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死神を嫌う理由

 


「今日は、ララベルさんのところに行くんですよね?」



 朝食を食べ終わり食後のコーヒーを嗜んでいる。フレイも水を飲んで時間を共にする。



「うん。午後からね」

「じゃあ、それまで乗馬に行きます?」

「あ、それまでちょっと1人で行きたいところがあるから今日1日別行動ね」



 あ、すごい悲しい顔してる。



「一緒にいないといけないって言ったじゃないですかぁ」

「1日くらい大丈夫でしょ。事務仕事とかないの?」

「全然ない事は無いですけど……。僕といるの嫌になりました?!」



 コイツこの前の私の告白忘れのか……。私の気持ちも知らないで……。



「嫌いになってないよ。とにかく!!今日は自由行動!!暗くなる前にはホテルに戻るようにするから」



 コーヒーをいっきに飲み干し立ち上がる。数メートル歩いて振り返ると同じ方向に歩き始めようとするフレイ……。



「ついてきちゃダメだからね!!」

「はい……」



 フレイに尻尾と耳が付いてたら、だらんと力なく垂れている事だろう。

 私はララベルの家の方に向かうが、先に向かうところがある。



「おじいちゃーん。こんにちわー!!おじいちゃーん」



 ドアをドンドンと叩きながらゼクターを呼ぶと、中からドタドタと足音が聞こえる。



「だから、お前のおじいちゃんじゃねぇと言ってんだろうが!!」



 また怒鳴られたが、この前より言葉がキツくなく、少しは打ち解けたのでは無いかと思う。



「わかってます。フレイのおじいちゃんですよね」

「……何しにきた」

「なんとなく」

「はぁ?」



 ゼクターが心底不思議そうに顔を歪めた。



「なんとなく……んーと、なんというか……」

「まぁいい。中に入れ。ワシも暑い」

「あ、ありがとうございます」



 部屋に通され暖炉の前に置いてある椅子に腰掛ける。



「あ、あの……この前は蓬とか薬とかありがとうございます。暖炉も使わせてもら──」

「そんなことはいい。お前がここに来たのはフレイの事か?」

「……」

「違うのか?」

「いえ、違わないです」



 どうやって切り出そうかと考えていたのに、ゼクターには見透かされていたのだろうか。ゼクターは水指から木のコップに水を注ぎ、持ってきてくれた。緊張が解けたからか喉が渇いていることに気づき一気にコップの中の水を飲み干す。



「フレイについてはほとんど何も知らん。一緒に暮らしたことなんてないからな」

「育ての親に育てられたと聞きました。でも……なんでおじいちゃんがいるのに……」

「聞いておらんのか」



 ゼクタは足を引きづりながらテーブルを挟んで向かいの椅子に座って語り出した。



***



 17年前の冬、ゼクターの娘アニータは孕った。フレイは自分に弟か妹ができることに喜んだが、父親はそのことを知るとすぐに家から出ていってしまった。後から女のところに逃げたと風の噂で聞いた。

 アニータは幼いフレイを連れゼクターを頼り寒空の中ゼクターの家に転がり込んだ。



 元々あまり体の強くなかったアニータだが、子供はお腹の中で元気よく動き回り安心していた。

 木々が芽吹き春を迎える頃、ゼクターは体の弱い娘を気遣い助産師を呼び母子の健康状態を見てもらう事になった。──逆子の可能性があります。そう告げられ、ゼクターは絶望しアニータは静かに涙を流した。



 ゼクターは王都へ向かい何度も医者に娘を助けてくれと頼み込んだが、医者はお金を持っていない者は容赦なく切り捨て貴族の家へ向かっていった。

 フレイは母親を気遣い、水を汲みに近くの井戸に向かっていると、死神が「死ぬ人を幸せにしてくれる」という噂を聞いた。幼いフレイはそれは母親を助けてくれる神のような存在だと思った。



 フレイは死神にどこに行ったら会えるかということを聞き、その日のうちに死神科に向かった。

 その日の死神かも目まぐるしい忙しさで、みんなクレーム処理に追われていた。



「お母さんを助けて!!」



 そう叫んだところで大人の手が止まる事はなく、一目してまた自分の仕事に戻っていった。そしてフレイもゼクターと同じく何度も何度も死神科に足を運び、「助けてくれ」と声をあげた。無視される毎日、その日は違っていた。かわいそうに思ったのか、もう来られるのがめんどくさかったのかわからない1人の若い男が近づいてきてくれた。



「お母さんを──」

「死神科ではお母さんは助けられない」



 冷たい言葉がフレイ胸に突き刺さった。「なんで?」そんな言葉も出ないほど男の声は冷たく冷徹だった。

 家に帰って、母親の顔を見ると緊張の糸が切れ大声で泣いた。アニータはフレイから今日までの話を聞くと目に涙を溜め「ありがとう」とフレイを抱きしめた。

 


 そして、春が終わり夏が始まる頃アニータの陣痛が始まった。



***



「ワシはその頃王都へ行っていたよ。医者の家の前で何時間も土下座して頼み込んで……家に帰ったのは5日後だった。アニータとフレイがいないことに焦った。帰って破水しているベッドを見て陣痛がきてたことを知ったんだ。そして街中を探し回った。最後に家に帰って裏庭を見た時墓があることに気づいたよ。今はもう消えちまっているが、フレイの汚い字でアニータって書かれた木碑が立てられてた……」



 そう語りながら窓から裏庭を眺めた。



「一目でわかったよ。フレイはアニータによく似ている」

「何で……何ですぐに帰ってあげなかったんですか。臨月の娘さんを放っておいて……」

「……医者に突き飛ばされた拍子に王族の護衛兵にぶつかってしまってな……。悪いのは俺だけにされて片足へし折られたよ。まぁ、命を取られなかっただけで優しいもんよ」



  ゼクターは一呼吸置くようにため息をついた。



「それからアニータが待ってる家へ帰ろうとしたんだが、周りの奴らには悪評が知れ渡ってしまって、荷馬車に乗せてくれるもんもおらんかった。この折れた足で歩き続けて5日かかった──」

「そんな……それ、フレイは知らないんですよね!!ちゃんと話して」

「娘を助けられなかった……フレイには俺を恨む権利がある」

「違う、違う、違う!!そんなの間違ってる私がフレイに話し──」

「余計なことすんじゃねぇ!!ワシはフレイが生きていてくれただけで満足なんだ。こんな話……1人で墓まで持っていくつもりだったのに……」



 それ以上、言葉が出なかった。私は立ち上がり何も言わずゼクターの家を後にした。

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