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聖女なんかじゃない!!  作者: 61
第2章:聖剣の相手をしろ、と言われましても。
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『いう事』を聞いてくれないんです。

聖女なんかじゃない!

第2章:聖剣の相手をしろと言われましても。

第9項:『いう事』を聞いてくれないんです。


あらすじ:鉄クズのクセに生意気だ。

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あっちへフラフラ。

こっちへヨタヨタ。


「もう!そっちに行かないでってば!」


思わず悪態が突いて出るけど、仕方の無い事だと思うの。制動の効かない車輪が付けられた7段もある階段の周りを、ちょこちょこと走り回りながら少しずつ動かしているのよ。


侍女のナニミールがティーセットを運ぶワゴンは、持ち手から遠い方の車輪は固定されていて回らないのに、近い方の車輪は自由に回転する。片方の車輪が固定されているから独りでも安定して動かす事ができるの。


だけど、この階段の車輪は4つとも自在に回転するようにできている。自由に動くから真横にスライドするような動きができたり回転の中心を変える事ができたりと、ワゴンより小回りが利くの。今の私にはありがたくない機能だけど。


2つに分けられた物置の狭い空間を利用するために小回りが利くように作られているのだろうけれど、これがなかなか厄介で、車輪がくるくると回ってしまって私の意図とは違う方へと言ってしまうの。


「なんで、こんなに重いのよ!」


軽ければもう少し楽なのに、階段にはゴテゴテと飾りがついていて重たい。聖女が使うだけなら、もっと軽くしてくれてもいいのよね。


「そりゃ、聖女以外にもその階段を使うヤツがいるからさ。」


なぜこんなに立派な階段は来客が来た時にも使うらしい。王都に住んでいる貴族なんかは少ないけれど、初めて王都に訪れた地方の人が聖剣を見にこの部屋に寄る事を希望するらしい。


こんな聖剣でも田舎に行けば見たってだけで自慢になるのね。


無駄に荘厳に作られた聖剣の間も、聖剣を際立たせるために造られている。「貴方だけ特別ですよ」と囁いて礼拝堂の奥の特別な部屋に連れ込む。そして、立派な階段をだしてきて聖剣を間近で見られるようにしてあげれば、田舎から訪れた人は感動して多めの寄付をくれるそうだ。


そして、荘厳な部屋にある世にも珍しい聖剣を特別に間近で見せてもらったなんて、誰かに喋りたくなるわよね。噂が広がれば聖道院を訪れる人も増える。そうやって、聖道院へと入る寄付を増やそうと言う計画らしい。気の長い話だけど。


「本当に、この階段を独りで動かせるの?」


「上手い奴は、な。だけど、客が来た時は2人で運ぶぜ。」


特別感を増やすために階段は聖女2人が儀式のように恭しく運ぶらしい。1人の聖女が軽々と動かせるようなハシゴを持ってこられても特別感は出ないから。


どうせなら儀式用と普段使い用と分けておいてくれれば使いやすいのに。元々1つの部屋だった物置は狭くて、置く場所が無さそうだけど。


やっとの思いで物置の小さなドアから階段を聖剣の間へと運び込んだのだけど、今度は行き先が広がって階段が動いてしまう幅が広がった。


「ほら!そっちに行きすぎるとステンドグラスを割ってしまうぜ。」


聖剣を彩るために組み込まれた巧みな色ガラスのステンドグラスは、一目見るだけでも手が込んでいて、かなりの高額になるのは間違いない。ラビットダンス家を追い出された私には到底、弁償なんてできそうもないくらい私の財産はドレス一枚しかないのに。


ステンドグラスは絶対に割りたくない。


もしかすると院長はワザと私ひとりにやらせて、ステンドグラスを割るのを待っているのかもしれないじゃない。だって、私を聖女に仕立て上げた嘆願書には継母の名前も載っていて、私が聖道院に付いた時には私の私物を処分する手筈を整えていた。


かなり高い確率で、継母と院長の間には面識があると思うの。


院長は私がステンドグラスを割るように仕向けていると疑いたくもなる。継母に頭を下げさせるために。家を出されたとはいえ、ラビットダンス家に籍を置いていたのは誰でも知っている。私に非があれば頼らなくちゃならなくなるし、頭を下げさせれば継母が喜ぶかもしれない。


私に頭を下げさせるくらいなら、継母は多少の出費は痛くないとか考えていたりしないわよね?ステンドグラスの代金に加えて、謝罪の意味を込めてそれなりの寄付もしなければならなくなるのに。


