんだろう。

俺はまた辺りを見てからキノコが集まってる場所を見つけ、それを摘み始めた。

なるべく何気なく。

「おいっ」

陰鬱な声が背中に聞こえた。

怖くて振り向けない。

「女はどこへ行った?」

僕はキノコを掴んでない方の手を伸ばして、カタカタ震える腕を森の奥の方に伸ばした。

そのとき何かを振り上げる気配がして、鋭い金属がぶつかる音と男の呻き声が聞こえた。

土の上にドサッと倒れる音がしたので、ゆっくり後ろを振りかえると、折れた剣を握った覆面の男が仰向けに倒れていて、その首に折れた剣の先が刺さっていた。

首からは血がドクドクと噴き出ている。

男の体はビクビクと痙攣をおこして、目の焦点が合っていない。

気持ち悪い。

俺は胃の調子が悪くなって蹲った。

ゴボゴボと喉の奥から吐しゃ物が出て、地面に吐き出す。

「誰がやった?」

そこに違う声が聞こえた。

男の仲間だろう。

つまり暗殺者だ。

あの令嬢を狙っている暗殺者だろう。

「どうした?」「何があったんだ?」

次々と声が増えて来る。

貴族の令嬢が護衛を連れずにこんな田舎の森に来るわけがない。

その護衛たちを倒して令嬢を追いかけて来たのだろうから、相当腕の立つ暗殺者だろう。

きっと最初の奴は僕を始末しようとして斬ったに違いない。

でも何故か僕の体は岩のように固くなって、折れたのはそいつの剣で、折れた剣先が自分の首に刺さってしまったのではないか?

それなら俺は助かるかもしれない。

俺は立ち上がって、森の出口に向かって走った。

「逃がすな」「やれっ」

嫌だ、嫌だ。

来るな!

なにか金属が叩きつけられて折れるような音がしたが、とにかく逃げよう。

でも村の方に逃げては駄目だ。

村のみんなも家族も巻き添えを食ってしまう。

「逃がさん!」

俺の後ろから覆いかぶさるように捕まえて来た奴がいた。

剣が効かないなら、素手でなんとかしようとしてるのか?

「嫌だぁぁぁぁ」

俺は自分より頭二つも大きいそいつの腕を掴んで引き剥がし、その勢いで突き飛ばした。

俺の足は地面にめり込んで、そいつは空中を飛んで大きな木の幹にぶつかって止まった。

怪力?

俺は怪力になっている?

そして足が地面にめり込むほど体が重くなっている?

木に背中を打ち付けた男は口から血反吐を吐いて、そのまま崩れ落ちた。

「化け物!」「剣が!」「おのれっ」

後から続々と何人来たかはわからない。

ある奴は正面から、またある奴は背後からめった斬りに剣を打ち付けて来た。

でも剣は直ぐに折れて、俺は痛くも何ともなくて、そのうち奴らの動きが遅く見えるようになって、夢中で腕を突きだしたら……

腕が一人のお腹に突き刺さった。

腕がめり込んで、背中にまで突き抜けた?!

うえぇぇぇぇぇ、気持ち悪いっ。

慌てて腕を抜くと、男の胴体に大きな穴があいて、そこから……駄目だっ!

