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7:超級ダンジョンへの挑戦前夜

 特級ダンジョンを累計十三回クリアした朔斗らの次の目標は超級ダンジョン。

 本日は九月十二日、二日ある休日の最終日が今日。

 とうとう明日は<EAS>が初となる超級ダンジョンに挑む日だ。


「もうはや――いや、やっとというべきか」


 夕食を終え、自宅のリビングルームで休んでいた朔斗が、なんとなしにそう呟いた。

 彼の対面に座っている恵梨香は、食後のデザートであるプリンをひと口頬張り、ごくんと飲み込んだあと口を開く。


「私からしたらあっという間だったなー」

「そうか?」

「うんうん。だってさ、探索者になって約半年でCランク中位なんだよ? かなちゃんだってびっくりしてたじゃん」

「あぁ、そういえばそうか。まあランクはあくまでも指標でしかない。ランクが高ければ、それに見合った実力を持っている人が多いのは事実だが。新人がもしも超級や神級ダンジョンに挑むような超強力なパーティーに加入できれば、ランクなんて瞬く間に上がる」

「たしかにそうだねぇ。でもそれを言っちゃ、シングルナンバーの意味もなくならない? あれは探索者ランクをより詳細に表したものだし」

「まあな。だが、ポテンシャルがない人物を、シングルナンバーに至るまで引率する物好きなんてまずいないだろう。命の危険もあるし。それに万が一そういったことがあったとしても、シングルナンバーになるまでダンジョンを踏破したのなら、身体能力や魔力が相当上昇しているはずだから、普通に弱くはないだろう」

「それもそっか」


 と、そこで恵梨香の横に座っていたサリアが会話に入ってくる。


「ウチもさくとんのお陰でほんのちょっとは強くなったで」

「そう言ってもらえると嬉しいが、俺も含めてここにいる全員はまだまだだ。頑張ってどんどん強くなってほしいし、なりたいけどな」


 優しい笑みを浮かべてそう口にした朔斗。

 大きく伸びをした恵梨香が可愛らしく口を尖らせて言う。


「はー。SSSランクは遠いなぁ」

「くくく、そりゃあそうだ」


 恵梨香の様子に思わず笑ってしまった朔斗。

 恵梨香は頬を膨らませ、腕を組んでから言った。


「もー。笑わないでよ!」

「すまんすまん」

「ぷー、もういいよおお」

「はぁ、怒るなって」


 わざとらしく朔斗から視線を外した恵梨香の機嫌を取る。

 兄妹の微笑ましいやり取りを見守っているサリアはプリンを口に運ぶ。

 それは恵梨香が食べている物と同じ商品。


「しょうがない。許してあげましょう!」


 大きく首を縦に振りながらそう言った恵梨香に対し、朔斗が口を開く。


「ありがとな」

「そうだ、さく兄は序列どれくらいになってるの?」

「今朝の段階で一一〇万台かな」

「シングルは遠いね」

「そりゃあな」


 プリンを食べきってティッシュで口を拭いたサリアが言う。


「でも、ウチらなら史上最速の速さでシングルナンバーに駆け上がれるはずや!」

「もちろんそれを目指してる。そのためにも明日の超級ダンジョンは、誰ひとり欠けることなくクリアしなきゃな」


 多少なりとも成長してきた<EAS>のメンバーは、以下のように能力になっていた。


 名前:黒瀬朔斗

 ジョブ:解体師

 ジョブランク:神級

 スキル:解体EX・ディメンションボックス・取得ジョブ経験値特大アップ・下級水魔法

 ダンジョンクリア回数:最下級22、下級74、中級65、上級6、特級13

 備考:


 名前:黒瀬恵梨香

 ジョブ:大道具師

 ジョブランク:中級

 スキル:上級製造・獲得報酬品質特大アップ・獲得報酬個数アップ

 ダンジョンクリア回数:最下級1、下級2、中級5、上級5、特級13

 備考:


 名前:秋津サリア

 ジョブ:ギャンブラー

 ジョブランク:中級

 スキル:六面ダイス・レアボス出現率特大アップ

 ダンジョンクリア回数:最下級35、下級46、中級36、上級5、特級13

 備考:


