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139.目標

 予定通りことが運ぶと言うのはなんと気持ちの良いことか。立案から一週間ほどで王都からの定期便が一部運航開始となり、初めて一般のお客様がやってきたのだ。


「さあ初めての一般客よ、粗相の無いようにしましょうね。

 本日いらっしゃるのは大農園の中に大きな区画を持ってる一家だって。

 料理はやっぱり魚中心がいいかもしれないわ」


「そうね、野菜と穀物だとつまらないかも。

 うどんは出してみる価値あるかな。

 焼いた魚の骨で出汁を取っておつゆを作ると香ばしくておいしいのよねえ」


「ちょっとミーヤ? 私そんなの食べたことないわよ?

 お客さんへ出す前に試食しておく必要があるわね。

 お昼ご飯はそのうどんにしましょ」


 こうして出迎えの準備は進み仕込みも順調、あとは到着を待つばかりとなった。それにしても料理を楽しむためだけに遠路はるばるやってきて宿泊するなんて相当贅沢な遊び方だ。もう少し何か用意した方がいいのだろうが、今思いつくものはかなりきわどい娯楽である。


 それをヴィッキーとレナージュへ相談しようものなら即採用となりそうで言いだすことが出来ずにいた。都市部から離れた荒野を開拓し一大都市となったあのラスベガスを見本にしたカジノ建設を。きっと娯楽の少ないこの世界では大盛況となるだろう。しかしその代償として人々の生活が荒んだり破産する人が出たりするかもしれない。場合によっては自殺者まで…… いいややっぱりだめだ、これは心の中に留めておこう。


 そんな葛藤と共に仕込みをしているうちにいよいよ予約のお客様が到着した。しっかりとおもてなしをして今後につなげなければと気合が入る。


「出迎えどうもありがとう。

 マーケットの会長にお勧めされたので来てみました。

 三日間お世話になりますね」


「こちらこそ、ようこそおいでくださいました。

 ご満足いただけるよう頑張ります」


「ボクも頑張る。

 お部屋へ案内、こっち」


 チカマも頑張って接客してくれているが、どうしても言葉遣いはたどたどしい。宿まで行けばレブンへ引き継ぐのだが、あっちはあっちで危なっかしい話し方のままで胃が痛くなりそうだ。


 だがお客さんはあまり気にしてい無いようだ。それよりも食事のことが気になるようでレブンへ尋ねていたとチカマが教えてくれた。部屋へ案内した後にレナージュが飲み物を持っていく際、魚料理と肉料理を選んでもらい今晩は魚、明日の夜は肉料理に決まった。


 しかし結局初日の魚料理をいたく気に入っていただけて、二日目も魚料理のコースを出すことになったのだった。


「やっぱりヴィッキーの見立て通り魚料理が好評ね。

 特にてれすこのしゃぶしゃぶは珍しかったのかウケが良かったわね」


「うどんもすごく好評だったわよ。

 持ちかえれないのが残念だって言われてしまったもの。

 でもその分、さつま揚げをお土産に選んでもらえたから良かったわ。

 これは完全に名物になってるわね」


「先日いらしたマーケットの方たちが勧めてくれたのは大きいわね。

 街の有力者お墨付きとなれば今後はお客さんが押し寄せてきちゃうかもよ?」


「でも一つ問題があってねえ。

 ぜひ小麦の仕入れをうちで、なんて言われちゃったのよねえ。

 今は王国で買い上げた物を市場価格で仕入れてるんだけどね。

 どこか一軒に肩入れするようなこともできないし、かと言って無碍にもできないし困ってしまうわ」


「安く仕入れられるのは助かるけど、市場価格に響いたら困るものね。

 ちゃんと事情を説明してお断りした方がいいわよ。

 きっと王族の経営する店へ直接卸すことで箔をつけたいんでしょ」


 最終的にヴィッキーは小麦仕入れの件を断った。かと言ってあの農家との取引を直接しないだけで誰かが損をするわけではない。そのことをちゃんとわかってくれたのは良かった。ミーヤはローメンデル候が自分の支援者へミーヤを紹介した時のことを思い出した。どの世界にも自分の威光を高めたいと考える人はいて当たり前だし、実現出来そうなら実行にも移すだろう。


 ヴィッキーは王族だしミーヤは神人だ。うかつな真似をしておかしなことに巻き込まれないよう注意する必要がある。ローメンデル候やブッポム商人長は運よくいい人だったが、出会った人の中に悪意を持ってる人がいないとも限らない。


 そして今のところその恐れがあると考えられるのはノミーである。とは言ってもナウィンの件があってほんの少し警戒している程度だ。ただ各種職人を集めているのは軍拡のためと考えられなくもない。王国内での塩製造を独占していることもあって、もし反旗を翻すようなことがあれば大ごとになる。今のところそんなそぶりはないとはいえ気に留めておく必要はあるだろう。


 あれこれと考えながらも今後について検討し予定を立てておきたいところだ。当面はこのバタバ村リゾートの運営を軌道に乗せること。一段落したら次はジョイポンへ行ってみよう。もう一度ノミーと直接会って話をしてみるべきだと考えたからだ。


 それで嫌疑が晴れるならそれでいいし、なにかおかしな印象を持つならばその時また考えればいい。それに自由に行き来できるようになれば塩の入手が楽になる。なんなら自分の塩工場を作ることが出来るかもしれない。


 次なる目標が決まってなんだかやる気が溢れてくるような気がする。暇を持て余しているなんて贅沢な悩みだったのだ。気持ち良く予定通り進む未来を願って雄たけびを上げたい気分である。


 なんて思っていたのだが、数日後から予約が殺到しそれどころではなくなってしまったのだった。


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