5:月刊探索者通信 2176年6月号
今年中学校を卒業したばかりの相沢流星。
生粋の日本人である彼は学校で優秀な成績を収め、さらに同級生にも優れたジョブ持ちがいたため、日本中から注目されている存在。
流星のジョブは『パラディン』で、探索者歴約二か月。
彼は同級生の四人とパーティーを結成し、リーダーを務めている。
パーティーにいる少年はふたり、少女が三人。
男の子たちの外見は並といったところ。
女の子らの外見は全員が整っているため、周囲からの人気が高い。
彼らは通称『五傑』と呼ばれ、将来を有望視されていることもあって、中学校を卒業すると同時に月刊探索者通信の記者から取材を受けていた。
流星の親友である及川ケントは、日本人とアメリカ人のハーフ。
彼のジョブは『ウェポンマスター』といい、さまざまな武器の扱いに秀でている。
自分で気に入っている茶髪をかき上げながら、ケントが口を開く。
「ようやく発売したね」
「ああ、取材は結構前だったのにな」
ぶすっとした表情の流星は、自室に招いていた親友に向かってそう言った。
流星の自宅にいるのは現在少年がふたり。
発売日に到着するように月英社から送付された月刊探索者通信を、彼らはそれぞれの手に持っている。
ため息をついた流星がやる気のない声を出す。
「世間で五傑って言われているくらいの俺たちなら、もっと扱いが大きいと思ったんだけど……予想していたよりも小さいな」
「そうだよねぇ」
「二年前に<ブレイバーズ>も、この雑誌に取り上げられてたじゃん?」
「うん」
「あのときの扱いと大差ないってのが気に食わない」
「こっちのパーティーのほうが優れてるのにね」
「ああ」
彼らは自分たちの記事に目を通していた。
モノクロのページに、探索者としての彼らの意気込みや目標、そしてジョブの紹介がなされていた。
『五傑と呼ばれた少年少女たち』
今では珍しくなくなった中卒の探索者。
より早く戦いの世界に身を置き、若い頃から成長することで、上位の探索者になる可能性が上がるだろう。
ダンジョンをできる限り多くクリアするため、努力を重ねることが大事だ。
今回紹介するのは、同じ中学校を卒業した五傑と評される若者ら。
彼らのパーティーには大きな才能を持った五人が所属している。
あらゆる武器を扱う才能に優れ、上達速度が速くなるスキルを所持する『ウェポンマスター』。
一時的に防御力をアップさせたり、自前で回復魔法を使用したりして、仲間を守る『パラディン』。
一部の魔法と効果が似ている忍術を駆使して攻撃を引き受けつつ、モンスターの気配を察知して先制攻撃を仕掛ける『忍者』。
消費魔力を大幅に減らしたり、魔法の威力を上げたりするスキルを持っている『大魔導士』。
パーティーメンバー全員に効果が及ぶ回復魔法や、一定時間祈ることで自身の魔力を回復させられる『聖女』。
これだけの戦力が集まっている稀有なパーティーであれば、いずれSランクに到達するかもしれない。
そこまで読んだ流星は内心思う。
(期待ハズレもいいところだ)
流星たちが取材を受けたことは事実。
しかし、どのような記事になるかを記者は教えてくれなかったため、実際に本を見るまではどのような扱いになっているのかわからなかったとはいえ、もっと自分たちに割くページが多いと考えていたし、当然ながらそれを期待していたのだ。
しかし、思ったほど大きく扱われていなかった事実に気分を害していた。
苛立ちを隠さない流星が口を開く。
「なによりも面白くないのは、こいつが巻頭カラーを飾ってることだ!」
「うん、この人は元<ブレイバーズ>のメンバーだし……あっちより有望株って言われている僕たちの記事が霞んで、いい気持ちがしないかなぁ」
そう言ったケントが巻頭カラーの記事に視線をやる。
『いずれSSSランクに至るであろう探索者――黒瀬朔斗』
私は確信している。
黒瀬朔斗という少年がさまざまなダンジョンを踏破し、日本人初のシングルナンバーへと至るだろうと。
彼の名前が記憶に残っている人がきっといると思う。
なぜならば、黒瀬朔斗は二年前にも、月刊探索者通信に登場したことがあるからだ。
彼のジョブは『解体師』。
これは世界で唯一のものとなっている。
黒瀬朔斗はいくつかのスキルを所持しているが、その中でも特に使用されるのが【解体EX】と、【ディメンションボックス】だ。
前者に至っては、なんと生きているモンスターをも解体できるという壊れ具合。
後者のスキルは荷物を無制限に運べる効果があり、多くの探索者が欲して止まない性能を誇る。
とはいえ、【解体EX】は彼が十歳の頃からあったわけではなく、もともとは【解体】というスキルだった。
