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22:ブレイバーズ 6

 以前、朔斗と俊彦が再会した日――あの場で良太は口を挟まなかったが、十八歳にもなって感情のコントロールをできない彼に対し、内心では心底嫌気を差していた。

 良太は自身の感情を表に出さないことに長けていたので、俊彦は彼の気持ちを推し測れなかったが。

 さておき、あのあと時間が出来た良太は朔斗へメッセージを送り、自分たちのパーティーリーダーの非礼を彼へ詫びた。

 そしてその際のやりとりで、少なくとも俊彦がいる限り、<ブレイバーズ>に朔斗が戻ってくることはないと観念してしまう。

 当然それは朔斗からの返信を見た上で結論に至ったもの。

 朔斗からしたら俊彦がいるいないにかかわらず、すでに<ブレイバーズ>に戻る気はないのだが、そこまで良太が察することはなかった。


 そんな俊彦や良太が属する<ブレイバーズ>が現在挑戦しているのは、なんと特級ダンジョン。

 朔斗を追放してから彼らは再度上級ダンジョンに潜ったが、思うような結果を挙げられず、それ以降は中級ダンジョンへと狩り場を移していた。

 四回の中級ダンジョンを挟み、俊彦の鶴の一声でまた上級ダンジョン挑戦していた<ブレイバーズ>。

 パーティー内の連携をリーダー自ら乱していたとはいえ、さすがは優秀なジョブ持ちが集まったパーティーだけあって、徐々に上級ダンジョンに慣れていった。

 そうして最終的にクリア日数を十日まで短縮し、ポーション類の消耗品も以前より抑えられるようになったのは、上級ダンジョンに再々挑戦を始めてから四回目。

 これで気を大きくしたのが俊彦だ。

 伏見和江を口説いていた彼だったが、それが思うようにいかなかったり、自分が追放した朔斗が活躍していたりするのを見聞きすることで、ストレスを抱えていた。

 そんな俊彦は朔斗が出演した特級ダンジョンの動画をリアルタイムではないが視聴してしまい、感情が爆発してしまう。


――俺はあいつより優れている! そんな俺が特級ダンジョンに行けないのはおかしい!


 と。そうして彼はリーダーの強権を発動し、今回ダンジョンのランクを特級にしたのだ。

 もちろん、最初は難色を示したメンバーたちだったが、それぞれ思うところがあり、俊彦の言い分を最終的には聞き入れた。

 自身の力を和江や他の第三者へ見せつけたり、朔斗より自分が上だと己の中で納得したりするため、初となる特級ダンジョンへとやって来た俊彦が声を荒げる。


「おい! 早く俺についてこい!」


 自身の判断のみで、数十メートル離れた場所に突然ポップしたモンスターへと駆け寄っていくパーティーリーダー。

 うんざりとした気持ちを上手く隠し、『守護者』である彼は一度後ろを見て、三人に対して小さく頷いてから前方にダッシュする。


「今行く」


 ここは環境が草原の亜人系・特級ダンジョン。

 このダンジョンに新たに生まれ落ちた魔物が、自分たちを襲ってくる存在に気づく。

 そのモンスターは頭部の両側面から根元の直径が三センチ程度の角を生やし、ピンク色の髪をなびかせていた。

 整った容姿をしているが、青みがかったダークグレーの肌は一見不健康に見えるだろう。

 肌を多く晒す出で立ちは、ただでさえ蠱惑的な肉体をさらに肉感溢れるものへと昇華させていた。

 背中から生やした小さな翼をパタパタと羽ばたかせ、迫りくる脅威に対応すべく動き始める。

 現れた五体のモンスターのうち、二体の赤い瞳が怪しく輝く。


「サキュバスよ! 目を合わせないで!」


 普段は物静かな瑞穂が大声で叫んだ。

 彼女に言われるまでもなく、そうしていた良太は焦点をサキュバスより後ろに合わせつつ、周辺視野でモンスターの動きを捉えていた。

 しかし猛っていた俊彦の目と、一体のサキュバスの瞳が一直線に引き合ってしまう。

 途端に足を止め、身体を一瞬痙攣させた彼は頭上に構えていた剣を下げ、その場で反転をした。

 虚ろな瞳の俊彦が再び剣を構え、眼前にいる人物の中で一番前にいた良太へと突き進む。


「ちっ」


 思わず舌打ちをした良太が女性陣から少し距離を取るため、俊彦に向かっていく。


(特級に来てもこいつの動きは変わらないか。万が一の可能性を期待した僕がバカだった)


