手料理
ホテルに帰った時には日も暮れかかっていた。お昼も食べず作業をしていたのでお腹がペコペコだ。
隣を見ると今すぐにでもベッドに倒れ込みたいという顔をしたフレイがお腹を鳴らしている。見かけによらず欲望に忠実な男だ。私もお腹が空いて寝れなそうだったので、宿の主人に厨房を借りた。
「よーし!!」
袖をを捲り上げ、ゼクターにもらった米とララベルにもらったトマトを手提げの袋から取り出す。そして部屋から持ってきた干し肉。こっちの世界に来てからお酒を飲んでいないことに気づき、部屋のみをしたいと思い買っておいた肉だ。
干し肉に齧り付いてみる。ビーフジャーキーそのままの味だ。味もしっかりついており申し分ない。
まず米を研ぎ鍋に入れて米を炊いた。一時期、土鍋で炊くご飯にハマってる時期があり鍋で炊くことは造作もない。それから宿の主人にお願いして調味料も自由に使って良いと言われたので、トマトを細かく刻み塩胡椒を塗し混ぜ合わせる。干し肉は細かくちぎって少量の水に漬けておく──異世界って香辛料とか高級なイメージがあるけど大丈夫なのかな……。そう行けば、他の食堂も香辛料結構使ってるお店もあったな。
ご飯がはけてくると独特の良い香りがしてくる。火の調節も怠らず最後は蒸らして出来上がった。
鍋の蓋を開けるとまた一段といい香りが広がる。やはりご飯は炊き立てに限る!!そして、ご飯をかき混ぜると下の方にいい感じにおこげが出来ておりこれがまた食欲をそそる。
そのまま食べても美味しいだろうが今日は手間をかけずパパッと食べたいので、フライパンに少量の油を入れ刻んだトマトを流し入れる。トマトはフライパンの上でパチパチと音を立てて踊っているようだ。その後すかさず漬けておいた水と一緒に干し肉を投入し少し煮込む。最後にご飯を投入して軽く混ぜ合わせて完成だ。──何ちゃってケチャップライス完成!!
お皿にケチャップライスを盛り付け部屋へ持って上がると、お腹が空いて寝れないフレイが青ざめた顔をしてベッドに横たわっていた。クンクンと鼻をヒクヒクさせ私の持っているケチャップライスに気づくとお預けを食らっている犬のように飛びついてきた。
「いい匂いですね!!」
「適当に作ったから美味しいかどうかわからないよ」
スプーンと一緒に渡すとフレイはすかさず口の中にかき込む。しっかりと噛み締めて食べているフレイを緊張しながら見つめる。「ゴクン」と喉を鳴らし飲み込んだ。
「美味しいです!!」
「本当?!よかったぁ」
どんどんとお皿の中のケチャップライスが無くなっていく。それを見ているだけで嬉しかった。
「これも食べる?」
「いいんですか?」
「うん。私は味見とかして食べてるから」
「じゃあ」といって手を伸ばしてきたので持っていた皿を渡す。それもペロッと食べ終わってしまう。
「本当に美味しかったです」
「ありがとう。いいお嫁さんになったかな?」
意地悪をしたわけでは無い。ただフレイにそう思って欲しかった。過去形にしたのは無意識に諦めが入っていたのだろう。
「……はい。誰も放っておかないと思います」
「やった!!」
ニッと笑ってフレイの持っているお皿を受け取り部屋を出た。
***
「おはようございます」
声がして目を覚ますと目の前にフレイが立っていた。私より先に起きてるとは珍しい事だ。
「おはよう」と言い起き上がる。大きなあくびをして体を伸ばす。
「どうしたの?珍しいね」
「はい。昨日のお礼をしようと思って」
「お礼?」
「夕飯と……ララベルさんの事」
「ララベルさんの事は、まだ解決してないよ」
そう言うと、フレイは優しい笑顔を向けてくれた。
「それでも……嬉しかったんです」
