元カノ
牧場を後にし、隣にはマントを靡かせ歩いているフレイ──
「あのさ……マントがないとダメなの?コンパクトにバッチとかあれば良くない?邪魔じゃないし」
「ありますよ。これ」
マントを捲り上げ腕にある腕章を見せる。──あるんかい!!
「じゃあ、そのマントどうにかして……」
「カッコよくないですか」
「ダサい」
フレイが涙目でマントを外す。
「じゃあ、持ち歩くのも大変なので、役所に置いてきてもいいですか?あまり着ない方が良いみたいなので」
「そうだね」
フレイは悪態をついたつもりなのか、私があっさりと返すと肩を落とし役所の方に足を向け歩き出した。
うん、やはりマントをつけない正装の方がカッコいい。私は知らずにニヤニヤしながら歩いていた。
役所に着くと死神科に向かう。当然私もついて行く。
「フーちゃん♡」
死神科に居た女の子がフレイに駆け寄ってくると飛びついて抱きついた。──何!?
「フーちゃん久しぶり〜。会いたかったんだよ♡やっと前の人終わったの〜」
「その名前で呼ばないでください。僕の担当の人もいるので離れてください」
フレイは首に回された腕を振り解き、今までに無いくらいの冷静さで抱きついてきた女の子に冷たい視線を送る。
女の子はフレイの背中越しに顔を出し、私を見て不機嫌な視線を向ける。──可愛いそして胸がデカい。男でなくても最初に胸が行くだろう。
「え〜、じゃあ、その人が終わったらデートしようね」
終わったら、とは死んだらの話だろう。あまりそう言う話は聞きたくなかった。視線を落とし目頭が熱くなる。
フレイは何も言わずマントを自分の机に置くと死神科を出る。「行きましょう」と声をかけられて、私もハッとしフレイの後について役所を出た。
「すいません……悪気があって言ってるわけでは無いと思うのですが」
いや、あれは明らかに私に喧嘩を売っていた。
「あの子は?」
「死神科の同じ外回りをしているミルフィーナ・ローズです」
「それだけ?」
私の問いに「それだけとは……?」と平静を装ってはいるが何かを隠している。
私はジッと見つめているとフレイは深呼吸のようなため息をついた。
「前に付き合っていた彼女です」
「前のって事は別れたの?」
「忙しいのであまり会えなかったし、僕があのテンションについていけなかったので別れました」
──ホッとした……。なんで……?ミルフィーナにフレイが抱きつかれた時も胸が苦しくなった。
今は私の隣を歩いてくれている。今は……。
「この近くに雑貨屋さんがあるんですが行ってみますか?」
「うん。行ってみたい」
下を向いて歩く私に気を遣ってくれたのだろうか。手首を握ると小走りで走り出した。そこは手が良かったなぁと思いながらも、手首からフレイの手の温かさが伝わってくる。
それでも、すぐに雰囲気を読まずハァハァと息を切らすところはフレイらしい。
雑貨屋はお洒落なアンティークやおもちゃもあって色々なものが並んでいた。お香だろうか、独特な香りを漂わせる不思議な雰囲気だ。
私はフレイと並び一緒に品物を見て回ると、おもちゃが並んでいる場所で不思議な形をした木の置物があった。幾何学的な形をしており、指で押すと簡単に形が変わる。
「何か欲しいものありますか?」
「これ……」
隣で覗き込んできたフレイに持っていた置物を見せる。
「あ、それはパズルですよ。それを正方形にするんです」
「へー」
やってみるが、どんどんと形が変わり正方形どころか蛇のように長くなってしまった。
フレイが腹を抱えて大笑いしたのを初めてみた。私は悔しくなり、そのパズルを買ってもらい宿に持ち帰った。
「8歳くらいの子ができるパズルですよ」
「やった事ないもん」
「僕も久しぶりですが、3分以内に完成できると思いますよ」
「へーじゃあ、やってみてよ」
フレイは部屋にあった椅子に座ると机に向かいカタカタとパズルを解き始めた。
私は後ろから覗き込むようにパズルを見るふりをしてフレイの肩に胸を当てる。当てると言っても触れる程度だ。フレイが触れているとわかる程度。フレイが当たってますと言えないギリギリで押し付ける。
フレイのパズルを解く手が遅くなった。肩に集中力を持っていかれているのだろうか。
どんどんと時間が過ぎるがパズルは一向に完成に近づかない。フレイの耳も真っ赤だ。それでも言わないと言う事はやっぱりムッツリだな。
「あれー、なかなか揃わないねぇ」
「ちょっと久しぶりなので……」
焦って手に汗をかいている。ちょっとかわいそうになってきたのでフレイから離れベッドに腰掛け見守ると、1分かからずに完成させた。見事なものだ。フレイも私の方にパズルを向けてドヤ顔をしている。可愛いやつだ。
「今日もお風呂行ける?」
「そうですね。いきましょうか」
「混浴とかないの?」
フレイはパズルに疲れたのか水をがぶ飲みしていたのでゴホゴホと咳き込み「ありませんよ!!」叫ぶ。
ムッツリだけどウブだな。そんなフレイを見て愛おしく思ってしまったのは内緒だ。