 幼馴染を内心蔑む良太。

 俊彦とは違う目的を持って今回の探索に挑戦していた彼は、俊彦が振り下ろした剣を大きな盾でそのまま受け止めるのではなく、角度をつけて上手に受け流す。

 俊彦の攻撃が一度で終わるわけもなく、そのまま連撃を行おうとした時、自身の近くに魔法陣を展開した瑞穂の魔法が発動する。


「【ピュリフィケーション】! もう一発はまだ使えないから、良太は気をつけて!」

「わかってる」


 委細承知とばかりの返答をした良太。

 彼女が使用したのは上級神聖魔法のひとつ。


【ピュリフィケーション】

 系統:上級神聖魔法。

 発動時間:瞬時~。

 待機時間:十五分。

 効果継続時間:五分。

 対象:術者が指定した自身を含む一個体。

 効果:対象の視界不良、毒、魅了、石化を治療する。効果継続時間内は、前述の四つの状態異常にならない。


 絶大な効果をもたらすその魔法の対象となった俊彦の身体が淡く発光する。

 途端に目に力が宿る俊彦。

 その様子を確認した良太が俊彦の前に出る。

 恵子、瑞穂、和江の立ち位置は、今まで良太がいた位置より十メートル程度後ろ。


 男性相手にはとてつもない威力を発揮する【魅了の魔眼】を破られたサキュバスたち。

 彼女らの特長、それは――男性を操り仲間割れを起こさせたり、寝ている人物の夢の中に入り込み、その相手の精を吸い尽くして廃人にしたりというもの。

 とはいえ、それぞれのダンジョンに対応した野営セットを持ち込んでいる限り、夢の中にサキュバスの侵入を許すことはそうそうないだろう。


 基本的に直接的な物理攻撃よりも、魔法攻撃が得意なサキュバス。

 そんな亜人系モンスターがそれぞれ魔法を使用した。

 人と違い、最後のキーとなる魔法名を口にしなくても発動するモンスターの魔法。

 大きな火球や水球、さらにうっすらと色のついた槍のような風が<ブレイバーズ>を襲う。


「こっちだ! 【マジックアトラクト】!」


 サキュバスの魔法が自陣営へ届く前に使用された良太のスキル。


【マジックアトラクト】

 系統:アクティブスキル。

 発動時間:瞬時。

 待機時間:一時間。

 効果継続時間:十分。

 対象:使用者。

 効果:自身を中心とした半径十メートルへと侵入した魔法の主導権を、強制的に術者に放棄させつつ、それら魔法の対象を自身へと変更する。


 縦幅一二〇センチ、横幅八十センチの高品質な盾が良太の相棒。

 長方形でスクトゥムと同形状のそれを上手に操りつつ、ステップを刻む良太。

 なんとか全部の魔法を受け切った彼の視界に映るのは、モンスターの側面に回り込んで攻撃をしていた俊彦の姿。

 そして魔法を再び撃ち出そうとしていた個体に向かって、逆に放たれる『魔導士』の攻撃魔法。


「いくよ、【ウインドブレイド】!」


【ウインドブレイド】

 系統:中級風魔法。

 発動時間:瞬時~。

 待機時間:なし。

 効果継続時間:瞬時~。

 対象:術者が指定する場所や範囲。

 効果:顕現させた単一から複数の風の刃を操る。


 十分な魔力が練られて発動した【ウインドブレイド】は、黒い衣服を難なく切り裂き、さらにサキュバスの皮膚が刻まれていく。


「ギャアアアア」


 一番左にいたサキュバスが絶叫を上げる中、両手で握った剣を縦横無尽に振り回し、肉弾戦が得意じゃない二体のサキュバスに傷を負わせていく俊彦。

 そこへ残り二体が応援に駆けつけようと、動き始める。

 その挙動を察知した俊彦が声を荒げた。


「こっちにフォローを回せ!」


『ひとりで突撃するからそうなるんだ』、と気持ちをひとつにしていた四人だったが、それを口にする者は誰もいなかった。


「わかったよ」


 うんざりとした気持ちを上手く隠し、『守護者』である良太が俊彦に近づいていき、彼の動きを阻害しないように立ち回りながら、サキュバスからの攻撃を防ぐ。

 肉弾戦が得手でないとはいえ、サキュバスの爪は長く硬いため、それを防具のない位置で受けてしまえば、易々と皮膚や肉を切り裂かれてしまう。


 戦闘中は邪魔にならないよう、できる限り動かないで身を潜めていた和江が戦闘の様子を窺っている。

 彼女は自身を口説いてくる俊彦のことが段々とうざったくなっていたが、自分が優先すべきは自分の命と彼氏のための収益だと割り切り、俊彦のアプローチを上手くかわしつつ、未だにこのパーティーで一緒に活動をしていた。

 特級ダンジョンに来るのに、当初は反対意見を述べていた彼女だったが、いざとなれば退却をすればいいと考え直した結果だ。


 そんな彼女が見守る中、サキュバス五体の討伐に成功する<ブレイバーズ>。

 撃破の内訳は、息を乱した俊彦が三体、下級魔力ポーションを飲んでいる恵子が二体だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 和江、金欲しいのはわかるけど、明らかに稼げないパーティでしょこのパーティ。 我慢すること無いと思うけどなぁ
[一言] この特級チャレンジは、ブレイバーズ解散イベントになりそうな予感。 解散しても、サクは元メンバーとは組まないでほしい。
[一言] テイム出来るものならお持ち帰りしたい男が居そう(笑)
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