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聖女なんかじゃない!!  作者: 61
第1章:ある日、聖女にされました。
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久しぶりの『時間』でした。

聖女なんかじゃない!

第1章:ある日、聖女にされました。

第2項:久しぶりの『時間』でした。


あらすじ:聖女に仕立てられた。

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それは朝食も終わり、のんびりとした時間だった。


やれ、愛想が無いだとか、作法が成っていないだとか、母親らしいことは一切せずに小言ばかりを言ってくる義母とそれに同調する義妹達。彼女達もどこかの昼食会にお呼ばれしたと言って朝からいそいそと出かけて行っていた。


いくら広い屋敷だとは言え、ひとつ屋根の下に暮らしているから気をつかう。普段だったら会わないように、屋敷に居る時は部屋に篭もるようにしている。まぁ、私はほとんどの屋敷になんて居なくて、お城にいるこの国の第一王子、オイラー様の所に行っていたのだけど。


ああ、彼とはもうすぐ婚約を発表する予定なのよ。


彼が成人する日に合わせて発表するという事で内々に話が進んでいる。彼には幼い頃から目をつけていて、ずっと愛を育んできたの。王子様と言う立場の彼だからライバルが多くて大変だったけど、何とか婚約者の地位をもぎ取ったのよ。


この日の彼は外せない式典があって、会えなくて寂しかったのだけど。


ついでだからと、継母とは別の意味で口うるさい乳母も用事を与えて出かけさせた。予定も無いから気兼ねもなく、自由に振舞うことができる久しぶりの日。思いっきり羽を伸ばして思いっきりダラダラするつもりだったの。


すごく大人な本だって読めちゃうのよ。


開け放たれたテラスからは良く手入れが行き届いた庭が広がっていて、心地のいいそよ風が流れていた。幼い頃から母と遊んだここは落ち着ける場所だったのだけど、継母たちも気に入ったのか居座るのよね。だから、この部屋に来るのも久しぶりだった。


サイドテーブルに軽くつまめるお菓子と紅茶を置いて、ウッドチェアーで足を伸ばし、両手の平を広げたくらいの小さな本を厚い本の間に挟んで開いた。


キスシーンもある、すごく大人な恋愛物語。


普段なら乳母の目が厳しくて、こんな大人な本が部屋にあれば目くじらを立ててお説教される。この本だって私の侍女がコッソリ隠し持っているのを勝手に借りてきた物だ。彼女は屋敷に残っているけれど、勝手に持ち出したと知っても笑って軽く冷やかしてくれると信じている。


ドキドキしながら夢中になって読み進め、そろそろ初めの章が終わるかという時に、背後の扉がトントントンとノックされた。慌てて厚い本のページの間に隠すのは、やっぱり冷やかされるのが嫌なのよ。おかげでページを飛ばしていたりして、なかなか最後まで読み続けられない。


「どうしたの?」


ドアを開けて視界に入ってきたのは手入れの行き届いたピカピカの革靴。濃緑のロングスカートとエプロンドレスを揺らさずに隙も無く歩いてきて私に優雅に一礼する。


私の侍女としていつも側にいてくれるナニミールだ。


私はコッソリと厚い本にはさんだ小さな本がページの裏にしっかり収まっているかの確認に忙しくて、彼女のお辞儀を見逃したけど。


「お嬢様、聖道院より使者がいらしています。なんでも至急でお招きしたいとのことですが。」


「バカじゃないの?どこの田舎者よ!」


私の粗暴な言葉にナニミールが顔をしかめるけれど、彼女も同じ意見らしく口を挟む気は無かった。


貴族の、それも侯爵家の令嬢をいきなり呼び出すのは失礼な話よね。常識があるのなら、少なくとも3日前には使者を立てて手紙のやり取りを通してすり合わせをして、必要なら呼び出しを受ける。


同等いえ、下位の相手に会う時でさえ気をつかう。お互いの時間や場所の都合があるのはもちろんの事、他にも色々な用意をしなければならないからね。


季節に合わせたドレスや化粧から始まって、手土産選びも重要よ。話題になりそうなあれこれの情報も集めるし、嘘を吐くために根回しして口裏合わせだって合わせることもある。そのために手紙で大まかな話の筋を打ち合わせしておくのだから。


