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「もー、いつまで見てるのよ」
昔、私の拙いお絵描きを見るのが大好きな子がいた。
その子は小学生にしては大きめの身長で、長めの黒髪が似合う、ちょっとおしゃべりが不得意な男の子だった。
彼はへらりと不器用に微笑んで言った。
「スイちゃんの」
「うん?」
「スイちゃんの描くあとを見てるのが好きなんだ」
「……ふーん」
小さいながらに自尊心というものを持ち合わせていた私は、当たり前に嫌な気はせず、緩む口をなんとか抑えていたのを覚えている。
彼の指す描くあとというのは、その時は難しくて分からなかったけど、今ならわかる。
確かにあの時の私は、魔法の手を持っていた。
未来に不安などなく、迷いなく紡ぐ。鮮やかに世界を彩る手を。
そして、自分が知らない自分のことを認めてくれる、今も煌めく思い出をくれた彼に、私は生まれて初めて恋に落ちたのだ。