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聖女なんかじゃない!!  作者: 61
第4章:私は幸せなキスをしますわ。
39/48

秘密の『暗号』ですわ。

聖女なんかじゃない!

第4章:私は、幸せなキスをしますわ。

第3項:秘密の『暗号』ですわ。


あらすじ:やっと聖道院を抜け出せた。

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王宮への入り口となる正門を通るには3つの条件がある。


ひとつは身なり。

格式高い門はいつも誰かに見られている。自国の商人から他国の外交官まで。みすぼらしい人物の出入りを許せば、王宮としての品位が疑われて、交渉の時に足元を見られてしまうわ。だから、豪華に装飾された正門を通れるのは、きちんと着飾れる人だけなのよ。


ひとつは身分を示す紋章。

正門を見張っていれば、ショジョラコーン王国がどこの国の外交官や商人たちとどれくらい頻繁に交渉しているのか判ってしまうわ。だからと言って、紋章の無い馬車を通すわけにはいかないの。紋章の無い馬車は乗っている人物を隠す必要があるからだと、要らない詮索を受けかねないわ。


最後のひとつは、王宮に必要とされている証。

簡単に言えば招待状ね。王宮で働いている人たちなら許可証となる。正門の前で紋章の付いた馬車を待たせたりすると要らない噂が立ってしまうわ。だから、招待状が無ければ必ず追い帰される。必要であれば、後日正式に招待すると言われてね。


たかが門とは言え、正門は外交の最前線。


どれかひとつでも足りなければ正門をくぐる事はできないの。当然、聖道院に入れられる前の私は、オイラー様の相手として表門から迎えられていたけど。


でも、今の私はどれもこれも失ってしまった。


家を追い出されてドレスは無いし、貴族の令嬢と言う地位は聖女の地位に落ちてしまった。そして、誰かに招待されたわけでは無く、オイラー様のもとに押しかけてきているの。だから正門からは絶対に入る事ができない。


かといって、裏門は簡単に入れるのかと言えば、同じように制限がある。


当たり前よね。門番もバカじゃないから不審者を入れるわけが無いじゃない。なので、素性も判らない人物が訪問したら追い払われるし、怪しい人物が訪れれば捕まえられる。


裏門はただ、華やかな王宮が見せるには少し恥ずかしい、生活に必要な物の搬入や雑事をこなすための門と言うだけなの。スパイだって表門だけじゃなくて裏門も見張っているからね。


今、足を止めた私の目の前にそびえる裏門には門番が2人、背筋を伸ばして立っていた。


夜遅くに納入される品物や、御用聞きに窺う商人なんていないけど、手薄だと思われやすい裏門は不審者に狙われるし、火急の伝令が届くかも知れないもの。


門の中に見える詰め所には、さらに数人の衛兵がいるはずよ。門番が異常を感じた時に大勢の兵士に取り囲むために。まぁ、それくらいしてもらわないと私がオイラー様のお嫁さんになって、王宮で暮らすようになった時に安心できないけどね。とは言え、今は歓迎できる状態じゃない。


「どうした?大丈夫なのか?」


「しっ。静かにしていてよ。今からが大事なとこだから。」


カゴの中のワインのビンの隙間からフロンが飛び出そうとしてくるのをマントの下で押さえる。兵士でもない限り、裏門でも武器を携帯して通る事は許されない。それどころか、聖剣を聖道院から持ち出した窃盗犯と捉えられてもおかしくないわよね。


背中を丸めて灰色のマントのフードを目深にかぶるとドキドキしながら足を進めた。


「止まれ!この時間に何の用だ?」


門番は槍の石突を突いて厳しい声で私を制止した。


でもまだ、槍の穂先を向けられていないから警戒は薄いはず。完全に警戒されていたら穂先が首元を狙っているんじゃないかしら。もしかしたらマントの上から覗える体のラインに危機感が薄くなっているのかも。ほら、私って、聖女達ほどでは無いけれど、出る所は出ているし。


「『紫の館』より『桃色のワイン』を持ってまいりました。」


私はマントの隙間から1本のワインを覗かせた。オイラー様の侍女たちとかくれんぼをしている時に、何度かここで盗み聞いたこのなんの変哲もない言葉は、実はこの2つの『紫の館』と『桃色のワイン』は暗号になっている。許可証が無くても女性だけが使える言葉みたいなのよね。


