132.のんびりと始動計画
バタバ村から王都トコストへ戻ってきてからおよそ一週間、ミーヤは錬金術の修行に明け暮れるナウィンに刺激され書術の修行を頑張っていた。その甲斐あってなんとテレポートの巻物が作れる熟練度60へ到達したのだった。
「それにしても成功確率が低すぎるわ……
また羊皮紙買ってこないといけないのにまだ二本しか出来てないなんてねえ」
「羊皮紙はどのくらい使ったの?
ペンはこの間買い足していたわよね?」
「もう三十冊以上使ったから三百枚以上ってことになるわね。
これじゃ破産してしまうし、テレポートの巻物が高価な理由もわかるわ」
「じゃあまずはこの二本を売ってきたらいいんじゃないの?
それで羊皮紙を買えばいいのよ」
「でもこれは自分で使いたいのよねえ。
人数分あれば移動が楽でしょ」
「でもどこへ行くの?
全員そろっていかれるのはバタバ村とこの王都くらいのもんよ?
ナウィンはジスコ行ったことないし、カナイ村はミーヤしか行ったことないもの」
「そう言われてみればそうだけど……
でも今は取っておくことにするわ。
それよりもう魔鉱が無くなってしまったけどこっちは買えないから大問題よ」
ナウィンの錬金術修業は高純度結晶が作れる熟練度をわずか超えたところで、こちらも成功率が低くほとんどの魔鉱は塵と消えていた。魔封結晶を作ってもらうためにも、バタバ村へ行くなりローメンデル山へ行くなりして狩りをして入手しなければならない。
「ヴィッキーの用意はどれくらい進んでいるのかしら。
さすがに移住希望者を集めるのは大変なんでしょうね」
「いきなり移住じゃなくて工事もあるんだから出来ることから始めたらいいのよ。
でも絶対に魚取りに行く弓使いは見つけてほしいわ」
レナージュはよほどあの滝へ行くのが嫌なのだろう。体を柔らかくするために柔軟でもやればいいと勧めたが、そんなことするくらいなら魚は食べないと言われてしまった。まったく変なところで頑固である。
ミーヤはと言えば、書術の修行を頑張りつつ、合間には王城の料理人へレシピを教えたりマーケットでスパイスや調味料を中心に在庫の補充をしていた。そんな役目もあることから宿の代わりに王城で部屋を提供してもらっており、あの屋根の無い宿屋へ泊まらずに済んでいるのは嬉しい限りだ。
だがマーケットで宿屋のレブンに出くわしたときは随分と文句を言われてしまった。だがあのおんぼろ宿屋を利用しないからと言って怒られる筋合いはなく、適当にあしらったのだった。
「そう言えばレブンの宿屋はまだ屋根をなおしてないのねえ。
もうあきらめてバタバ村へ移住したらいいのに。
ヴィッキーはあの壊れた宿屋のこと知ってるのかしら」
「ワイバーンが落ちて来たって話だから当然知ってるでしょうね。
事故で壊れたからと言って国で支援してあげるなんてことは無いのは明白だけど」
「宿屋を治してあげる代わりにレブンをバタバ村へ連れて行けばいいんじゃない?
王都の宿屋はご両親が経営してるわけだしね」
「ミーヤったら随分無茶なこと言うわね。
いくら王族と言ったって何やってもいいわけじゃないのよ?」
「そうよね、まずは本人の意思が大切だもんね。
明日聞いてみることにするわ。
バタバ村で稼げば実家をなおせるって言えばきっとのってくるわよ」
「なるほどね、それは名案だわ。
いつまでもここにいたって仕方ないし、早く行動に移したいもんね」
と、当人たちが誰もいないところで盛り上がり、勝手に計画を立てるミーヤとレナージュだった。だがこの案にはヴィッキーも賛成し、明日になったら宿屋へ行ってみることになった。
「大工と料理、それに牧羊養殖の手配は出来たわ。
細工はナウィンがやってくれてるからしばらくはいいわね。
あとは鍛冶屋と農耕も欲しいところだけど当てがないのよねえ」
「農業国なのに農耕できる人が不足しているの?
