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地蔵さまが見ている

 その村には、鬼の伝説があった。



 その地は、鬼の住まう地であった。

 鬼の地ゆえに、他の者に支配されずにいた。

 その地を支配しようとしたものは、その鬼に挑み、ただ敗れた。

 領主に命じられて来た武官達も、将に率いられた幾千の兵も、名のある強き者どもも、悉く鬼に挑み、敗れ去った。



 人間は、その鬼に恐怖した。



 その鬼の地に、流浪の民にが流れ着いた。

 何処にも往けない流浪の民達は、僅かな希望の元、その鬼に許しを請い、休息を願い、鬼はそれに頷いた。


 その地は、誰も支配できぬゆえに豊かだった。

 しばしの休息が、その民達は、その地で根を張り、村となってしまった。


 その村の端には、お地蔵さまが立っていた。

『この先 鬼の山 近づくべからず』

 その印として置かれていた。



 そして、村に鬼が来た。



 赤と青、一角と二角の鬼は、月夜を一晩中暴れた。

 二角の青の鬼は、人間の村で大暴れするために、

 一角の赤の鬼は、それをただ防ぐためだけに。


 その戦いの音は、朝まで続いた。

 その武闘の音は、人間の村まで響いた。 

 その破壊の音は、どんどん大きくなっていった。


 村の人間達が怯える中で、赤と鬼の鬼が山から現れた。

 その鬼達の暴れるまわりで、大木は小枝の様に折れた。

 その鬼達の足元では、大岩が砕け、細石となっていた。

 鬼達が徹った痕が、山から続く一本の道へなっていた。



 鬼達の真意が解らぬ村の人間達は、逃げることも出来ずに見守ることしか出来なかった。  


「鬼が来た」

「伝説の鬼だ」

「伝説は本当だったんだ」

「もうダメだ、おしまいだ」

 赤と青の鬼、どちらが味方で敵なのか?

 そして、勝った鬼に抗うすべがあるのか?



 人間は、その鬼に恐怖した。



 鬼達は、村の端の近くの川の中で組み合い止まった。

 もう少しで人間の村に届く、その一線で戦うため鬼達は猛った。

 鬼の肌からは水煙が立ち上った。


 その鬼達に、声をかけるものがいた。


「なんじゃー赤鬼ー朝から村にあいさつにきたんけーおはよーじゃー、

 青鬼もおるのーはじめましてーじゃー」

 その子どもは、前と同じように、ニコニコ顔で、鬼達に挨拶をした。


「…、

 あのアホか? 赤鬼どん アホの人間の客というのは」

「ああ…、

 あのアホだぞ 青鬼どん オレをアホと呼んだアホはな」

「…、

 なるほど ほんとにアホだな」

「ああ アホだ、

 だが アホには勝てんぞ青鬼どん」

「…、

 そうだな、この戦いも、アホらしうなってもたしな、赤鬼どん」

 子どもの、そのあまりに、のんきなあいさつに、

 赤鬼も青鬼も思わず大暴れする気が、すっかり抜けてしまった。


 そして、

 まあ、

 いいか、

 と、

 気が抜けた拍子に、鬼達は仰向けにザブンと倒れ込んだ。

 一晩中大暴れして火照った体に、川の水が心地良かった。

 川に流されながら、ええ~天気じゃなーと鬼達は思った。



 そんな様子をを見たあの子どもは、

 …、

「あーっ

 アホが揃て川に流されちょるがなー!

 鬼が溺れんなアホー!

 村のもん早よ助けいかんかいアホー!」

「アホかおめー、あれ鬼やぞ」

「アホー鬼やでも何でも、助けるんやろがーアホー!

 そんに鬼見殺しにしたら鬼に祟れてこん村滅ぶはアホー!」

「そやけどなアホよ」

「赤鬼ー青鬼ー待っとれよー!

 それー♪」

 っと、

 村の人間が迷ってるなか、子どもは命綱もつけずに鬼達を助けに川に飛び込んでしまった。

 そして、


「あー!

 お助けー!」

 と、そのまま川の流れにに流されていってしまった。

 そして、


「アホが、やりやがったー!」

「あのアホー!」

「だれか縄持ってこんかい! 川下へ走れー! 船出せー!」

「鬼も助けるんかいの?」

「あたりまえやろ!

 あのアホのついでじゃー!」

 そして、


 村の人間が大慌てする様子に、赤鬼は嬉しくなった。

「やっぱり、

 人間は仲がええな。

 …さて早よ、アホの子助けんとな」

 そして、


 そう、赤鬼が川に流されている子どものほうを見ると、あの青鬼がバシャバシャと子どもの元へ泳いでいき、子どもをチョイと摘み上げると、ヒョーイと村の人間のほうへ放り投げた。

 村の人間が慌てて子どもを受け取ったのを見ると、また青鬼はバシャバシャと川を泳いでいき、何処かへ去って行った。

「やっぱり、

 …アホには勝てんな、青鬼どん」



 そして、村に鬼が来た。



 赤鬼は一人で村の人間達へと向かった。

「おはよう」

 村の人間達にとって、それはそれは恐ろしい赤鬼だった。

「おはよう。

 うむ、

 挨拶できんなら食ってしまうぞ」

 そう言われてて、慌てて、村の人間も

「…おはよう」

 と、そう応えた。


 その答えに、赤鬼はニコニコ顔でこう答えた。

「こんにちは」

「…こんにちは?」


「調子は、どうじゃ?」

「…はあ? おかげさまで」


「すまんかったな、騒がせてしまったか?」

「はあ? いえ! そんなことは…」


「ここは、ええ村になったな~」

「はい、ありがとうございます」


「たまにはオレのところに遊びに来い、お茶や菓子も出すぞ」

「そんな、恐れ多い」


 赤鬼が挨拶するたび、村の人間は困惑顔で、いっぱいになった。

 気が付くと、あの子どもの姿がなかったので、赤鬼は「またな」と、挨拶を済ますと、山へ帰ることにした。



 帰る途中に出会ったお地蔵さまに「なんかの縁だろ」と、赤鬼は手を合わせる、その地蔵さまをしげしげと見つめた。

 その地蔵さまは、赤鬼が見たことがあるような顔をしていて、あの子どもに待たせたお土産が。お供えしてあり、

 そして、

 そして、そのお地蔵さまは、水に浸かったように濡れそぼっていた。


「アホの子!

 おまえだったのか!?」


 その地蔵さまは、赤鬼をニコニコ顔で見ているだけだった。



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