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136.驚きの交渉

 考えてみればそれほど不思議な話でもない。馬だって必要に応じて売買するものなのだから、魔獣だってその対象になってなんらおかしい話でもないだろう。


「それにしても唐突じゃないかしら。

 私が売りたがっているならまだしも、大切にしているペットを買いたいだなんて」


「そうだな、神人様にとっては急な話だろう。

 でも俺たちにとってはそうでもないんだよ。

 そのナイトメアを捕まえた時、俺たちの仲間が捕まえようとしていたの覚えてるか?」


「そりゃもちろん覚えているけど、まさか横取りとか言い出さないでよ?

 私たちであの人たちを助けてあげたんだからね」


「違う違う、俺たちも依頼を受けて探しに行ってたんだっての。

 あれからずいぶん経ったがいまだに見つからねえ。

 だからもう売ってもらった方が早いんじゃないかって考えたわけよ」


 話の内容は理解できたし、時間とお金を秤にかけるのも当たり前の話だから疑問は感じない。だけどそんな貴重なものを売ってしまっていいのだろうか。ミーヤは思わずレナージュに視線をやり助けを求めた。


「まあ良くある話ではあるわね。

 ナイトメアなんて希少種だし見つけるだけでも一苦労だもの。

 持ってる人間を知ってるなら買って終わりにしたいわよねえ」


「そうなんだ、さすがエルフのねーちゃんは話が早えな。

 だから神人様を説得してくれよ」


「とは言っても捕まえるのにはミーヤも私も結構苦労したのよねえ。

 手放してしまったら次はいつ出会えるかわからないわ。

 それを承知で譲れと言ってるんだから――」


「わかった、わかってるよ、んでいくらならいいんだ?

 俺たちも今まで苦労してきたから少しは利益にならねえと困る。

 五十万でどうだ?」


 ご、五十万ゴードル!? 買い取りは馬一頭で三千ゴードルだからえっとええっと…… 百五十頭以上分と言うことになるのか。いくらなんでも高額過ぎて怪しい話なのではと疑いたくなる。しかしミーヤの考えは甘かった。


「なるほどね、数か月は無駄にしてるわけだものね。

 ひと月五万として半年で三十万、と言うことは七十万なら譲ってあげるわ」


「くっ、このごうつくエルフめ。

 なんでそんなところに勘が働きやがるんだ」


「簡単な事よ、本来の依頼料の半分は欲しいと思うのは当たり前だもの。

 それにおそらくキリがいい数字だろうとは思ってたのよ。

 まあ最終的にどうするか決めるのは私じゃなくてミーヤだけどね」


 うーん、せっかく捕まえたナイトメアを手放すのは惜しいが、今までただの馬としてしか使っていない。それにレナージュの様子から考えるときっと十分元が取れる取引なのだろう。


「わかったわ、レナージュがいいって言うなら私は構わないわ。

 正直言ってうまく活用できていないし、欲しい人がいるなら譲るわ」


「それじゃ交渉成立だな、助かったぜ。

 それじゃ代金を――」


 まったく考えてもみない大金が転がり込んできて驚いた。今まで散々馬車を引いてもらったナイトメアとのお別れは少しさみしいが、あの強さを活かせなかったミーヤのところより、価値がわかっている人のところへ行く方が幸せかもしれない。こうして大金と引き換えに『銀の盾』のテイマーへ魔封結晶を確認してもらい無事に譲渡が済んだ。ただ運が良かっただけかもしれないが、儲け話はどこに転がっているかわからないものである。



 やがて夜は更けていき、サラヘイたちの他にはお客さんもないまま本日は閉店となった。宿泊客のサラヘイたちの面倒はレブンが見ることになるが、つまみ用のフードと追加のお酒は用意してあるし、いざとなったら起こしに来ていいと言っておいた。


 だが途中でミーヤが起こされることはなく、管理人宿舎でチカマやナウィンと共に、朝までゆっくり休むことが出来た。



 翌朝、もちろん予想はしていたことだが、なんとレナージュだけではなくヴィッキーまでが酔いつぶれたまま宿屋の食堂で転がっていた。まったくだらしのない人たちである。


「ちょっとヴィッキー、もう朝よ?

