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死にゆく者

 


「15歳の誕生日にも、成人の式の日にも帰ってきませんでした……。死にゆく者の軌跡を辿って捜索したのですが、増水した河に流されたか、崖崩れに巻き込まれたのだろうと捜索が打ち切られました」

「死にゆく者は……?」

「死にゆく者は30日の余命なら30日後に必ず亡くなります。どんな事件事故が起こっても軽症で済んでしまうんです……でも、死神は普通の人間ですから……」



 捜索する頃には死にゆく者は亡くなっていて死神の事は聞けなかったらしい。立ち寄った村で話を聞いた村人に話を聞くと、「1人で旅をしてみたかった」と話していたという。

 もしかしたらその人が死神を殺したのか──と、疑ってしまう。しかし、本当のことはわからない。



「だから……。カンナさんも僕の前からいなくなるでしょ……」

「……」

「ミルフィーナの事は本当に何にも思わないんです。ただ……これじゃダメだと思って……人を愛せるように……ミルフィーナを利用したんです」



 フレイはわざと自分を卑下するような言葉を使った。もちろん、自分を愛せたら人も愛せるようになる。多分それも間違ってない。でも自分にはそれができない。フレイは人を愛せたら自分を愛せるようになると思ったからミルフィーナと付き合った。でも、ミルフィーナにはフレイを変えることはできなかった。自分なら──。



 「私はいなくならない」なんて軽い言葉は使えない。そんな簡単な気持ちで付き合ってもらいたくもなかった。

 人間は本当に勝手な生き物だと思う。自分が仕事でもいいと思っていたのに、いざ付き合ってもらおうと思うと本気で愛してほしい。自分を1番愛してほしい。それが人間の本能なんだと思う。



 


 公園に静かな時間が流れる。さっきまで聞こえていた可愛い小鳥の歌も聞こえなくないり、代わりに近くの池の方からカエルの鳴き声が聞こえてくる。

 フレイが胸ポケットから、あの細い細工の施された懐中時計が取り出された。私の命を示す忌まわしい懐中時計。フレイが時間を確認するとまたポケットにしまった。

 普通に時間を確認しただけか、それとも私の命の時間を確認したのか……。




「ちょっと待っていてもらえますか?」

「え?あ、うん」



 フレイはベンチから立ち上がると、公園から出てどこかに消えていった。フレイがいなくなると、カエルの鳴き声が余計に耳につくようになり、目を瞑ると田舎のおばあちゃんの家に行ったような気分になる。

 



「みんな元気かなぁ……」




 特に両親と仲が良かったわけではない。鍼灸の専門学校を卒業し東京にある鍼灸院に就職するために地元を離れ一人暮らしを始めた。 

 人々を助けるためにと夢を持って就職したが、就職した治療院はあまり良いところでは無かった。院長には自分の失敗は押し付けられ、他人の成功は奪っていった。



 それを聞いた両親は毎日のように心配で電話をかけてきたが、それでも人のためになるからと、両親の優しさを無にして働き続けた。

 今考えてみたら、その治療院に固執する必要は無かったのかもしれないが、横暴な院長から私を頼って来てくれる人たちを守りたかったのかもしれない。今思うと両親を無視した、ただの自己満足だ……。



「どうかしましたか?」


 

 いつのまにか戻って来たフレイが、涙を流している私をみて心配をしている。



「ううん、なんか、両親のことを思い出しちゃって」

「カンナさんが、この世界に来たことには意味があると思うんです……。だから、最後まで精一杯生きてほしい。僕は最期の一瞬まで支えます」



 フレイは私から少し離れ正面に立った。いつのまにか手には鞘に入った剣が握られている。さっき、これを取りに行ったのだろう。競技場で見たような細い剣だが、豪華な装飾が施されており戦いには向かないような気がする。



「僕は先生に色々教えて頂きました。剣技ももちろん教えてもらいましたが、僕はこっちの方が練習するのが好きでした」



 そう言って剣先を空に向け顔の前で構えた。



「こっち?」

「剣舞です。死にゆく人へ贈ると残りの人生、良い人生が送れるとされています──ただ、死にゆく人へ踊った事はありません」

「……なんで?」

「生きていける僕が死にゆく人に贈るのは……おこがましいと思っていたから」



 フレイは体と剣をしならせ踊り始めた。女性のようにしなやかに踊っていたかと思えば、男が戦っているように力強く剣を振るう。それは死にゆく人への気持ち……悲しさと優しさが表現されているよだ。

 月明かりがフレイを照らし、魂が集まって来たかのように剣が光を帯びる。それはまるでこの世のものとは思えないほど綺麗で美しかった。

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