しかし、黒瀬朔斗のジョブランクが神級に至った際、【解体】が【解体EX】へと進化を果たしたのだ。
彼の年齢はまだ十七歳。
普通であれば、そのような若さでジョブのランクが神級にならない。
だが、黒瀬朔斗は誰もが羨むスキル――【取得ジョブ経験値特大アップ】も持っていた。
これによって、彼のジョブは恐ろしい速さで成長を遂げたのだ。
特大アップは十倍の効果を持つ。
探索者として活動を始めた彼の経験はまだ二年だったこともあり、黒瀬朔斗は上級ダンジョンに一回しか行っていなかったし、特級以上の経験は皆無だった。
そういった事情もあって、単純な計算はできないとはいえ、二年の十倍分ジョブに対する経験値を入手していたことになる。
一般的にサポート系と呼ばれているジョブのほうが、戦闘系ジョブよりも日常的にジョブの経験値を稼ぎやすいケースが多く、それも彼が早期にジョブランクを上昇させられた要因だろう。
黒瀬朔斗は以前の月刊探索者通信でお伝えしたように、<ブレイバーズ>というパーティーに所属していた。
しかし、今はそのパーティーを離れている。
現在彼が所属しているのは<EAS>。
そのパーティーは、珍しくメンバーが上限の五人じゃなく、三人で抑えられている。
他のメンバーは黒瀬朔斗の義妹である黒瀬恵梨香と、特殊探索者の秋津サリアのふたり。
前者のジョブは『大道具師』で、後者が『ギャンブラー』。
黒瀬朔斗が言うには、このように尖ったジョブ構成かつ、メンバーの人数を絞っているのには訳があるとのこと。
それはなぜか?
※回答は来月号に掲載予定です。
取材・著者:新島千代。
朔斗のことが書いてある記事を途中まで読んだケントが呟く。
「訳ねぇ」
「読み終わったか」
「うん」
「はたしてどんな理由だろうな」
「うーん、今回の記事だけじゃわからないね。メンバーは五人にするのが普通だし。とにかく安全性を重視した結果、人数を抑えて下位ダンジョンに行く人もいるといえばいるけど……」
「記事に書いてある【解体EX】の効果なら、そんな必要もないだろう? まあそんなスキルが本当にあるのか疑わしいが」
「いや、それは本当らしいよ」
「そうなのか?」
「うん、今朝なんだけど、うちの親と一緒に朝食を食べているときに、それに関するちょっとした話題があったんだよね」
じーっと視線をケントへ向けた流星が問う。
「へぇ、どんな話だ?」
「なんか少し前にDチューブの生配信に<EAS>が出演したみたいで、そのときの様子を映した動画が話題になってるって聞いたかな。まだ見てないけど」
「ん? <EAS>のメンバーに『リンカー』はいないよな?」
「なんでも人気Dチューバーの宇野啓介がやってるケースケチャンネルに、ゲスト出演したらしいよ」
「そうなのか。んじゃあとで見てみるか」
「オッケー」
流星が月刊探索者通信六月号のとあるページに視線を落とす。
口元を緩ませた彼がなんとなしに呟く。
「この黒瀬恵梨香って子は可愛いな」
そういえば黒瀬朔斗にまつわる記事――そこに三人の写真が載っていたとケントが思い出した。
ページをめくり、お目当ての人物たちを評する。
「たしかに可愛いね。でも僕はどちらかというと秋津サリアのほうがタイプだね」
「そっちもいいな。うーん、特殊探索者だったのか。惜しいことした……っていっても俺たちはすでにフルメンバーだから加入させられないが。今度会ったらデートには誘いたいな」
「そのときは僕も仲間に入れてくれよ」
「ああ、もちろん。そうだ、話は変わるが……早く挑戦したいよな、中級ダンジョンに。そっちの親父さんはまだ反対してるのか?」
「うん。やっぱり、もう少し経験を積んでからじゃないと危ないって言われた」
「下級でレアボスを余裕で倒せたし、中級も楽勝だと思うんだけどな」
休日を利用して親交を深めていた流星とケントは、それからも雑談を繰り広げ、次のダンジョンへ向けての英気を養うのだった。
文法や表記法。
ケース12。
「物」、「もの」。
「物」:目に見える物質。普通名詞。
「もの」:抽象的な事柄。形式名詞。
例
「倉庫にある物を持ってきて」
「私はいい物を持っている」
「このお店にはどういった物がありますか?」
「勝負は水物」※これは成句のため漢字
「物は試し」※慣用句のため漢字
「ものわかりがいい人」
「彼は技術をものにした」
「あなたは凡才と言っていたが、君の才能はそんなものじゃないだろう?」
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