141.まさかの同行者
レナージュとヴィッキーの二日酔いで丸一日無駄にしたミーヤたちは、次の目的地について相談していた。選択肢としてはジスコへ戻るかローメンデル山へ行くか。そしてもう一つの選択肢……
「ねえ、私ジョイポンへ行こうと思うんだけどどうかな?
みんなは行っても面白くないようなところかもしれないけど……
でも私は一度行っておきたいのよ」
「私は構わないけどねえ。
ナウィンは平気なの? 近づきたくないんじゃない?」
「別に犯罪者として手配されてるわけじゃないから拘束されるわけじゃないでしょ。
それに期日が来る前に様子を知っておくのも悪くないだろうって思うの。
もちろん嫌なら仕方ないけどね」
「いや、えっと、あの……
怖いですけど確かにミーヤさまの言うこともわかります。
それにみなさん一緒なので平気です」
「ナウィン、ありがとうね。
チカマも一緒にジョイポンへ行ってくれる?」
「ミーヤさまの行くところがボクの行くところ。
ぜーんぜんもんだいなし」
「それじゃ決まりね。
とりあえず馬を確保しなければいけないかしら。
ナイトメアを売ってしまったのは失敗だったかもねえ」
「ミーヤの背中にチカマかナウィンを乗せて行けばいいじゃない。
私を乗せて移動できるくらいだもの、チビちゃん一人くらいなら余裕でしょ?」
「ボクはチビじゃない!
レナージュはおばあちゃんのくせに!」
珍しくチカマが言い返してレナージュとにらみ合っている。どうやらチカマはミーヤの背にレナージュを乗せたことが気に入らないらしく、あの時以来たまに突然背中にしがみつくことがあった。
だがさすが年上のお姉さんらしく、レナージュはチカマをほっぺを摘まんだりくすぐったりして場を和ませてくれる。もうバタバリゾートでの仕事は無いので、のんびりと過ごしながら旅の支度を整えるだけだし、レナージュなんて安心して深酒が出来ると開き直っているくらいだ。
ナウィンはそんなレナージュのために予備の弦を何本も作っているし、チカマだって果物集めをして働いている。ちなみにミーヤは馬を探しに行ったり干物やベーコンを作ったりして一応働いている。
そんな姿を見てこのままではいけないと思ったのか、レナージュはチカマと一緒に森へ入り鳥を捕ったり木の実を集めたりするのだが、帰ってくるとやっぱり飲んでしまい翌日は昼過ぎに起きると言う悪循環である。
こうして三日経って物資の用意が十分と言えるくらいになり、いよいよ明日か明後日には出発となったのだが、どうにもレナージュの歯切れが悪くなった。どうやらもう少しバタバ村に滞在したいらしい。
「そうは言うけどもう準備は整ったし、時間がもったいないわ。
レナージュは何かやっておきたいことあるの?
でもその割に毎日お昼まで寝てるじゃない」
「それは確かにそうなんだけどさ……
ジョイポンまで結構遠いし、出発したらのんびりできないから今のうちにってね。
あと二日でいいからお願い!」
「別に急ぐ旅でもないから構わないわよ。
二日後には羊皮紙が届くからそれを待ってもいいしね」
「ミーヤありがとう。
その好意に応えて明日こそは朝起きるわ!」
だがレナージュが起きたのは十四時前だった…… ヴィッキーも大概ねぼすけさんだがさすがに昼には起きてくる。
「レナージュ? なんだか疲れてるみたいだけど大丈夫?
ただの飲みすぎならいいけど具合悪いなら言ってよね。
昨日もヴィッキーと一緒に遅くまで起きてたみたいだしさ」
「まあね、いざ離れるとなるとあれこれと話したくなるものなのよ。
約束通り明後日には出発しましょ」
そしてその翌日――
「なんで!? どうしたのよ!
