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8:今後の方針

 前方に映る恵梨香の能力を見た朔斗は言葉が出ない。


(これは……)


 朔斗が内心驚いていることに気づかず、恵梨香が口を尖らせて言う。


「学校の授業で専門分野を学んでいるから、ジョブランクが最下級から下級に上がったんだー。そして【獲得報酬品質特大アップ】と【獲得報酬個数アップ】は、ボスを倒した後の報酬箱にしか効果がないみたいなんだよね。ダンジョン攻略にかかる時間って、ボス戦に比べると道中が断然長いでしょ?」

「あ、ああ」

「だから今言ったふたつのスキルは微妙なんだよね。ボスさえ倒せば有用なスキルだから、高ランクパーティーに入ればエリクサーを入手するのに役立つかな? って昔は考えたけど、私をずっと護衛しながらダンジョンをクリアするなんて縛りゲーすぎるし」


 何かを考えている朔斗のことが気になった恵梨香だったが、今はそれに触れず自分の考えを述べていく。


「大道具師だといずれは高価で有用な魔道具を作れるみたいだから、そっちを活かしてどこか大手企業に入社することも考えてるんだよね。でも私もかなちゃんの力になりたいし……まぁ、口だけだけどねぇ」


 最後は自嘲気味に笑って目を伏せた恵梨香が続けて言う。


「私には前線で戦えるような戦闘力はなくて、敵を殲滅する魔法も命を守る魔法も使えない……せっかくさく兄がソロになったっていうのに、私たちが組んでもダンジョンをクリアなんてできないし、そもそも戦闘職が三人だけでいいって奇特な人はまずいないしねぇ」


(確かに恵梨香はまともに戦闘ができない。経験値を得ていけば身体能力があがるから、ある程度はマシになるだろうが……それにしても忘れてたな)


 朔斗は昔の記憶を掘り起こす。


(恵梨香がジョブを発現させたときに聞いたことがあったのを思い出した。俺と恵梨香が組めばエリクサーを手に入れやすいって一瞬だけ浮かれたが、すぐにその考えが間違いだって気がついたんだよな。あのときの俺と組んでも、今恵梨香が言ったようにまともなパーティーは結成できないと思ったから)


 自分の能力を見てからずっと黙っていた義兄のことが気になった恵梨香。

 彼女は朔斗に向かって言う。


「何か言ってよー」

「ああ。そうだな。まずは結論から言おうか。恵梨香、俺とパーティーを組もう」

「えええ! 今までの話を聞いてた? それに私のスキルも見えてるよね?」

「わかった上で言ってるから安心してくれ」


 その言葉を聞いた彼女は思わず絶叫を上げた。


「実はな、今回の探索で俺のジョブランクが上がったんだ」


 そうして解体師のランクが神級になったことだったり、スキルの進化だったりの説明も同時に行う朔斗。

 当然【解体EX】の効果もきちんと伝えた。

 ひととおりの説明を受けた恵梨香は、一緒に探索できるとは夢にも思っていなかったため驚きが大きい。

 朔斗が言ったことを頭の中で整理していることもあり、静かになった彼女に朔斗が言う。


「今回のことで俺もいろいろと考えてたんだ。パーティーから追放されてソロになったことだったり、ジョブのランクだったり。それに俺はあくまでもエリクサーを諦めたくない」

「うん」

「今から新しいパーティーに加入したり、大っぴらに誰か知らない人を募集したりするよりもソロで活動しようとしてた。それならエリクサーの入手確率を上昇させるためにも、恵梨香と組んだほうがいいって考えたんだ。それに戦闘はソロで問題ないが、ずっとひとりでいるより、気心が知れた人が近くにいたほうが精神的に楽だしな」

「だね!」

「っていっても、ソロでの戦闘を少しは慣らしていく必要がある。今まではモンスターを討伐し終わってから使っていたスキルを戦闘中に使用するわけだから、まずはどの敵を最初に狙うのか、収入をできる限り多くするために、どの程度まで素材を残して解体すればいいかを素早く行えるようにしなきゃいけない」


 いくら並外れた効果を持っている【解体EX】といえど、一度にすべての敵に対して行使できるわけではないのだ。

 そうはいっても、敵にスキルを使った場合は一秒もかけずに討伐できるだろう。


「野営のことは心配しなくてもいい。上級ダンジョンまで有効な野営セットは、あいつらに渡してしまったが、中級ダンジョン以下に対応した魔道具なら購入する金はある。恵梨香が卒業する前に上級野営セットを買いたいところだけどな」


