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完成

 ゼクターの許可を得て納屋へ走った。思ったよりも綺麗に整理されており、色々な薬草や穀物が貯蔵されていた。

 納屋は広く見渡すが、どれがよもぎかわからない。そもそも、本当にここに乾燥した蓬があるのだろうか。



「乾燥した蓬なら、その奥の1番上の棚だ」



 後から入ってきたゼクターが奥の棚を指差した。1番上の棚は手を伸ばしてもちょうど届かないくらいの高さで、ジャンプをして蓬が入っているかごにやっと触れるくらいだ。



「もう少し僕を頼ってください」



 後ろからフレイの腕が伸びてきてひょいとカゴを持ち上げる。「ありがとう」とカゴを受け取り中身を確認する。

 茶色く乾燥した葉っぱが山のように入っている。昨日雨が降ったせいで少し湿ってはいるがちゃんとした乾燥蓬だ。



「それをどうするんですか?」



 フレイとその後ろにいるララベルが不思議そうに見ている。しかし、そんな説明をしている暇はない。



「おじいちゃんすり鉢ありますか?」

「お、おお……。こんなものでもよければあるが……」



 そう言って近くの棚から薬草を粉砕するときに使われる薬研を出してきた。かなりおあつらえ向きである。

 それから薪で火を起こすと少し湿っていた蓬をもう少し乾燥させる。これがかなりしんどい。真夏ではないにしろ外はかなりの暑さだ。ダンスをして走ってきた後にサウナに入っているような暑さが体力を奪っていく。



 ララベルも変わりますと言ってくれたが、ララベルが体調を崩しては元も子もない。私は薪を割って持ってきたフレイと変わってもらう。フレイも薪割りで体力を消耗しているようだが、私も汗で体が脱水症状を起こす寸前のところまで来ていたので、ここは心を鬼にして変わってもらう。

 外に出ると暑いはずの外気は気持ちが良く心地の良い風が吹いている。



「大丈夫?」



 ララベルがレモンの蜂蜜漬けを冷たい水に入れて持ってきてくれた。家までの往復も大変だろうに。「ありがとう」とお礼を言い、水を一口含ませると、レモンの爽やかさと蜂蜜の甘さが広がり疲れた体に染み渡っていく。高校の時バスケ部に入っていた。その時後輩が作ってきてくれた蜂蜜漬けを思い出した。



「こんなものでどうですか……」



 汗だくのフレイが家から出てきた。フレイの事すっかり忘れてた……。

 フレイに渡されたカゴの中を確認する。色は茶色であまり変わりがないが、触ってみるとさっきより湿り気がなくカサカサと音がする。



「うん。ありがとう。これで大丈夫だと思う」

「この後どうするんですか?」



 ララベルは私にくれた水を倒れているフレイにも手渡し聞いてきた。



「さっきのすり鉢を使ってひたすらする!!」

「それって。もしかして……」

「フレイ。よろしく!!」

「ですよね……」



 フレイは渡された水を飲み干し「はぁ」とため息をついた。

 水を飲み終わると、早速作業に取り掛かってもらう。薬研に乾燥した蓬を入れ細かく砕いてもらう。それを私とララベルはふるいを使って細かくなった草の部分を取り除く。

 


 本当は臼で引いて粉になるくらいまで粉砕したほうが良いのだが、今は薬研を使うしかない。フレイは腕をプルプルさせながら作業をする。

 そのフレイも、もう限界のようで力が入っておらず雑物が大きく残ってしまっている。



「──変われ」



 ずっと様子を見ていたゼクターがフレイの背後から現れた。フレイは何も言わず横にずれるとゼクターは薬研を腕を捲り上げ薬研を動かし始めた。

 フレイもそうだが、ゼクターも細いのに良い筋肉をしている。あっという間に雑物が細かくなり、それが私に回ってくる。かなりの量の蓬を使い、篩に残った艾はそれなりに形になっている。



 すぐに庭に置いてあった椅子にララベルを座らせた。ララベルは何をされるのかと不安そうだ。私はララベルを落ち着かせ艾をゴマくらい小さくちぎると小指の先に据えた。

 ゼクターの納屋にあった燃えにくい木の枝を熱し、木は先の方だけ赤く高温になっていく。



「熱いと思いますが我慢してください」



 ララベルは緊張した面持ちで頷き目をギュッと閉じた。

 先が赤くなった木をを小指の先に据えた艾に少し沿わせると艾はすぐに燃え切った。ララベルは「グッ」と小さな声をあげ、肘掛けを持つ腕に力が入る。



 額から汗が流れ落ちる。同じところに7壮灸を据え反対の足にも行い、プラスして足首の少し上の方にも両足3壮ずつお灸をすえた。

 全ての作業が終わると、どっと力が抜け地面に座り込む。



「終わったんですか?」

「うん。一応終わったんだけど消毒しないと化膿するかもしれない……」



 近くで覗き込んで見ていたフレイが不思議そうに聞いてきた。……終わってない消毒の事を考えていなかった。火傷の程度は浅いにしても、消毒はするに越したことはない。



「──これを使え」



 ゼクターは家に戻ると、手に収まるほどの小さな陶器を持ってきた。それを受け取り蓋を取ると、薬草の独特な匂いが辺りに広がる。鼻がひん曲がりそうだ。

 フレイもララベルも花を摘んで苦虫でも噛み潰したような顔をしている。



「匂いは酷いが解毒作用がある。塗らないよりはましだろう」

「ありがとうございます」



 私は薬を指につけると患部にぬり、その上から綺麗な布でおおった。

 



「今日はこれで終わりですが、後数回は同じ事をしていこうと思います。足はあまり冷やさないように温泉に入って温めたりしてください」

「あ、あの……。これで本当に逆子が治るの……?あ、疑ってるわけじゃ」

「……わかりません。でも可能性はゼロではありません」



 ララベルは不安な顔をしながらも丁寧に頭を下げた。

 私は手にゼクターに手渡された薬を持っていることに気づいた。



「ゼクターさん、これありがとうございました」



 白い陶器の入れ物をゼクターに手渡そうとしたが、ゼクターは踵を返し家の方に向かって歩き出した。



「えっ?ゼク──」

「終わってから返しに来い」



 ゼクターはそれ以上何も言わず去っていった。

 私はララベルと一緒に頭を下げた。ただ1人……フレイだけはその後ろ姿を不機嫌そうに見つめていた。

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