「明日の用意は万全だ。超級マップメイカーや、それに必要な超級ボス魔石も購入した。超級モンスターセンサーも一個だけだが買ったし、全員の装備も新調した」

「装備は本当にありがたく思ってるで」


 真剣な表情で朔斗にお礼を言ってきたサリアがそのまま言葉を続ける。


「ウチはさくとんとえりちんには感謝してもし足りないんや。都合してくれたのはまさかの一億円だから……」

「安全を買ったと思えばいい。俺や恵梨香も同品質の物を購入したし、なにより今のままじゃサリアの収入が少なすぎる――特殊探索者として正規の契約を結んでいるとはいえ。今となっては、サリアは俺たちのかけがえのない仲間だ」

「そうそう」


 朔斗の意見に同意する恵梨香。

 サリアが顔を上げて口を開いた。


「世話になってる分、ガンガン働くから期待しててや!」

「ああ。といってもレアボスは全然出てないけどな。ははは」


 サリアを揶揄い、朔斗は小さく笑う。

 彼女は手で顔を隠して大きな声を出す。


「それは言わんといてえぇ!」


 朔斗たちが特級ダンジョンに行った回数は十三回。

 サリアの持つスキルの影響で、十回に一回の割合でレアボスが出現するのだが、そうそう上手くは事が運ばず、結局一回もレアボスを引き当てられなかった。

 それでもかなり荒稼ぎをした<EAS>だったが、現在の資金はおよそ二一〇〇万円しかない。


 ここ最近の大きな出費は、超級マップメイカーと超級モンスターセンサーが各四億円、超級ボス魔石が三億円、三人の装備が各一億ずつと、これだけでも十四億にものぼる。

 さらに少し桁が下がるが、神崎結衣と一年契約を結び、その人件費が三〇〇〇万円。

 しかし、結衣の分については、すでに元を取っていると言えるかもしれない。

 なぜなら、彼女は<EAS>の代理人として仕事をし、株式会社シエンとの契約を朔斗が望む形で勝ち取ってきたからだ。

 それによって、今の資金では購入できなかった超級野営セットを<EAS>は手に入れられた。

 超級野営セットは同格のマップメイカーやモンスターセンサーよりも安いので、もう少し朔斗らが特級ダンジョンに向かえば問題なく買えるが、それでも二億円もするため、株式会社シエンとの契約がなければ、<EAS>が超級ダンジョンに向かう日付がもう少し後ろにずれていただろう。


「ポーション類も十分にある」


 力強く言い切った朔斗。

 彼の言葉どおり、<EAS>は相当数のポーションを所持していた。

 その内訳は以下のもの。

 治療ポーション:中級二〇二個、上級一一四個、特級四十一個、超級三十五個。

 体力ポーション:特級二九四個、超級十四個。

 魔力ポーション:上級四十個。


 こうして見てみると魔力ポーションが明らかに少ないが、そもそも<EAS>で魔法を使用可能なのは朔斗のみ。

 さらに言えば、彼の【下級水魔法】は基本的に飲料水だったり、たまに敵へ牽制したりというのが、その使用用途なので、基本的に魔力ポーションの消耗はそこまで考慮しなくてもいいのだ。


「ダンジョンにいる間は絶対に気を抜かないから安心して!」


 小さくガッツポーズを作って宣言する恵梨香。

 続いてサリアが言う。


「ウチもや。また一気に難易度が上がるけど、ウチらならいけると思うで!」

「戦闘はいつもどおりさく兄にお任せになっちゃって悪いけど……」

「それは言わない約束や!」


 恵梨香とサリアが小さく笑いながら会話している様子を見ながら朔斗は思う。


(超級からエリクサーの期待値が相当上がる。まあもともとが出現しにくいから、期待しすぎてもダメなだけどな。それでも明日の超級ダンジョンを問題なく乗り切れば、やっとエリクサーが現実的に見えてくる。そこまでいったら俺はようやくスタートラインに立ったと言えるだろう)


 彼は目をつぶり心の中で祈る。


(香奈――待っててくれ。俺は絶対にお前を助ける)


 その後、しばらく雑談を楽しんだ彼ら三人は、明日から始まる超級ダンジョン攻略へ向けて、夜が更ける前にそれぞれベッドに入って身体を休めるのだった。

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