父は私が泣き付けばお金を払わなければならないだろう。表向きには私に非があって家を追い出されたわけでは無いからね。


お父様が薄情だという噂を広められると宰相の仕事がやりにくくなる。娘を見捨てるような宰相だと、貴族たちも『自分たちも見捨てられるかもしれない』と思うかもしれないからね。まぁ、家を追い出された私にとってはどっちでも良いのだけど。


ただ、これだけは言える。


継母に頭を下げるなんて絶対にイヤ。


ただでさえラビットダンス家の居心地が悪くしたのに、私を陥れて追い出した継母。聖女と言う肩書ひとつをくれて、彼女は私から全てを奪った。絶対に頭を下げたくない。


のろのろとした動きでやっとの思いで、階段を聖女の像の台座に横付けさせる事に成功した。私は階段の4つの車輪に留め金をすると、そのまま階段に座り込んだ。


このまま階段を登っても良いのだけど、少し息が上がっていたの。肌もこっそり浄化の魔法で汗を消しても、すぐにまた上気してしまうくらい。


聖剣に触れた時に、手が震えていたり、手に汗をかいていたりしたら、また笑われそうだからね。息を整える時間をひねり出すために私は聖剣に私は無駄話を始めた。


「ところで、この石像のモデルっているの?」


見上げる聖女の像は私達の着ている聖女の服よりも薄い衣を着ている。その、胸の先端がはっきりと解るのよ。男の人は好きかもしれないけど、ちょっと破廉恥よね。


その聖女の像は少しだけお母様に似ている。


少しだけだけど。


聖剣がここに来たのが最近だから石像が作られたのも同じくらいなのかな。石像が作られた時期にはすでにお母様は亡くなっていたから違うとは思うけど、今居る聖女の中には似た顔の人も胸の人もいない。


「さあな。」


聖剣の返事は素っ気なく答えて、それ以降は喋ろうとしない。さっきまではうるさい位に喋り倒していたのに。だから、私は違う話題を探さなければならなかった。


「アンタはいつからここにいるの?」


聖剣が購入された噂は広まっていたけれど、式典で聖剣が使われたり、誰か騎士に譲渡されたりという話は聞いた事が無い。私が知っている限りだけど。


そもそも、高い聖剣を買ったのにお披露目すら開かれてない。たぶん、公式には一度も。この国の王子であるオイラー様でさえ、聖剣を見る事ができなかったから、私はオイラー様といっしょに大人たちに隠れて見に行ったのよ。


普通は立派な聖剣を手に入れたなら自慢するものでしょう。貴族なら特に。


「あん?この国に来てからずっと、オレ様はずっとここに居るぜ。」


「どんな問題があったのよ?」


「ギクリ。」


安くない買い物なのに、役に立たなかったのは明らかみたいだ。言わなくて良いのに声に出したのは顔の無い彼の癖なのかもしれない。冷たい鉄クズが冷汗をかいているようにさえ見えるのは芸が細かいわよね。


「どんな悪さをしたのよ?」


買ったけど問題があったから聖道院なんかに放置されている。聖女が居るとは言え聖道院は神殿なんかより礼拝堂もずっと小さくて参拝客も少ない。だから、寄付金にも困っている。役に立たなくても神様を祀る場所はいくらでもあるんだから、欲しがる場所はあるはずなのよ。


「何もしてねぇよ。ただ…。」


言い淀む聖剣に向かって私は階段を上る。息は整って汗は浄化の魔法で消した。聖剣の答えを聞いたら終わり。油断している所を捕まえて布でぐるぐる巻きにしてやるのよ。


「ただ、オレ様がオレ様を持つべき主を選ばなかっただけだ。」


「持ち主を選ばないとどうなるのよ?」


別に剣に主と認められなくても困る事は無いわよね。院長が考えたように、剣だからって振りますだけが人の関心を引く方法じゃないのよね。聖剣に欠陥があったって見世物にするくらいはできるのよ。こんな面倒な場所で、面倒な階段を使って見世物にしなくても方法があるはずなのよ。


私は聖剣の柄に手をかけた。冷たい金属のひやりとした汗の引いた手に伝わってくる。


「こうするのさ。」


私は聖剣を手にすることに成功したけど、彼は聖女の像の手の平からピクリとも動かなかった。



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次回:『慈悲』なんてありませんわ。


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