気持ち悪い。

俺は近づいて来る奴を片っ端から掴んで振り回したり、手足をへし折ったりしたような気がする。

連中の手足は枯れ枝のように簡単に折れて、胴体はプリンのように柔らかく、頭は卵の殻のように簡単に砕けて潰れた。

100kg近い大男もぶつかって来ても俺は撥ね飛ばされなかった。

逆に大男の方が俺に突き飛ばされると何mも飛んで行き、変な具合に地面に落ちた。

そして俺はこいつらの仲間がいるのではないかと目を凝らすと、向こうの森の木の陰に潜む奴の姿がすぐ近くにいるようにはっきり見えた。

俺はそいつが逃げればきっと村に仲間を連れてやって来て、報復に皆殺しにするに違いないと思った。

俺はそいつに向かって走った。

すると俺は信じられないくらい、猛スピードでその男の目の前にあっという間にたどり着いた。

男は手に弓矢を持っていて、俺が近づく一瞬の間に3本くらいの矢を放ったが、それは全部命中はしたけれど俺には刺さらずに弾かれて地面に落ちた。

「ぎゃああああ」

俺がまだ何もしないうちに、そいつの体の表面に赤や青で点滅する光の膜が現れて、それを見た俺が相手が俺のことを恐れているのが分かった。

男は力持ちで50kgはありそうな岩を両手で頭上に持ち上げて、俺の頭に投げ下した。

だが割れたのは岩の方だった。

俺はその片割れを手に持って男に向かって投げた。

それは男の顔に当たって、変な音がして男が倒れた。

顔は砕けて人相も分からない。

俺は、こんな死体がゴロゴロしてたら、きっとこいつらの関係者が見つけるだろうと思い、なんとか片付けることができないだろうかと思った。

すると俺の右手の前に空気の渦ができて、その男の死体をあっという間に吸い込んでしまった。

俺は元の場所に戻ると気持ちの悪い暗殺者の死体を一つ残らず同じ要領で空気の渦の中に吸い込んでしまった。

死体だけでなく、折れた剣やナイフなども全部。

ふと俺はその時初めて自分の体を見た。

どういう訳か俺の体にも衣服にも血の一滴もついてなかった。

なにか目に見えない鎧のようなものが俺の体を覆っていて、それがどんな攻撃も跳ね返したのではないのか?

しかもその鎧は100kgくらいの大男の体当たりにもびくともしないくらい重くて、その重さを俺が感じないくらい、鎧そのものが強い筋力を持っていたのだろう。

そればかりでなく、途中から相手の動きがゆっくりになって、簡単に対抗できるようになったり、獣並みの速さで走ったり、遠くの物陰で隠れている敵を見つけたり、片付けたいものを吸い込む空気の渦を出したり……俺には、確かに全く別の存在が、普段の俺とは全く別の存在が住み込んで?いるのだと確信した。

それは命の危険にさらされたときに自動的に俺に出現する能力なのだろう。

今までは平穏な毎日だったからその力が分からなかったのだと思う。

多分一流の暗殺者集団……全部で確か7人いたと思う。


そして俺ははっとした。

あの令嬢はどうなったんだろう?

