男として……
宿に帰るとドッと疲れが出てきてしまった。フレイも同じらしく瞼を開けているのが精一杯という感じだ。部屋のランプを消すと月明かりで意外と明るい。フレイは横になるとすぐに眠りについたようだ。
私もその可愛い寝顔を見ながらベッドに入り眠りについた。
朝食をとっている時、私が「馬に乗ってみたい」と話すと、フレイは街外れの牧場に案内してくれた。ここでは乗馬体験ができるらしい。現代世界でも乗馬はしたことがなかったので少し楽しみだった。
牧場に着くと牛や馬が放し飼いにされていた。
「おお!!いっぱいいる〜」
「ここは王都の馬兵に馬を供給しているので、馬は結構な数いますね」
「そうなんだ」
フレイは牧場主のところに案内してくれた。
近くに馬が寄ってきたので、撫でてあげると馬は気持ちよさそうに首をもたげる。フレイは一歩下り見ているだけだ。牧場の真ん中に掘立て小屋が建っている。牧場主の男は部屋で事務作業をしていた。
「いらっしゃいませ。旅の支度で?」
手を擦り合わせ下手に出ている男は金にうるさそうな男だ。偏見かもしれないが。
死神が馬を見に来るということは、ほとんどの場合、旅のために馬を買っていくようだ。なので死神はお得意様なので胡麻もする。
「あ、いや、すいません。乗馬の体験をしたくて」
「乗馬……だけですか?」
「はい。買わないんですけど、いいですか?」
まさかお得意様にダメとは言えないが、男主人の顔は明らかに歪み機嫌が悪くなっている。その顔のまま放し飼いにされている馬のところに案内される。
「この馬は大人しくて乗馬には最適ですよ」
馬は私たちを見て明らかに気性が荒くなり、どう見ても乗馬に最適とは思えない。フレイは最適と言われ「よかったですね」といっている。人を信じすぎだ。男主人は馬を大人しくすると「どうぞ」と乗るように促す。
私は鐙に足をかけると鞍に腰を落とした。すると突然馬が暴れ出し全力で走り出す。馬の止め方も習っていない。手綱を離し馬の首に腕を回し全力で捕まるしかない。
「大丈夫ですか!?」
フレイが馬に乗って並走している。鞍が乗っていないので、その辺の馬を捕まえて飛び乗ってきたのだろう。
「大丈夫じゃないよぉ!!助けてーーー!!」
「そのまましっかり掴まっててください!!」
フレイは走っている馬の上に立ち上がり、私が乗っている馬に飛び乗って手綱を引いた。
馬は「ヒヒーーン」と鳴き声をあげ、ゆっくりと止まった。
「大丈夫ですか?」
「こわかったよぉ〜」
「このまま、少し散歩しましょうか」
フレイは後ろから手綱を取り、牧場の周りを小走りに走る。心地の良い風が頬を撫で、後ろを向くといつもフレイがいつもと違って逞しく見える。
それにしても、馬から馬へ飛び移るとか、どんな運動能力してるんだ。思っている以上に能力高いのか。
「馬乗れたんだね」
「一応、この国のメインの交通手段ですからね。死神試験に馬に乗れることが必須になんですよ。旅に出る方も多いですからね」
なるほど。体力と持久力がないだけで、運動神経はズバ抜けて良さそうだ。それにこの甘いマスク。よほどモテるように見えるが、女が騒がないのはこの仕事のせいもあるのだろうか。
ちょっと頼りないところは、母性本能が働くのでプラスということにしておこう。
散歩も終わりに近づき男のところに戻ってきた。男はここまでなるとは思ってなかったらしく、半泣きで土下座をしてきた。
まぁ、怪我もなかったし、珍しいものも見れたので良しとする事にした。
馬から降りる時、子供のように抱っこして下ろしてくれた。
色白で細くてナヨナヨしててもやっぱり男なのだと……初めて男として認識してしまった。