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134.静かな開業

 バタバ村の再開発を始めてから二十日ほど経ち、いよいよ宿屋と休憩所、それに食堂に酒場と、必要な施設の準備が整った。村の中央には街のマーケット同様テーブル席が設けられビアガーデンのようである。


 飲食物はメニューに関わらず同一価格とし、サービスカウンターでの食券販売後に各店舗で商品と交換してもらう方式とした。もちろん受け渡しに時間がかかる場合に備えて引換券も用意済みである。


 とは言えまずはフードとドリンクの二店舗しかなく、後は今後出店を希望する人がいたらテナントを貸し出す予定だ。


「今日から開店と言ってもきっと誰も来ないわね。

 ここには何もないんだからわざわざやってこようなんて人はいないわよ」


 給仕服に着替えてすっかりその気になっているレナージュがぼやく。同じ衣装を着たチカマはいつもと違う服装が気に入ったのかご機嫌の様子だ。残念ながらテーブルに手が届かないナウィンは給仕をするのが難しく、作業小屋の中で販売用のポーションを作成するくらいしか仕事がない。


「そうよねえ、まさか用意するのに夢中で宣伝をしていないなんて思わなかったわ。

 今から誰かが来るとしても馬で三日はかかるでしょ?」


「もしかしたらトラックたちが来てくれるかもしれないけど期待はできないわ。

 やっぱりこの村ならではの物がないとわざわざ立ち寄りはしないわよねえ」


 そう言いながらもミーヤには一つだけ集客のアイデアがあった。しかしこれは最後の手段だし、その手を使うとしてもカナイ村のために取っておきたい気もしていた。どちらにせよ今すぐにどうこうできる簡単な代物ではない。


「ねえヴィッキー、ローメンデル山の麓へ看板でも出しておいたらいいんじゃない?

 気休めかもしれないけど何もしないよりはマシじゃないかしら。

 ジスコの人たちは、バタバ村が盗賊から解放されたことすら知らないと思うしね」


「うーん、でもあそこはジスコの領地だからね。

 王国の一部とは言っても共存関係にあるだけで従えてるわけじゃないもの。

 勝手な真似したらローメンデル卿も面白くないと思うわ」


 確かにそれはもっともだ。いくら変わった人とは言え人並みの神経は持ち合わせているに決まっている。だったらきちんと話を通せばいいだけなのではないだろうか。ローメンデル卿は何かあれば気軽に相談していいと言っていた、ような気がするし、まずは連絡を取ってみることにしよう。


 あわせてブッポム商人長へも連絡を入れ、バタバ村で出すことになったメニューの説明をしておいた。こちらはすぐに返事がきたのだが、相変わらず店が忙しくしばらくメニューの追加など考えられない状況とのことだった。きっとフルルも毎日疲れているだろう。気になるハルとモウブの様子は恐ろしくてとても聞けなかったが、きっとうまくやっているはずだ。少なくともハルは多分…… 


 なんだかんだでやることもあり、一人のお客様も来なかった割には時間は早く過ぎて行って陽が傾いてきた。一番暇だったのはきっと宿屋だけを担当しているレブンだろう。


 役得だったのは戦士団の面々だ。昼食を取るために交代で休憩したのだが、ヴィッキーの計らいで店からフードとドリンクが振舞われたのだから。これは給仕の練習でもあり片付けのタイミングや提供する料理の量などを確認する意味合いもあった。城から連れてきた料理人と街で雇った二人がフードとドリンクのコーナーを交代で回すのだが、そうすることで一人は休憩と片づけに入ることができ効率は良さそうだ。


 レブンに負けず劣らず暇を持て余しているミーヤは、料理人へブイヨンのレシピを伝授し時間を潰していた。本当は書術の修行がしたいのだが、王都で購入してきた羊皮紙は全て使い切ってしまっていた。


「ねえヴィッキー、戦士団はどのくらいで交代するの?

 一か月くらいはここに滞在するのかしら」


「そうね、特に決めてなかったけど独り者ばかりだから永住でもいいくらいじゃない?

 詰所がちょっと手狭だけど、どうせ王都にいても物置に住んでるような人ばかりだもの。

 あまり問題になることは無いでしょうね」


「なんだかあまり待遇が良くないわね。

 もうちょっとちゃんとした建物用意してあげたらいいのに」


「ちゃんと給金は支払ってるのよ?