意味は解らないけれど。


同じような暗号でいろいろな女の人が裏門を通っているけれど、色の付いた館と色の付いたワインの名前。ワインを持ってくる女の人の年齢や格好で大まかに色分けがされているみたいだった。だから私と同じくらいの年恰好の女の子が言っていた暗号を選んだわけよ。


「さて?今日は『紫の館』からの納品は聞いていないが。どこへ届けるのだ?」


予定外の反応に私は内心で焦る。ワインの納入をあらかじめ報告されているとは思って無かったのよ。昔、見た時は暗号を言うだけで簡単に通っていたからもっと楽に侵入できると思っていたのだけど。


だけど、いちいち顔に出していたりしていたら令嬢なんてやってられないわよ。オイラー様に群がる令嬢たちを相手に鍛えたからね。ナニミールと長い時間をかけて練った作戦が失敗しそうになった時を考えれば、一晩で考えた即席の企みが失敗する程度はどうってことない。


もっと薄い氷を踏むような思いは何度もしてきた。


私は俯きそうになる顎を無理に上げて不満そうに唇をへの字に曲げると、目深にかぶったフードに手を入れて頬に当てて首をかしげた。


「さぁ、私は『青の6番』様に届けるようにと聞いていませんけど、聞き間違いかしら?」


「『青の…』し、失礼しました。」


私が追加で暗号を加えると門番たちの顔つきが変わった。この暗号を使った娘はやけに丁寧に扱われていたのよね。今でも十分通じるらしいことにホッとすると同時に、変更しなかった人に対する罵倒が脳裏に浮かんだ。安全に関する物は定期的に変えるべきなのよ。


「生憎、私どもは持ち場を離れるわけには行きませんので、あちらに見える扉から、宮殿の中に入ってすぐの右手に下女が控える部屋がありますので、そちらを尋ねていただければ案内をしてくれるでしょう。」


「丁寧にありがとう。あ、これは皆さんで飲んでください。『青の6番』からの差し入れですわ。」


笑顔を浮かべてツタ籠の中のワインの1本を手渡すと門番の顔も緩んだ。


暗号を使う娘たちの中には同じようにワインを渡していたのよね。付け届けなんて王宮ではよくある事だけど、2本しか無いワインを渡してしまった娘たちはいったい何を売りに来ていたのかしら。疑問に思いつつも、聞けば藪蛇になりかねないと、ニッコリとだけ笑ってごまかした。


「あ、いや、これはまた上物ですな。勤務が終わりましたら皆で頂く事にいたします。」


軽く手を振って入った門が閉まりきる寸前、門番が安心したように会話をしだしたので手を止めた。さっき頭をよぎった疑問の答えが聞けるかもしれない。彼らの興味は見えなくなった私からはすでに離れてしまっていて、門が閉まり切っていない事にも気が付いていない。


「『紫の館』って言っていたが、あの服は聖女だよな?」


「ただの仮装だろ。最近は役になり切ってするが流行っているらしいぜ。」


「楽しいのかそれは?」


「さあな。」


「それにしても若かったな。」


「ああ、『青の6』でも驚いたが、あの方の好みにしては若いよな。連絡が来てなかったのも当然かも知れねぇ。」


「親子ほどの歳の差が後ろめたくて、下働きに連絡せずに自分で手配したんじゃねえか。だからこんな上物のワインを差し入れたんだろうが、迷惑な話だぜ。」


「となると、中の連中にも連絡が入ってない可能性が?」


「高いな。ま、アイツ等はオレ達よりも内情に詳しいだろ。外にいるオレ達と違って直に貴族様達と話ができるんだ。」


「あの年になって元気すぎるって言うのもどうしたもんだかね。もう少し火遊びは控えて欲しいんだが。」


「あんな小娘のどこが良いのやら、あの店もしばらく行ってないが路線を変更したのかな?」


「久しぶりに寄って帰るか?」


「馬鹿言え、オレはロリコンじゃねえんだ。それに、今夜行ったら嫁にどやされる。」


「所帯持ちは世知辛いねえ。」


「悪い事ばかりじゃねえぜ。」


知らない言葉の混じった門番たちの会話は結婚のすばらしさを諭す内容に変わり、結局、私の疑問は解消されなかった。お店に娘たちに会いに行って何をするんだろう?


ま、いいけどね。


私はため息を吐いて僅かに空いていた扉の隙間をそっと閉めた。



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次回:私の『遊び場』ですわ。



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