俺は藪の中を掻き分けて令嬢の姿を捜した。

そして令嬢を見つけたが、彼女は気を失って倒れていた。


俺は荷物を抱えるようにその子を担ぎ上げた。

軽くてまるで籾殻もみがらの袋を持っているみたいだった。

俺は考えた。きっとこの近くに彼女を護衛していた者たちの死体があるに違いないと。

すると、不思議なことに俺の周辺の1km四方の気配が感じられるようになった。

それは視覚とか臭覚とかそういうものではなく、きっと第六感のようなものなのだろう。

なにか沢山の死体が街道の方にある気配がしたのだ。

俺はその場所に向かって疾風のようなスピードで向かって走った。

森の木々があっという間に後ろの方に飛んで行って、俺は目標に向かって僅か1分以内ほどの時間でたどり着いた。

しかも令嬢を抱えたままだ。

もし彼女が目を覚ましていたら、あまりの速さに驚いて気絶したかもしれない。

この場合初めから気絶しているので、その心配はなかったが。

馬車があって、馬は生きていた。

けれども馬車の中は侍女の服を着た女が一人首から血を流して死んでいた。

馬車の周りには矢を3本も受けて倒れている馭者風の男、使用人風の男、後は騎士と思われる男たち4人の死体が転がっていた。

そして少し離れたところに森の入り口で沢山の傷を受けた騎士の死体が2人倒れていた。

きっと令嬢を逃がす為、ここで暗殺者を食い止めていて殺されたのだろう。

俺はそう考えてびっくりした。

俺は12才の村の子どもだ。

こんな難しい推理などするような頭を持っていない。

貴族のこととか暗殺者のこととか護衛のこととか、普通に考えていたけど、そんなこととは全く無縁の世界でのんびり生きて来たただの子供だ。

あの時から今に至るまで、全く未知の世界の出来事なのに、それに対応しようとして、俺は動いている。

そして今俺はその令嬢をそっと馬車のそばに横たえて、猛スピードで村に戻った。

俺は村に戻ったら、大人たちがいる所に行って騒いだ。

「な、なんか……森の近くの街道の方で人が争うような物音や声がしてさ、なんかあったらしいよ。もう静かになったみたいだけど、怖くて様子を見に行けなかった」

それを聞いた大人の男たちが鍬や熊手を持って出て行った。

それからが大変だった。合計9人の死体と生きていた貴族令嬢1人、そして二頭の馬と馬車が無事だったので、令嬢は村人が腕に抱えて、死体は馬車に積んで村まで運んで来ると、村長が鳩を飛ばして領主に緊急報告をしたのだ。

死体を傷めると罰せられるかもしれないので、芋や根菜を入れておく雪室ゆきむろに死体を保管して領主の到着を待った。

目を覚ました令嬢はなかなか身分を明かさなかったが、とにかく村の女たちに頼んで体を清めて、体のあちこちにあった擦り傷や打撲そして虫に食われた跡を治療し、衣服も洗濯をして乾かしたが、微かに残った血の跡までには手の施しようがなかった。

馬車には令嬢の着替えがあったのが後でわかって、着替えることになったが、女たちが額を寄せ合っても貴族令嬢の服の着せ方はよく分からず、多分間違った着せ方をしたのではないかと悩んでいたという。

結局変な着せ方をしたことで後でその筋から罰せられたら大変ということで、村の少女の服で割と綺麗なものを選んで着せておいたとか。

令嬢の話だと騎士の二人が自分を森の奥に逃がすために暗殺者を食い止めていたらしいが、途中で子供に会ったような気がするがその後はよく覚えてないという。

けれども気が付いた時は村の村長さんの家で寝ていたのでいったいどうなったのかと聞いていた。

もちろん、村人たちは馬車のそばで倒れていたことを言ったが、彼女はしきりに首を傾げていたが、突然気が付いたように言った。

「そうですっ。私が最後に森の中で見た男の子。きっとこの村の子供だと思うのですけど、私くらいの歳の子で、茶色の髪と瞳の……」

そんなことを言い出したものだから、やがて俺が呼ばれて令嬢の前に突き出された。

「あれから何があったか知りませんか? 私は気絶する前に何かを見たような気がするのですが、どうしても思い出せません。あなたは何か見ませんでしたか?」

「えっ、あのう……」

「それに……私を殺そうとして追いかけて来た者たちがいた筈です。村の人たちに近くの森を捜して貰いましたが、血の跡が残っていたものの、彼らの姿はすっかり消えていてどうなったのか分からないのです。諦めて立ち去ったとは考えられないのですが」

俺はこのときはもう平凡な村の子供に戻っていた。

けれど俺は頭がまだ働いていた時に考えておいた言い訳をできるだけ簡単に言うことにした。

「俺……はお嬢さんに会ったあと、怖くなって逃げたんだ。

すると血だらけの騎士が何人かそっちの方に行くのを見たよ。その後は知らないよ」

令嬢はそれを聞いて呟いた。

「すると……暗殺者を追い払ったのは生き残った騎士たちで、その後私を見つけて馬車の近くまで運んだあと力尽きて死んだのかしら。ああ、なんて誇り高い騎士道精神なのでしょう」