 家を借りるかどうかまでは関知しないわ。

 それにバタバ村勤務の隊員は別途お手当を出しているのよ?

 危険でもないのに一割増しだから欲かいて志願してくれた人たちってことね」


 相変わらず言い方がひどいが待遇には問題なさそうな気もしてきた。希望者は宿へ泊ることもできるのだし本人たちが現状に満足しているならミーヤが口出すことでもあるまい。


 その時ミーヤのスマメに着信があった。待ちに待ってたローメンデル卿からの返事だ。さらに立て続けでサラヘイからもメッセージが入る。随分珍しいことがあるものだ。


「ねえ、ローメンデル卿から返事が来たわよ。

 北側の山道入り口へ看板建ててもいいって言ってるわ」


「それは助かったわ、ありがとうミーヤ。

 さっそく誰かに行ってもらうことにするわ」


「うんうん、それとね、これからお客様が来るわよ。

 到着は夜遅くになりそうだけど今向ってるんですって」


「へえ、王都での宣伝が効いたのかしら。

 それにしては来るまでが早いわね」


「以前出会った冒険者なんだけど、ローメンデル山にいたらしいわ。

 王都の知り合いから話を聞いてすぐに向かうことにしたみたい」


「ははあ、以前一緒だったってことはミーヤのご飯を食べたことがあるってことね。

 それなら駆けつけようとするのも頷けるわ」


「まったくみんな大げさなのよ。

 素材だって調理法だってありふれてるものでしょ?」


「じゃあ鉄鉱石で何か斬ったりできるかって話よ。

 ミーヤがやってるのは鉄から剣を作る工程なわけ。

 自分で作っておいて技術やアイデアがどれだけ大切か全然わかってないのよねえ」


 確かに言われてみればそうかもしれないが、ミーヤにとっては家庭料理の範疇だったものなのに、料理が一般的ではないこの世界だから珍重されるだけのことだ。もちろん好評なことは嬉しいが、自分の発明と言うわけではないのでなんだが気恥ずかしく申し訳なさも感じていた。


 それでも貰うものはちゃっかりいただくのがこの世での生き方だ。ミーヤ自身のスキルアップや生活水準の向上を目指すにはやはりお金は大切だし、貰えるところから貰える時にいただいたほうがいい。


 以前はあまり直接的にお金の話をするのは意地汚いと考えていたが、この世界ではみなズバズバと正直に話をしてくるので感覚が薄れてきてしまった。遠慮や控えめさが美徳ではないとまでは思わないが、自分の考えを言わずにストレスを溜めこむことに利点はないのだ。


「ところで今突然思いついたんだけどね。

 ローメンデル山みたいな出先から直接バタバ村へやってくるお客さんも見込むわけでしょ?

 それなら魔鉱での支払いか買取を考えてみたらどうかしら」


「ん! それは良い考えね!

 さっそく商工組合へ連絡してみるわ。

 ミーヤったら冴えてるわねえ」


「ローメンデル山から来るって聞いてひらめいただけでたまたまよ。

 それよりレナージュとチカマは今のうちに休憩させていいかしら。

 戦士団の夕食はどうするの?」


「夕食は詰所へまとめて持っていくから問題ないわね。

 二人とも休憩では無くて今日はもういいわ。

 ミーヤの知り合いが来るの夜中なんでしょ?

 レブンへ言いつけとけばいいんじゃない?」


「でも宿はとらずに野営するかもしれないわよ?

 その場合は村の外でしてもらうことになるのかしら」


「そう言えば考えてなかったわ。

 厩舎もないけど何とかなるわよ。

 今日一日何もしてなかったレブンに全部押し付けときましょ」


 相変わらず人使いが荒いヴィッキーだが、宿屋の責任者として連れてきたレブンにはしばらく最低賃金を払うことにしているから、働かせて元を取らないといけないなんてひどいことを言っていた。まったくとんだブラック経営者である。


 そしてサラヘイたちは予想通り夜遅くなってもまだ到着せず、ミーヤたちは彼らを待つことなく一足先に眠りについた。もちろんヴィッキーはレブンへ寝ないで待つようにと言いつけていたのは言うまでもない。かわいそうだがこれが力関係と言うものだ。


 ミーヤは明日の昼間の仕事を代わってあげて、レブンを寝かせてあげることにしようと考えながら目を閉じたのだった。


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