死神
「とりあえず何がしたいとかありますか?」
アニメや漫画でしか見たことのない街並みを歩きながらフレイはが質問してきた。
「そうだなぁ。こっちの人と恋愛してみたいかな」
現実世界ではそれなりにモテた。表参道を歩けばスカウトマンがモデルに興味はないかと声をかけてくるほどだ。
しかし付き合ったのは人生で1人だけ。自分で言うのもなんが高嶺の花なのか、高校や大学では男の子から声をかけられることが少なかった。かけられたとしても、パーティーピーポーのような物怖じをしないバカばかりだ。
「頑張ってください!!」
「……夢を叶えてくれるんじゃなの?」
「僕は魔法使いではないので……。人の気持ちはご自分でどうにかしていただかないと……」
確かにその通りだ……がっかりだわ。
「この世界に飛ばされてばっかだし、何していいのかもわからないんだよね。どっか案内してよ」
「そうですね。わかりました」
フレイが先に歩き出したので横に付いて歩く。街は英国を思わせるような、それでも異世界を感じさせる不思議な風景だ。街ゆく人が私に注目しているようにも見える。──私が可愛いからか?
そういえば、明らか人々の顔つきは英国顔なのに言葉が通じる。やはり夢なのではと、夢であってほしいと思ってしまう。
街の中心部であろうところに着くと、露店が並び所々から良い匂いがする。お腹がいっぱいなので食べられないが、次食べるときはここでと思い一つ一つのお店を見て回る。
フレイは私の足取りに合わせながらも足を止めることはなく歩き続け、大きな建物の前で足を止めた。
「ここは?」
「僕の働いている職場です」
どっかとはいったが、職場に案内するとは……。
とりあえずせっかく案内されたので中に入ってみと、カウンターがあり書類のようなものを受け渡ししている。
「この正面が総合案内で、向こうが納税科になります。僕が働いている死神科は2階の奥になります」
この世界にも納税はあるのかと感心してしまう。死神はお役所仕事だったのか……。通りでお堅いわけだ。
2階に案内され、死神科の前につくと、他の科とは違い、どんよりしている空気が流れている。
「あれ?アルドナードさん。その方は?」
「僕の担当するカンナさんです」
「ああ、例の……」
1人の事務員の男が声をかけてきたが、それ以上の会話はなく自分の仕事に戻っていった。死神科はあまり好かれる仕事ではないらしく、苦情を言いにくる人や手紙がひっきりなしに送られてくる。それを処理するのも仕事のうちらしい。まぁ、普通に考えてなりたい仕事ではない。
一通りお役所を見て周り外へ出た。結構時間は潰せたものの、やはりやりたいことは見当たらず宿を見つけることにした。
フレイに案内されてついたのはそれなりに大きいホテルで外観も綺麗だ。中に入ると受付に立っていた若い女が「少々お待ちください」と奥の部屋に入っていく。
「宿屋は死神部屋と言って、僕達用に決まった部屋が必ず用意されているんですよ」
それはわかったが、そのネーミングセンスをどうにかした方がいいと思う。
案内された部屋は名前に似つかず綺麗にされており、おしゃれなインテリアまであった。最高級とまではいかないが良い部屋を用意してもらえた。
「──フレイはなんで死神になろうと思ったの?」
「……そうですね。公共の仕事の中では1番なりやすい仕事だったので」
この世界では死神は公務員のようなものらしい。ならいい給料ももらっているのだろうな。
本人は体力がないので役所の中で仕事をしたかったらしいが、苦情の処理があまりにも出来なすぎて外回りの方に回されたらしい。
「私って30日後に死ぬんでしょ?どうやって死ぬとか教えてよ」
「すいません。それは、僕にもわからないです」
「じゃあ、私が死ぬって言うのはどうやってわかるの?」
「企業秘密ではあるのですが、役所に手紙で30日後に死ぬ人のリストが1週間前に送られて来るんです。その中には稀にカンナさんのような違う世界から来た方も含まれています。本当に稀で50年に1度あるかないか位みたいです。
どこから手紙がくるのかは役所の上の方の人もわからないらしい。私は「ふーん」と相槌を打ちベットに寝っ転がる。
夕焼けが赤く染まり、薄暗い部屋が赤く染まる。疲れているせいもあったのか、私は目を瞑ると深い眠りに落ちてしまった。
***
目が覚めると部屋は明るくなっており朝だということはわかった。
「うわー、なんか寝落ちしちゃった……。なんか人生無駄にした気分……」
独り言を呟き隣のベットを見るとフレイがまだ寝息を立てて寝ていた。初めて男と夜を明かした……。何もしてないが……。何もされてないよな?
ハッと自分の姿を確認する。多少の衣服の乱れはあるものの、寝たときのままで何かをされている形跡はない。──んー、逆にちょっとショックというか……。
時計も無いので何時かわからなかったが、お腹も空いたので宿を出て昨日の中央広場にあった露店を回ることにした。広場はホテルから歩いて5分ほどの所にある。天気もいいので街の風景がより一層綺麗で美しく彩られている。
広場に着くと、多くの人々が露店の前のテーブルにつき食事を楽しんでいる。
お腹もグーグーなるので、露店に近づきめぼしい食べ物を探す。──よく考えてみたら、お金持ってないな。フレイがいなかったら何も食べられないことに気づき、フレイを呼びにホテルに戻ろうとすると女店主が「おやっ」と声をかけてきた。
「珍しい服を着てるね」
「え、あ、そうですかね」
「そんな格好だと目立って仕方ないだろ」
確かに、広場を見渡してみて改めて感じる視線。私の美貌のせいではなく、この服のせいだったか。
別に特に変わった服装をしているわけではない。ジーパンにTシャツ、パーカーといった、むしろ地味めな格好だ。食事より先に衣服の調達を先にした方が良さそうだ。
「この辺に洋服を売ってるところってどこですか?」
「若い娘が着る店ねぇ。そこの通りをまっすぐ行った右側にリリアンって店が若い娘に人気だよ」
女店主に道を教えてもらい「ありがとう」と礼を言い広場を後にする。
案内された道を歩いていると、突然後ろから肩を掴まれた。変態に捕まったとドキッとして振り返ると、フレイが息を切らして今にも倒れそうになっている。
「な……ど、いって……ですか……はぁはぁ……」
息が上がってほとんど聞き取れないが、なんでとか、どこに行ってたんですかとか、そんな事を言いたいのだろう。とりあえず、フレイを道の端に連れて行き息を整えさせる。
「大丈夫?」
「はい……体力なくて……」
「だねぇ。……あ、今日はマント着てないんだね」
フレイは「あっ」と声をあげ頭を抱えた。ホテルに置いてきてしまったのだろう。よほど私がいなかったことに焦ったのか。しかし、マントがないと服は買えないしご飯も食べられない。仕方がないのできた道を戻りホテルに帰ることにした。
「なんで起こしてくれなかったんですか!?」
「なんで、お母さんみたいな事しなくちゃいけないの……」
部屋に着くとフレイが半ギレで怒ってきたので、ため息をついて返した。
「フレイがいないとご飯も食べられないんだから逃げるわけないじゃん」
「逃げるとは思っていません。僕がいてもいなくても……変わりませんから」
「死」という言葉を使わなかったのはフレイの配慮だろう。
しかし、改めて「死」という言葉の意味を理解する。嘘であってほしいが、フレイの言葉の間が現実を突きつける。
あと、残り少ない人生、私はどう生きればいいのだろう。