面識の乏しい、それも援助を募るような聖道院。下位の者が急に呼び出すなんて失礼にもほどがある。


愛しのオイラー様の元へなら、喜んで飛んで行くのだけど。


とは言え、聖道院の後ろ盾には大聖堂、いや、この国そのものが着いている。大きな国の間に揉まれる小さな国。ショジョラコーン王国。聖道院という他の国にはない施設を作ったのは宗教でも信仰でもなく、この国が必要としたからなんだ。


そして、貴族の一員として、そして王子様のお嫁さんになる予定の私としては国の意向を無視する事はできない。いくら常識が無い呼び出しだと言っても無下にはできないと、この時の私は思っていたのよ。今は院長の首を挿げ替えるくらいしても良いと思っているけれど。


「それで、なんの用なの?」


荒くなる口調につられて眉間にしわが寄らないように気を付けつつ、私はナニミールに問いかけた。私の優秀な侍女はお客様の用件を聞いてこないなんて事はない。


「それが、自分は迎えに来ただけで用件を知らないとの一点張りで…。」


私が幼い頃に拾ったナニミールは孤児だった。だからだろうか、ものすごく努力して今では私の優秀な片腕になっている。報告に来る前に使者の身元も確認しているだろうし、何度もくりかえし使者に問い質したに違いない。


彼女が言葉尻を濁しているのは、用件が解らないけれど急ぎだという事でとりあえずの判断を伺いに来ているのだと思う。私の判断の後には今まで私とほとんど縁が無かった聖道院関係の情報を集めてきてくれるだろう。


とは言え、今はまだ判断の材料がない。


ナニミールの対応が悪かったのか、あるいは聖道院の使者が無能すぎるのか悩むことも無く、ため息を吐いた。いえ、5歳の子供だって用件を聞いてくるわよね。子供のお使いより酷いじゃない。


「準備をするから、その間にもういちど用件を聞きに帰るように伝えなさい。」


「かしこまりました。」


あまりの常識不足に頭が痛くなる思いだけど、準備くらいはしとかなきゃね。


手早く本を片付けると、部屋に戻って普段より少し生地の上等な、それでいて大人らしいドレスを選んだ。舐めた態度を取ってくれたのだから、こちらも権力があるという事を示すためにアクセサリーは安めの少し派手な物にした。


あまり上等過ぎるアクセサリーを身に付ければ、精いっぱいのおめかしをして媚びに行っているように見えるのよね。


だから、女の子の準備には時間がかかる。


待たせる事にも意味が有るので焦って支度する必要も無い。あまりに急ぎすぎても、これもまた媚びているように見えるのよ。いくら急ぎだとか人生に関わることだとか、脅し文句をつけられようとしても、できるだけこちらのペースに引き込まなければならない。


だから、2回目の報告に来たナニミールに使者を再び追い帰させて、たっぷりと時間をかけた。


だけど、3度目の報告に来たナニミールはしびれを切らせて言った。


「お嬢様、アイツを殴っても良いですか?」


私は再びため息を吐いた。


直接見える所で手を出したらマズいことぐらい私より年上のナニミールが解らないわけが無い。つまり、それくらい彼女も使者の態度が気に入らなかったんだ。


結局、あの使者は「怒られる」だとか「どうせ教えてくれねぇ」だとかと言い続け、聖道院に戻らずに居座ったままだったそうだ。仕方なく、こちらから使者を立てても返事は同じで、呼び出した人間が誰かすらこの時は解らなかったらしい。


本当なら、この時点で断ることもできたのだ。非礼を続けているのは相手なのよ。後から呼び出しに応じなかったと私の悪口を吹聴して周られても、立ち回るだけの用意はできる。


ただ、少しだけ興味を持ってしまった。


ナニミールを感情的にするほど無礼な人物を使いによこした人物の顔を見てみたいと思ってしまったのだ。私がオイラー様と結婚したらさっさと排除するために。


「3日後に休暇をあげるから、それまで大人しくしていてよ。」


「お小遣いもお願いします。」


当然の権利とばかりのナニミールの主張を手の平をひらひらさせて了承した。私が彼女を制した以上、少し弾まなければならないわよね。


私が、いえ、私達が家を出る前からイライラしていてもおかしくないでしょう?



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次回:『聖女』になんてなりたく無いです。




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