もしかして一緒に行ってくれるの!?」
「ああ、家にこもりっきりだとなまっちまうからな。
本当はレナージュがうるさくて仕方ねえからなんだけどさ。
アタシもジョイポンは行ったことないから興味があるんだよ」
「レナージュったらなんで黙ってたのよ。
まさかまたイライザと一緒に旅ができるなんて。
本当にとっても嬉しいわ!」
なぜサプライズにしたのかわからないが、レナージュはこっそりとイライザへ声をかけていたのだった。久しぶりの再会に驚くとともに、こんなに嬉しいものなのかとミーヤは意外な喜びを感じていた。
そしてもう一つのサプライズ、それはなんとバタバ村で一人になってしまうヴィッキーの元へ客人がやってきたことだった。
「いや俺はタダで泊まれるって言うから来ただけだぜ。
特に深い意味とか裏とかはねえから」
「あなた素直じゃないわねえ。
じゃあなんでそんなに毛を撫でつけて手入れしてからやってくるのよ。
ヴィッキーが一人で寂しがらないよう相手をお願いね。
でも飲みすぎて仕事に差し支えたら困るからほどほどに」
「レナージュったらなに余計なこと言ってるのよ。
私はちっとも寂しくなんかないわ。
まあ仕事を手伝ってくれるみたいだからこき使ってやるけどね」
どうやらこちらもレナージュが裏で手を回し『六鋼』はバタバ村を拠点として活動することになったようだ。彼らの拠点として、ミーヤたちが使っていた家を引き渡すことにしたが、そう遠くないうちにトラックはヴィッキーの家に転がり込むだろう。
こうして素直じゃない二人を冷やかしながら、夜には出発前最後の宴を開きみんなで大騒ぎしたのだった。
翌朝、もはや様式美のようになったレナージュの二日酔いは、イライザが補充として持ってきてくれた酔い覚ましのおかげで後を引くこともなかった。もちろん出発も予定通りと珍しく順調である。
予定通りでなかったのはチカマくらいで、本当はミーヤの背中に乗って旅するはずが、イライザの駆る馬の後ろにのせられて不満そうだ。だが長距離の移動になるので身軽で済んだミーヤはホッとしていた。
「チカマ、どこかで少しだけ乗せてあげるから機嫌なおして。
私だってずっとじゃ疲れちゃうんだからね」
「だいじょぶ、ボクいい子だから。
ほんのちょっとつまらないだけ」
「ふふ、いい子ね。
でもイライザの髪に水飴くっつけないよう注意しなきゃダメよ?」
「チカマは相変わらず甘えん坊だな。
あんま変わってないから安心したよ」
「イライザも変わってないわね。
マルバスとは相変わらず仲良くやってるのかしら?
愛し合ってる相手がいるなんて羨ましいわね」
「ちょっ! そんな恥ずかしいこと言えるかっての。
さ、そろそろ行こうぜ」
「それじゃヴィッキー、行ってくるわね。
トラックと仲良くやんなさいよ」
「もう、余計なお世話よ!
ミーヤったら神人のくせに色恋の話が好きすぎよ
ちょっと下品じゃないかしら?」
「そんなことないわ、みんな愛し合っているなんてステキじゃないの。
私だってみんなのこと大好きよ」
なんとも歯が浮くような言葉を平気で言えるのは今が幸せだからだろうか。生前はそれほど人間関係に恵まれたとは言い難かったが今は違う。こんな素敵な仲間と旅ができて幸せだし、帰るべき場所も有り待っていてくれるマールもいるのだから。
だからチカマにとって頼れる家族でありたいし、ジョイポン行きに不安を見せているナウィンにとっての拠り所になれたらうれしい。そしてそれを目指して経験を積んで成長していこうと改めて決意を固めるのだった。
第七章はここまでです。バタバ村を拠点としたのんびりした生活が一区切りとなり、ミーヤたちはまた旅へと出発しました。次はどんな出来事が待ち受けているのか、それともなにもない平穏な日々なのでしょうか。
次回からの第八章にご期待ください。