やがて領主とその兵がやって来て、9つの遺体と令嬢を引き取って行った。

数週間してから、領主から令嬢を保護したことに対する褒章が与えられた。

なんと、領主に納める税を一年間免除するというものだった。

但し最後まで令嬢の正体を村人に明かされることはなかった。


それから数か月俺は全く元通りの平穏な生活に戻っていた。畑の手伝いをしたり、森へ山菜を採りに言ったり、村の子供たちと一緒に遊んだりだ。

その中には男の子同士取っ組み合いをしたり、喧嘩をしたりすることもあったが、俺は特別強くもなければごく普通に投げられたり、殴られたりしていた。

もちろんこっちも投げたり殴ったりしたが、それで相手に大怪我をさせることもなかった。

ごく普通のじゃれ合いやもみ合いだったのだ。

ところが何気ない日常を過ごしていたある日、俺は震え上がるほどの殺気を感じた。

殺気なんて、普段感じることがないし、そんな武芸の達人みたいな超感覚を持つ筈もないのだが、明らかに大勢の人間が村のみんなに向けて強い殺意を向けているのが分かったのだ。

もうこの時には、俺はあの時のような特別な人間になっていた。

俺の感覚は周囲1kmまで広げたが、まだ届かなかった。

そして最も強く感じる方向に感覚を研ぎ澄ませると、村から5kmほど離れたところにそいつらはいた。

俺は彼らの姿を見ようとした。

すると何故か見えて来た。

まるで夢を見るように、彼らの姿が浮かび上がって来たのだ。

そして彼らが話している声までも聞こえて来た。


「この先にある村が問題の村だ。

例の娘を保護したというが、暗殺者が一人も戻って来ないというのは妙だ。きっと彼らが何かをしたに違いない。村人如きに始末されるような未熟者ではない筈だが、それ以外に考えられない」

「騎士たちが彼らを下したという説は?」

「騎士たちの遺体はどれも致命傷を受けている。傷を受けてから再度戦ったという説があるが、倒れていた場所から移動した形跡はなかったのだ。つまり娘が主張する説は無理があるが、敢えてそれを否定しないのは、そういうことにしておいた方が都合が良いからだろう。いずれにしてもあの村に秘密があることは確からしいと、向こうの筋も考えている筈だ」

「すると我々のすることは村人の皆殺しですか?」

「そうだ。盗賊を装ってな」

「それでは夜が更けて村人が寝静まった頃を見計らって」

「そうだ。男は殺し、女は犯して殺す。子供は捕らえて奴隷に売り飛ばす。家はすべて燃やしてしまえ。食料や金目のものは必ず奪って、盗賊の仕業にみせなければならない。万が一逃げた者がいて後で話を漏らす者がいては困るから、言葉遣いや身なりは盗賊らしく粗末で粗野にすることだ」

「ということだ。分かったか、みんな?」

「「「おうっ!」」」

見れば彼らはそれぞれが貴族の抱える私兵のように見えるが、集会の後、早速粗末な服に着替え始めた。

中には顔に汚れをつけて徹底して変装している者も。

俺は彼らの潜む場所に急行した。

数十分後にその場所の近くに着くと、暗くなるのを待っていた。

辺りが暗くなると見通しが悪くなる。

なんとかよく見ようと目を凝らしていると、突然夜の景色が昼間のように明るく見えるようになった。

これも俺とは別の存在の力なのか?

