1:幼き記憶
ある夕暮れ時、
「ウー、ウー、ウー」
けたたましいサイレン音が町に鳴り響く。
町はあちこちから炎と煙が上がっている。
「ハアァ、ハアァ」
少女は必死に走る。8歳くらいだろうか。
本来であれば綺麗であろう桃色の髪や、幼いながらにも整った顔を砂埃で汚しながら、その小さな手足で懸命に逃げる。
後ろからはネズミを人間ほどまで大きくした様な化け物が、よだれを垂らしながら少女を追いかけている。
その姿はまるで、弱った獲物をジワジワと追い詰め狩りを楽しむ肉食獣のようだ。
「ズサー」少女は躓き転んでしまい膝や手をすりむき血を流す。
痛みを我慢し手をつきながら恐る恐る振り返ると、そこには先ほどまで追いかけていたネズミの化け物がすぐ近くにいる。
「ヒっっ」少女は恐怖で体を強張らせ無意識に後ずさりする。
「ギュヂュウ」
ネズミの化け物は追い詰めたと言わんばかりに鳴き声を上げる。
そして今にも少女に飛びつき、その鋭い前歯で噛みつこうと2本足で立ち上がる。
少女は体に力を入れ体を縮みこませ硬く目をつぶる…
「ドガァアン」
突如トラック同士が使用突したかのような大きな音がする。
少女は恐る恐る薄目を空けると、そこにはネズミの化け物が大きな何かと衝突したかのように、ひび割れた地面にめり込んでいる。
目の前の光景に唖然としながらも安堵からか体の力が抜けて意識が遠くなっていく。
薄れる意識の中、少女の目には夕焼けに照らされた小さな背丈の黒いシルエットが見えた気がした。