なんだか不思議ね」
「大農園が広すぎて農耕スキル持ちのほぼ全員が働いてるからね。
同じ理由で召喚術師も不足気味よ」
不足していると言っても田舎のそれとは事情が異なり贅沢な悩みに聞こえる。カナイ村なんて食器を作る細工師だってミチャしかいなかったし大工なんて一人もいない。料理ができるのもマールたち三人しかいなかった。
過去をさかのぼればこのトコストだって一つの村だった。それが農業と言う、人が生きるために最重要とも言える産業に注力してここまで栄えたと聞く。
カナイ村で同じことが出来るとまでは思わないが、それでも徐々に発展させることは目指したい。それには何を推し進めるべきかそろそろ考え始めるべきなのかもしれない。
そのためにはまずバタバ村の改革を手伝うのだ。そしてその経験をもとにカナイ村を世界一の村にして見せる! いや? 大きな村ならそれは街なのではないだろうか。まあ細かいことはおいおい考えればいい。
夕飯を食べながら色々と考えすぎたので味がよくわからなかったがおおむね好評のようで一安心だ。商人長へ断りなく王城の料理人へいくつか教えてしまったが、魚が潤沢に使えないと意味がないレシピだし問題ないだろう。
これでバタバ村の名物料理は決まったようなものだ。あとは水牛の乳からモッツァレラを作ればピッツァマルゲリータも出来てしまう。あとはウナギだ、絶対にウナギのかば焼きを作りたい!
あまりにも野望めいたことを考えすぎて疲れたのか、その夜はいつもよりぐっすりと眠ることが出来た。早寝したので次の日は早く起きたのだが、レナージュはやっぱり昼過ぎまで目を覚まさなかった。
そんなレナージュを置いてきぼりにしてレブンの宿屋へ出向いたミーヤとヴィッキーは、無事に交渉成立となり建物が出来た後に入植することとなった。問題はあの言葉遣いだが、王都ではそれでも通用しているようなので心配しすぎだと思うことにする。
こうして概ね準備が出来たのでバタバ村へ向かう目途がついた。先行隊として大工と牧羊の担当者たちをヴィッキーが連れて行くことになった。ミーヤたちは後発隊として料理人たちとともに向かう。
「それじゃ私たちは明日の朝に出発するわね。
ミーヤたちの隊は護衛いらないわよね?
むしろこっちのが心配だわ」
「でも戦士団を連れていくんでしょ?
盗賊も出ないだろうし問題ないんじゃないかしら」
「だってこの間の帰り道でアンデッド出たじゃないの。
戦士団は盗賊や街中のケンカくらいしか相手にしてないのよねえ」
「ヴィッキーは神術使えるんだから浄化すればいいじゃないの。
この間も使わなかったけど何か理由でもあるの?」
レナージュの問いは当然だ。そう言えばローメンデル山ではイライザが浄化で大量のアンデッドを成仏? させていたことを思い出す。するとヴィッキーは当たり前のようにとんでもないことを言いだした。
「だって知ってる? 浄化したら魔鉱を落とさないのよ?
それじゃ戦う意味ないじゃないの」
「ちょっとあなたねえ……
多少の魔鉱よりも命や時間のほうが大切じゃないの。
あの程度の相手にやられることは無いにしても数が多ければ手間がかかってしょうがないわ」
「王都では魔鉱の稼ぎ先が少ないから貴重なのよ。
それでなくても冒険者組合へ持ち込まれる量が減ってるんだからね」
そう言えば魔鉱の買い取り価格が上がっていると聞いたが、そのこともまさかノミーが関係しているのだろうか。色々なことを聞いているうちにノミーとジョイポンがなにか企んでいるような気がして心配になってくる。まだ時間があるとはいえ本当にナウィンを預けて大丈夫なのだろうか。
ふと気になってナウィンを見ると、チカマと一緒に水飴を練っていた。無邪気に笑っているこの笑顔、出来る限り守っていきたいと考えるミーヤだった。