やがて夜も更けて来て、彼らが動きだした時に、俺が最初にしたことは彼らが脱いで行った服や鎧などを隠すことだ。

これで彼らは完全に盗賊と見なされて、貴族の私兵に戻れなくなる。

隠すのは例のごとく空気の渦の中に吸い込むことで解決した。

剣などもいくらか残っていて、代わりに盗賊っぽい斧や鉄棒を持って行ったのだろう。

とにかく一時的なアジトにしていた場所に隠しておいたものはすべて没収したのだ。

その後で俺は自分の村と自分の家族を守るために奇襲作戦を始めた。

俺は彼らの周辺から近づき、一人ずつ撲殺するようにした。

死体になれば俺の亜空間の中に収納できるので、持ち物も含めて完全に姿を消すことになる。

撲殺にも若干鈍い音がするが、悲鳴を上げる暇もないので、気づかれにくい。

知らないうちにあちこちから人間が消えて行くことになり、だんだん周囲が騒ぎ始めた。

けれども彼らは松明に火をつけて歩いているのでその明るさに目が慣れて、暗闇の中は見えない。

俺は一瞬近づいて行って、頭部を中心に撲殺し隊列から引き離しつつ、死体を収納する。

そして、今度は別の場所からターゲットを選んで襲う。

何者かが闇の中から仲間に襲いかかって連れ去るが、明かりを照らしても誰も見つからない。

そして

気が付いた時には、リーダーとその補佐をしていた副リーダーだけになったとき、俺はその二人を気絶させてから目隠しをして縛りあげた。

「おい、起きろ」

川のそばに連れて行って水をかけるとめざめさせた。

「な、なんだ? 子供の声だな。さては怪しげな精霊なのか?」

俺はこの反応を利用することにした。

「怪しげなとは失礼な人間だ。怪しげなのはお前たちの方だ。この森を血で汚した7人の人間たちの仲間だな?」

「もしかして彼らを始末したのは、貴様か?」

「口の利き方を知らない人間は困る。いかにもあの人間たちを消したのは吾輩だ。

そしてお前たちと一緒に来た人間も吾輩が消した」

「き……あなたはいったい何者なん…ですか?」

「この森の主だ。今度はこっちから聞く。お前たちに村を焼けと言ったのは誰だ?」

「それを言う訳にはいかない。それを言えば俺たちが消されてしまう」

「ふん、そうか。それじゃあ、お前は戻ってそいつにこう言えば良い。村を焼けば森もただではすまない。こんどそういうことをすればお前も消すとな」

「えっ、じ……じゃあ、俺たちの命は助けてくれるのか?」

「ふん、どうせこの任務に失敗したお前たちの命もどうなるか分からんがな。ここで死ぬよりはまだましだろう。縄は切っておいたからさっさとね」

「「あっ」」

彼等は縄が解けているのに気が付き目隠しを外してアジトの方に慌てて戻って行った。

戻ったところでそこには何も残ってないというのにだ。




それから暫くして立派な馬車が村に来た。

今度は護衛の騎士が馬に乗って十数名ついている。

俺が想像した通り、あの例の令嬢が馬車から降りて来て、俺の家の前に立った。

両親や兄弟も慌てていたが、令嬢は俺だけを呼んで、村の外れまで着いて来るように言った。

少し離れて護衛の騎士が3名ほどついて来る。

令嬢は彼らに聞こえない程度の低い声で言った。

「えーと、君の名前を聞くのを忘れていたね。私の名前はシャルロッテという。ロッテとでも呼んでもらおうかしら」

「俺の名前はノームと言います」

「土の精霊と同じ名前ね。農家の子どもらしい名前だわ」

「うん……良い畑が作れるようにと父ちゃんがつけたんだ」」

「実は思い出したの、わたし。気絶する前のこと」

「……」

「私の行方を聞いた追っ手の男が君に聞いた後、口封じのために君の背中に剣を振り下ろしたことを。

私は同い年の君が殺されたと思って、そのとき気を失ったのだと思う」

「……」

「でも君はあの後生きていた。ほかの追っ手も多分すぐにやって来たと思うけど、確か私の記憶では7人いた筈だけど、7人とも姿を消していた。

沢山の血だまりを残してね。

そして君だけが生きている。