 きちんと自分のことを含めて考えてくれている義兄に、喜びの感情を爆発させた恵梨香が彼に抱きつく。


「さすがさく兄! やったね、これからは留守番しなくていいんだ。ずっと一緒!」

「そんなに嬉しかったか?」

「うん!」

「そっか。それなら良かったが、どこの国でも死因の第一位はダンジョン内でモンスターにやられることで、俺たちの両親に起きた事故を考えればわかるけど、探索者は危険な職業だ。だからこそ、ダンジョンに行ったときは細心の注意を払う必要があるぞ?」

「はーい」


 仕方のないこととはいえ、今まで朔斗がダンジョンを捜索している際、恵梨香がひとりで家にいた。

 彼女の実の両親はふたりとも孤児、朔斗のほうの祖父はすでになくなっている。

 今の朔斗や恵梨香にとって身内といえるのはお互いだけ。

 そういったことで、義兄への依存度が高くなっているは少しまずいなと思いつつも、義妹と一緒にいる時間をもっと取ってあげたかった朔斗としては一安心だ。


 見えるからに機嫌がいい恵梨香の体温を感じている朔斗は、彼女にやんわりと伝える。


「そろそろ離れてくれよ?」

「えー、いいでしょ!? しばらく離れていたんだしさー」


 そう言われてしまえば義妹に甘い朔斗は引き下がるしかない。

 ため息をついた彼が口を開く。


「仕方ないなぁ。でもそろそろ腹が減ったんだが?」

「あ、そうだね。私も。じゃあ、そろそろ作るね! 可愛い義妹の手料理を久し振りに堪能してよ?」

「ああ」


 にこにことした恵梨香が名残惜しそうに義兄から離れ、キッチンへ向かっていく。

 プロ並みの腕とは言えないが、彼女が作った料理はほとんどの人が美味しいと答える味。

 恵梨香は、主に義兄のために料理の腕を磨いているのだ。


 ふたりが住んでいる家は両親が遺してくれた一軒家。

 朔斗がダンジョンやバイトで稼いだお金は、彼の装備や道具に使っているが、きちんと家計にもいれているし、両親が助けた後輩からの謝罪金や父親や母親が遺してくれた遺産もあるので、豪勢とまでは言えないが、ふたりは不自由のない生活を送れている。


 その後、チャーハンやサラダやスープを食べて、義妹と和気あいあいとした時間を過ごした朔斗は自室へ向かう。


 部屋に入り、【ディメンションボックス】の中身を確認する。


(そういえばオーガエンペラーの素材があったな。これは結構いい値段で売れるだろうし、恵梨香が卒業するまでの間にも多少は稼げる。さらに今まで貯めていた金をそこに上乗せすれば、上級野営セットを買えるか)


 この野営セットはダンジョン内で使用する場合に限り、その近くへとモンスターが近づいて来ない。

 これは野営セットの存在がダンジョンに紛れ、モンスターがそれを認識できなくなるからだ。

 しかし、モンスターに自分たちが発見されている状態で使ったときは意味がなく、探索者らが野営セットの中に隠れてもモンスターは攻撃してくるので注意が必要。


 このアイテムは昔々、ダンジョンの報酬箱から発見された。

 入手したダンジョンと同じ等級の所に限ってのみ効果を発揮。

 中級ダンジョンで手に入れた野営セットを、上級ダンジョンで使っても効果を発揮しないので、探索者になる際には、WEOのスタッフからその点を厳重に言い聞かせられる。

 もともとはそこまで高くない確率で、報酬箱からのみ産出されていた野営セットだったが、現在は現物を参考にして研究を重ねた結果、魔道具職人の手で摸倣され、上級までであればいくつかの企業によって販売されている。


(装備は今までどおりでいいか? 片手剣に小さめの盾に部分的な革鎧。だけど余裕ができたら念のため、買い替えて品質を上げていきたいところだな。それにポーション類を多めに持って、保険をかけておこう。あと忘れちゃいけないのが恵梨香の装備だな)


 可愛い義妹が中学校を卒業する前に、朔斗はパーティーとして活動するために必要な備品や、恵梨香が必要とするだろう装備を用意しておこうと考えるのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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