死と言うもの
それから私は乗馬にハマり毎日乗馬をしに行った。フレイは毎回私の後ろに一緒に乗ってくれた。
時々、フレイだけ馬に乗ってもらい、草原をかけてもらった。いつもと違うフレイを見ているだけで、楽しく、生きる気力が湧いてくる。
1日中馬に乗っているわけではない。午後は昼食を食べに街の中心部へ戻る。デートのように街中を歩き回り、入りたいお店に入る。フレイに毎回欲しいものがあるか聞かれるが、あまり物欲がある方ではない。それに物を買ったところですぐに使わなくなる。それならちゃんと使ってくれる人に買ってもらった方が品物も喜ぶだろう。
「あれ何!?」
私が指差した先には市役所よりも、もっと大きい建物。人々が出入りするが、男性が多く見られる。建物中からは叫び声にも似た歓声が湧き上がっている。
「闘技場ですよ」
「おお!!」
異世界でしか見れない……いや、もしかしたら闇の世界では見られるのかもしれないが、ぜひ見てみたい。
「みたいんですか?意外です」
フレイに引かれたにはちょっと寂しかったが、見てみたいものは見てみたい。目を輝かせてフレイを見つめると、フレイも「わかりました」と一緒に入ってくれた。
フレイに連れられ、建物の中に入ると、受付のところに男たちが群がっている。
「あの人たち、なんで並んでるの?」
「ああ、誰が勝つか賭けているんですよ」
「へぇ」
賭け事はあまり興味がないので通り過ぎ観客席に向かう。階段を上がり広けたところに出る。見下ろすと男が2人武器を持って戦っている。1人は両手で短剣を持ち、もう1人は体の半分くらいありそうな細長い長剣を持っている。
その周りには観客席が取り囲んでおり、剣を振り下ろすたび地響きが起きるほどの歓声と悲鳴が起こる。耳を塞がないと鼓膜が破れそうだ。
私たちは空いている席に腰を下ろし、2人の男の戦いを見守る。
2人の動きは凄まじかった。剣道の試合は見たことがあったが、そんな生易しいものではない。生死を伴う試合というのはこのようなものなのか。
短剣を持つ男は長剣をすんでのところでかわし、長剣を持った男は剣を上手く回すことにより短剣の男を近づけさせない。
「すごい……」
男たちの動きに言葉が漏れる。一時も目が離せない攻防が続き、ついに決着の時が来た。
長剣を持った男の剣が一瞬の隙をつき、短剣を持った男の首をき──ったと思った時、フレイの手が私の目を覆った。「こんなもの見る物ではない」と告げた。
それでもフレイの手をどかし戦いの後を見ると、短剣を持っていた男が首から大量の血を流しうつ伏せに倒れている。
死体はドラマとかではよく見るがこれは本物だ。嘘偽りのない「死体」なのだ。フレイに目を覆ってもらって良かったかもしれない。確かにこんな物見る物ではない。
私はどんな死に方をするのだろう。あんな風に首を切り裂かれるのか。鈍器で殴られたり、毒を守られたりするのかもしれない。少し怖くなってしまった。死への恐怖ではなく死に方への恐怖が勝る。
顔が青ざめブルブルと震え出すと、フレイが肩を抱いてくれて闘技場を後にした。
近くの公園のベンチに座り、フレイが近くの屋台で売っていた果物のジュースを買って来てくれた。フレイはジュースを渡してくれると隣に座り心配そうに顔を覗き込んだ。
ジュースを一口飲む。柑橘系の香りが鼻を抜けるが、リンゴジュースのようなさっぱりした甘味がある。
「落ち着きましたか?」
「あ、うん……ありがとう」
夕焼けが公園を照らし近くの噴水が黄金色へと姿を変え、心地よい風があたりを包み込みこむ。
目を閉じ深呼吸をすると、都会の雑踏とは全く違う平穏な時間の空気を感じる。
「平和だなぁ」
そう呟くとフレイは微笑み立ち上がった。
「そろそろ帰りましょうか」
そう言ってフレイは手を伸ばし私はその手を握りしめ立ち上がった。