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11:悪魔系・超級ダンジョン4

一月の更新は若干不定期になるかもしれません。

 目標にしていた十五日を一日だけ過ぎた十六日目の今日――<EAS>の面々は、超級ダンジョンの最下層である三十層へとたどり着いていた。

 複数のサタンを朔斗が相手をしている中、彼から離れた場所にいた恵梨香とサリアの元に新手の敵が迫る。

 今の彼女らは朔斗との間に三十メートルの距離があるが、彼が左手の中指にはめている指輪の形をしたモンスターセンサーにあった反応は、朔斗の脳内に警報を鳴らすのに十分なものだった。

 今も目の前に姿を現わさず、油断も隙も無いサタンから意識を切ることなく、振り返らずに彼が大声をあげる。


「後ろから四体のモンスターが来る!」


 今は感知したばかりなので、朔斗と新しくやって来る魔物との距離は七十メートル。

 そうなると女性陣とモンスターはおよそ四十メートルしかない。

 これが超級ダンジョンでなければ、それは十分な間合いと言えるのだが、すでに何日も戦ってきている朔斗からしたら、敵のスピードが一気に上がっているここのモンスターは、恵梨香やサリアには危険にしか思えないのだ。


 もうすぐBランクとはいっても、朔斗は未だCランクの冒険者でしかなく、まだまだ身体能力の強化が不十分。

 そのため、彼自身も超級ダンジョンに出てくるモンスターの速さについていけているなんて、お世辞にも言えない状況なのだが、戦闘を一手に担う朔斗からしたら、恵梨香とサリアは自分が守るべき対象なのだ。


 最愛の人からの忠告を受けた恵梨香がまず先に振り返り、それに続いてサリアも腰を反転させる。

 そうして彼女らの視界に映り込んできたのは、やたらと整った外見をした魔物。

 漆黒の翼を広げながら空を飛ぶモンスターの左右の側頭部に生えている白い角が目を引く。

 どのような生地で出来ているのか不明なジャケット風の上着を羽織っているが、ボタンやファスナーなどがないので、褐色の肌が晒されているのは仕方ないと言えるだろう。

 下半身に着用しているのは、上着と同様に黒を基調としたスラックス的な物。

 上も下も幾何学模様の刺繍が程よく刺繍されていて、一見すると美術的価値があるようにも見える。

 モンスターからはぎ取れば高値で売れるかもしれないそれらの品は、残念ながらどうやっても脱がせられないし、敵が死亡すると消えてしまうことから、そのモンスターが創り出している物だと考えられていた。


「あれはインキュバス?」

「たぶんそうや」


 恵梨香のひとり言に答えたサリアは、ぶるりと身体を震わせた。

 そんな彼女の内心を汲み取った恵梨香も、己の肩をクロスさせた両手で抱きしめる。


「話に聞いてた通りね……距離が縮まるにつれて忌避感が小さくなっていくし、別の感情が育っていくように感じるわ」

「ウチもや……」


 女性に嫌われるモンスターの代表格を挙げろと問いかけられたのなら、多くの女性はゴブリン系やオーク系の名前を口にするだろう。

 種族的にオスしか存在していないこの二種。

 もともと彼らはダンジョンによって生み出された生命なので、性が単一であっても不具合はないのだが、なぜかゴブリン系やオーク系は有り余る性欲を持ち、それを人間の女性に向けてくる。

 審判の日においても世界各地でそれらの魔物は出現し、至る所で泣き叫ぶ女性を犯し抜いたモンスターとして有名だ。

 不幸中の幸いと言ってもいいのかわからないが、人間と魔物の間に子は成せないのだけは救いか。


 さておき、ゴブリン系やオーク系とは少し違った評価を持つのが、インキュバスというモンスターだ。

 背中にたなびくようにして存在する翼や、頭に角が生えていることから、ひと目で人間とは違うと誰もが判断できるが、非常に整った顔立ちだったり均整の取れた身体だったり、漏れ出る特有の色気だったりは、多くの女性の瞳をハートにするであろう雰囲気を醸し出す。


 超級ダンジョン以降にしか存在しないことで有名なこのモンスターの人気は実は高い。

 世の中に男性が少なくなってしまった現代において、目の癒しになるインキュバスが映る動画は高値で取引されていることから、その事実の裏付けが取れている。

 一部の女性は最終的に殺されるとわかっていても、インキュバスに愛でられたいと望む者がいると、恵梨香もサリアも知識として持っていた。

 そんなインキュバスには特殊な能力がある。

 自身に対する女性の警戒心をなくし、かつ好意を持たれやすくなるというものがそれだ。

 これは一般的には魅了と呼ばれていた。

 魅了というこの現象はスキルによって引き起こされるわけではなく、インキュバスという種族が所持する特性のようなものだろうと考えられている。


 腰に差してあった短剣を引き抜き、それで太ももを刺す恵梨香とサリア。


「私が好きなのはさく兄だけなのに……」


 自分たちの中に徐々に湧き上がってくるインキュバスへの恋慕。

 今すぐに褐色の男性型モンスターへと駆け寄りたくなる気持ちを、痛みと共に切り裂こうとする彼女たちだったが、薄い笑いを浮かべたインキュバスとの距離が詰まれば詰まるほど、痛みを上回っていく恋心。


(こんなの私の本当の気持ちじゃない! 私が抱きつきたいのはさく兄だけなんだから!)