フレイはお礼と言っていたが食事はいつも奢ってもらってるし、何をしてくれるのだろう。
とりあえず服を着替え部屋を出る。外で待っていたフレイが「じゃあ行きましょうか」と馬小屋に連れて行かれると、あの気性の荒いと言っていた馬がいた。あれからフレイには懐いているようで、乗馬をする時にはこの子に乗っている。
「この子どうしたの?」
「朝借りてきました。さぁ、乗ってください」
言われた通り馬に乗るとフレイも私の後ろに軽々と飛び乗り走り出した。何日かぶりに乗った馬は遊園地の乗り物に乗ったように楽しかった。
馬は街外れにある街の外に出る扉を潜り抜けると、最初にフレイと会った草原を通り抜ける。あれからもう半月ぐらい経っただろうか。ほんの少ししか経っていないはずの時間が、この半月で色々な体験をし充実していると実感する。
「こっちの方って王都の道?」
「はい。でも王都まではいかないので。行きたいです?」
「ううん。別にいいや」
どんどんと山道を進んでゆく。少し標高が上がってくると、遠くに大きな建物が見える。
「あれが王都ガルナルドです」
確かに王都だけあって面積も今いる街よりかなり大きい。中心にあるお城も立派なものだ。やはり一度は行ってみた方がいいだろうか。そんな欲望が湧いてくる。
しかし今日行くところは王都からズレた山の中にあるらしい。──今日のところは諦めよう。
「ここからは少し歩いてもらいます」
綱を木に巻き付け馬を置いて、また山道を歩き出した。
さっきまでは整備されたような道だったが今は獣道を進む。確かにこれは馬では通れなそうだ。獣道を抜けると反り立った崖に出た。
「こっちです」
案内された先には崖に人ひとり入れるくらいの割れ目がある。フレイは制服を汚さないように横向きになって中に入る。私も後に続き中に入ると少し広けた場所に出た。
フレイが持っていたランプに灯りを灯すと洞窟の全貌が見えてきた。
「あれ何?綺麗……」
そこには手の大きさくらいありそうな鉱石が岩の間から顔を出していた。透明度はとても高い。
「この洞窟の成分から作られたものだと思います。調べたことがないのでわかりませんが」
「これがあれば、働かなくていいんじゃない?」
「この鉱石は高度が弱いので、宝石には向いてないんです。それに僕はこの仕事が好きなので」
「ふーん」とそんな話をしながら洞窟の奥の方へ進んでゆく。冒険をしているみたいですワクワクする。
「ここを通ります」
突き当たりに来ると腰の辺りまでくらいの穴を指差す。フレイが先に潜り抜けていく。私も頭が当たらないように四つん這いになり進んでいく。だんだんと明るくなり外の光が差し込んでくる。
フレイが先に抜け立ち上がった。私も立ち上がり周りを見渡すと広がった場所に出た。
上を向くとこの空間だけポカリと穴が空いており太陽の光が差し込む。洞窟には至る所にさっきの鉱石があり、太陽の光で透明な水色の光がキラキラと輝いている。
私はその光景に声も出ない。
「どうですか?」
「うん……綺麗」
「よかった……」
何秒、何分……もしかしたら1時間くらいは立っているかもしれない。目の前にある絶景に目を奪われ続けた。
「ここは……」フレイが声を出した。その声は静かで穏やかだった。
「ここには僕の育ての親によく連れてきてもらってました」
「──お母さんは……?」
「母は、弟を産む時に死んでしまいました。お腹の中の弟も助からず……。逆子だったそうです。」
そっか。だからララベルの事でお礼したいと言ってきたのか。
「なんで……育ての親って……。おじいちゃんいるのに……」
聞いちゃいけない事を聞いてしまった──。複雑な顔をしたフレイの顔を見て、それ以上言葉が出ない。謝ることも出来なかった。