 オーナーがそんなことでどうするのよ。

 お客様が来てもガッカリして帰ってしまうわ」


「うーん…… でもまだ朝でしょ?

 開店はお昼からなんだから寝かせておいてよ。

 予約も問い合わせもなくて張り合いないんだからさ……」


 返事を返してきたヴィッキーはまだマシで、レナージュはうんともすんとも言わず眠りこけている。レブンもかなり眠そうだがさすがに頑張って起きたらしい。


「それにしても昨晩は随分売り上げたわね。

 エールなんて空っぽになってるじゃないの。

 魚も開店前に獲りに行かないとダメね」


 そこへヴィッキーを探して数人の戦士団員がやってきた。どうやら昨日のうちに魚取りの指示が出ていたらしく、洞窟内部の地図を取りに来たのだった。


「チカマ、この方たちへ地図を渡してあげて。

 息の出来ないところも書き込んであるわね?」


「ミーヤさま、これって本みたいに写せないの?

 また行かないと作れない?」


「そういえばそうね、やってみるわ」


 チカマの発案で試してみると、どうやら書術ではなんでも書き写すことが出来るようだ。もうあと数枚しかない羊皮紙を使ってしまったのはもったいないが、地図を描くためにもう一度チカマが潜ることを考えると書き写した方が効率は良いだろう。


 戦士団は三人一組で街の治安維持と狩りを分担しており、残り二人は休憩に入ると言う交代制だ。夜勤もあるのに人数は足りるのかと思ったが、狩り担当の三人は戻ってきたら当日の仕事も終わりだから問題ないらしい。


「じゃあお気をつけて行ってらっしゃい。

 ヴィッキーには私から伝えておくからお昼前には戻って来てね」


 戦士団たちはミーヤとチカマにも仰々しく敬礼をしてから洞窟へ向かった。そこで初めて気が付いたのだがナウィンの姿がない。一緒に起きてきたはずなのにどこへ行ったのだろう。


「チカマ、ナウィンはどこへ行ったのか知らない?

 朝のお茶にしようと思ったのに困ったわねえ」


「ナウィン、作業小屋へ行ったよ。

 作るものがあるんだって言ってた」


「まあ、仕事熱心ねえ。

 床で転がってる人たちに見習ってほしいわ」


 何を作っているのかも気になるので作業小屋まで行っていることにした。するとナウィンはなんだか大きなじょうろのようなものを作っている。


「ナウィン、朝のミルク淹れるわよ。

 チカマと同じで蜂蜜入れるわよね?」


 ミーヤはカップを三つ用意してからスキムミルクと蜂蜜を入れてお湯を注いだ。小屋の中には甘ったるい香りが立ちこめる。


「はい、えっと、あの……

 ミーヤさまのシャワーを元に大きいのを作ってます。

 これなら宿屋の水浴び場でお湯をたっぷり使えますから」


「ナウィンったら凄いわ!

 自分で考えたんでしょ? 偉いわねえ」


「あの、えっと、あの……

 ただ水を入れておくのが大変になりそうで……

 レブンは召喚術使えないんでしょうか」


「確か出発前に習っておくようヴィッキーが指示していたから使えると思うわよ。

 でも容器が大きすぎて一人では無理じゃないかしら。

 井戸から持ってきて入れられるように階段を作ってもらいましょ」


「はい、えっと、あの……

 ありがとうございます。

 考えが足りずにお手間をおかけします」


「気にしないでいいわよ。

 こんなすごいもの作るなんて、ヴィッキーにいっぱい請求しないといけないわね。

 それで修行資金の足しにしたらいいわ」


 それを聞いたナウィンは頬を赤らめながら満面の笑みを見せた。その隣でなぜかチカマも誇らしげに笑う。おそらくは仲の良いナウィンが褒められたことが嬉しいのだろう。そしてその素直な気持ちはミーヤを喜ばせるのだった。


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