 内心とリンクするように、自然と上空を睨む恵梨香に対して、まだそこまでの気持ちが朔斗にないサリアはすでに危うい。

 恵梨香はその場から動かないどころか、少しずつ後退りをしていたが、サリアはゆっくりと足を前に進め始めた。


 よほどの精神力を持っているか、魅了の効果を緩和するようなスキルを所持したジョブじゃなければ、女性の天敵とも言えるインキュバスが出現する悪魔系のダンジョンは、超級の難度から避けているパーティーが多い。

 悪魔系ダンジョンの特徴として、多彩な魔法を操ったり空を飛んだりするモンスターが多いという点があるけれど、世界で唯一【解体EX】を持つ朔斗からしたら、全体的に見て敵のバランスがいいのでここを選択していた。


「ああ、なんて素敵なんや……」


 瞳を潤ませ、とうとうそんなことを呟いたサリアに向かって怒声が響く。


「しっかりして! そんなんじゃ私はサリアを応援しないよ!」

「うっ……でもどうしようもないんや……堪忍してやあああ」


 最後は叫ぶように言った彼女は、太ももに突き刺していた短剣を地面に投げ捨て、痛みを気にすることなくインキュバスに向かって駆け出す。

 彼女らとの距離がすでに十メートルを切っているインキュバスは、両手を広げて歓迎の意を表した。

 それは映画のワンシーンの様――その場面だけを切り出せば、長らく会っていなかった最愛の恋人同士が再会を果たすように見えるだろう。

 恍惚の表情のサリアが引き締まった身体に抱きつくため、彼の胸に飛び込んだ。

 しかし、空を切ったサリアの手。


「ぐぇ」


 そして漏れ出る女の子らしくないうめき声。

 彼女が抱きつこうとしたインキュバスは、サリアがジャンプしているうちに陽炎のように消失し、魔石が残った。

 彼女は抱き留めてくれる存在がなくなり、そのまま地面に向かってダイブをしたのだが、その着地点には落下した拳大の魔石があったのだ。

 防具をしているとはいえ、自身の身体と地面に挟まれた魔石がサリアの腹部を圧迫してしまう。

 気が緩んでいたところに訪れた鈍い痛みは、太ももの痛みを忘れさせるくらいのものだった。


「うううぅ……痛いで……」


 泣き言を口にしたサリアへ届く男性の声。


「正気を保て! 俺はあっちを片付けてくる!」


 強靭な精神力で助けを待っていた義妹へ一瞬微笑んだ朔斗は身を翻し、彼へと向かって来ている九体のサタンへと【解体EX】を使っていく。

 

(本当はここまで近づきたくなかったんだけどな……)


 義妹たちとの距離を五メートル程度までしていた朔斗が内心そう呟く。

 それまで相手をしていたサタンを放って恵梨香たちの救助に来た彼だが、サタンは魔法が大得意なので、彼女たちに近づけば自分へと放たれた魔法の巻き添えにしてしまう可能性も考えた。


(いざとなれば身を盾にして恵梨香やサリアを守るつもりだったけど、インキュバスが彼女たちと近かったのが幸いしたようだ。モンスターは種族が違っていても、お互いに殺し合うことはない――これは広く知られた事実。種族によって積極的に連携を取ったり取らなかったり、さらには他の種族や個体と関わらないように避けるモンスターもいるが)


 そこまで考えた朔斗の視線の先には、地面に落ちていく複数の魔石があった。

 戦闘が終わったからこそ、彼は今のように思考を戦い以外に向けていたのだ。

 数分に及び朔斗の前に姿を出さず、見えない所からの魔法攻撃に専念していたサタンだったが、彼らもインキュバスの存在を感じ取り、ダンジョンへの侵入者へ対して挟撃できるとの考えに至った何体ものサタンは、彼らが考える最善のタイミングで身を上空に浮かべた。


 すべてのモンスターが知識を共有しているわけではないので、今しがたやられてしまったサタンたちも【解体EX】に対策できず。

 仮に彼らが朔斗のスキルの効果を知っていても、結局は身体を隠しながら攻撃するといったものくらいしかないだろうが、人間よりも相当多い魔力を持つサタンが高度なコンビネーションを軸に、長い間魔法を撃ち続けたのなら、さすがの朔斗もまだまだ苦戦必至なのは否めない。


(翼や角もそこそこの値段で売れるんだけど、ボス魔石や報酬箱に比べたらどうしても比率は小さい。いろいろと思考錯誤を繰り返したが、結局は魔石にするのが一番安全で速いんだよな。それだけしか考えなくてもいいから)


 彼の所感に相違はない。

 しかし、超級ダンジョンともなれば、道中のモンスターを討伐して得られる素材の売却価格だけで平均二億円にもなる。

 寄り道を一切せずに次への階層を第一に目指している<EAS>は、他のパーティーに比すると、その額は相当減ってしまうのだが。

 今回のダンジョンで言えば、ここまでの素材を売って得られるお金は、およそ五〇〇〇万円といったところだろう。


 姿を現わしてからはいいところなくやられてしまったサタンの魔石を、【ディメンションボックス】に収納した彼は、自分たちで傷つけた太ももを中級回復ポーションで治しながら、インキュバスに心を奪われ、その身を委ねようとしたサリアに恐ろしい形相で説教している恵梨香や、身を縮こまらせそれを粛々と受け入れているサリアの元へと向かうのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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