まだあるよ。あの時君は私の質問に答えて傷を負った私の騎士たちの姿を見たと言ったね。

最初私は騙されたけど、それはあり得ないことよ。

騎士たちは馬車のそばで殺されてその場所から動いた形跡がなかった。

森の入り口で死んでいた2人の騎士もそうよ。

だから追っ手を始末したのは騎士たちではない。

では誰が彼らを始末して私を助けたのか?君には分かる?」

「……はい、たぶん」

「では正直に話して」

「けどロッテさんは精霊とか信じるかい?」

「精霊?」

「この森には主がいて、自分がそうだと言ってた。体は子供くらいの大きさだけど、凄い力で……あの追っ手を一人ずつ消して行った」

「消したって?」

「うん、追っ手は死んだあとすぐに消えたよ」

「その森の主はどんな姿?」

「それがはっきり覚えてないんだ。思い出そうとすると頭が混乱して分からなくなる。子供みたいな声で体の大きさも子供くらい。分かるのはそれだけ」

「すると私を馬車の方に運んだのは?」

「それは分からない。僕は森の主が暴れている最中にそこから逃げて、村の人たちに知らせたから」

「おかしいわね。君は街道のできごとを知らなかった筈なのに。どうして村の人に馬車が襲われたことを教えたの?」

「……襲われたかどうかわからない。

俺は見てないから」

「じゃあどうして村の人たちに」

「精霊が言ったんだよ。街道の方で人が死んでいるって」

「ふうん……話を戻すようだけど、どうして傷ついた騎士たちを見たって嘘をついたの?」

「それは謝るけど、それも精霊に言われたんだ。もし聞かれたらそう答えろって。きっと精霊は自分のことをあまり知られたくないからそう言ったのかな?」

「……」

ロッテさんとの話はそこで終わったように思えた。

荒唐無稽な話だが、そう思って納得して貰うしかない。

「分かったわ。それじゃあね。ノーム」

ロッテさんは俺に背を向けて馬車の方向に歩き出した。

けど途中で引き返して来て、俺の耳元に囁いたんだ。

『森の主が実はノーム、君だったってことはないよね?』

俺がそれを否定する前に素早く彼女は離れて行った。

俺はただその後ろ姿を見送るしかなかった。

貴族の令嬢というのは勘が鋭いから恐ろしいと思った。


この件はもうそれ以上の後日談はない。


シャルロッテがどういう貴族の令嬢か、彼女を狙った存在は、どういう目的でそれをしようとしたのかも、とうとう分からないままだった。

もっとも俺がそれを知ったところで、意味がないのだが。

俺は山奥の断崖絶壁の上から、今まで吸い取った死体を全部吐き出して捨てた。

断崖の下はトカゲや蛇やネズミの巣がたくさんあり、たちまち死体は食い荒らされて骨だけになってしまうだろう。

それ以来俺はずっと平穏な毎日を過ごした。

いや、必ずしも平穏だったわけではないが、それもありのままの俺で対処できる内容の出来事だったから、あえて平穏と言っておこう。


ある日大人になった俺に向かって母ちゃんが言った。

俺のことをつくづく眺めながら言ったんだ。

「ほんとうに。お前のどこがお前とは全く別のお前なんだか? 恩人の悪口を言う訳ではないが、あの旅の爺様はなんで全く別のものになるとか変なことを言ったんだろう?

お陰でこっちは長い間、ひやひやして過ごして来て気が休まる暇がなかったよ。

いつ全くの別人がお前から現れるのかってね」

そう言うと母ちゃんは俺の娘……つまり自分の初孫を抱いてあやしていた。

まあ、俺はこういう訳で平凡で平穏な生活をしている、ただの村人をっている。 

ここまで書くのに、何度も言葉を調べて書きました。

少し前までは簡単に浮かんだ普通の言葉も3歩歩けば忘れる毎日の中で書きました。

読んで下さった方も大変でしたかもしれませんが、私も大変でした。

それでも何か書きたいと思って書いたので、面白くなかったとしてもそれは言わないでください。


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