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1.絵の具のようにカラフルな


 ふふ、と優しい声が聞こえた。


 私はその声の心地よさにまだ眠っていたいような気がして、寝返りを打った。まるで天上にいるかのようにふわふわとして、かつ光に包まれている感触なのだ。そう、これは有給をとって三連休にしたうちの一日目の朝みたいな。


 それはなにより、でも大事な話があるんだよねえ、とその光の正体が困ったように呟いた、ような気がした。


 とんとん、と揺さぶられて、最初のうちは無視を決め込んでいたがまだ続く。いい眠りを妨げられたことに少し凶暴な気持ちを覚えつつ私は瞼をこじ開けた。


 

 「おはよう。よく眠れたかな?」


 そこにいたのは、というかちょっと後光が差しすぎててよく見えないが、光に包まれた何かだった。人のような形をとっているが、周囲の背景も白まみれなので何が何やら見えない。人並みの警戒心はあるので、姿の見えない不審者相手に私はしっかりと起き上がった。


 「おはようございます。ところでここは……というかあなたはどういった方なんでしょうか」

 「一番気になるよねえ。その質問に答える前に。君は、これまでの記憶を保持しているのかな?」



 問われてツキンとした痛みと共に思い出した。そうだ、私は。


 「死んだということは覚えています。ただ、どういう経緯を辿って死んだかまでは定かではなく、徐々に全身の力が抜けていって……」

 「いいよ。君にとって思い出すことは苦痛を伴うだろうし、それ以上頑張らなくても」

 「は、すみません」


 自分でも知らぬうちに顔色が悪くなっていたのだろうか、光は優しく思考を遮ってくれた。そしてきらきらとした何かが私の頭に降りかかったと認識した直後、なんだか体がすっと軽くなった気がした。

 というかもはや現在の私に体と心というものがあるのかは微妙なところだが、私自身、死んだ時の体のままに見えているのだ。不思議なことに。

 このきらきらはなんだ、と思考を巡らせていることすら読み取れてしまうのか、光が苦笑した気配を感じる。


 「まあ、いろいろ聞きたいことはあるだろうけど、これだけは言っておくよ。

 私は君たちの言うところの神様だ。だが君が死ぬ、ということは変えられない」


 想定内だった私はそこまで驚きはしなかった。いかにも神様っぽい見た目だったし、後者についても人の生死を司ることのできるほどの神様にあい見えるというのはなかなかレアなことなのではないだろうか。ただ、そうであるならばこの神様はなぜわざわざ私に声をかけてきたのだろう?


 「スイは冷静だねえ」

 「神様はやはり私の名前もご存知なのですね」

 「それどころか君の人生まるっと全部見てきたよ、その上で君が気に入ったんだ」


 ぴんとこないだろうけど、といわれるが確かに、私のどこに気にいる要素があったのか分からない。

 私は人生においてずっとチャンスを逃し続けていた。

 有名なスポーツ選手が言う、神様に好かれるような振る舞いを意識してしていたわけでもなし、淡々と日々を消化していただけなのだ。


 神様がにこりと微笑んだ気配がした。



 「君たち人間がどう思おうと愛するものは私たち神が決める。そして、私が気に入ったのは君の根拠のない自信だよ」

 「はあ……」

 


 理解させる気もなさそうな神様の言葉に相槌だけを打っていると、光しかない空間に少しさざ波が見えた。


 空気を揺るがすそれは、早くしろと急かしているような雰囲気を感じさせる。淡い青や桃色が混ざり始め、混沌とした空間になってゆく。



 「残念、時間切れ。君ともう少し話していたかったけど、それは君が長い旅を終えた後にしようか」


 最後は私のもとに戻ってきておくれよ? なんて言いながら私はなぜか体が作り変わっていくかのような感覚を覚えていた。


 「え? 私今何も説明されてませんけど、これから何が起こるんですか!?」

 「うーん端的に言うとね、君の強く望んだ過去に飛んで可能性を見つける旅をしてきてほしいんだ」

 「全く意味がわかりません! あとなんか、私、小さくなってないですか?」

 「あ、本当だ、かわいいねえ」

 「そんなこと言ってる場合じゃ」



 ない、と言おうとしたところで、私の意識は光の渦の中に消えた。




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