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2:トロール・上級ダンジョン動画配信1

 四月二十五日。

 朔斗、恵梨香、サリアの三人が一緒に挑む二回目の上級ダンジョン。

 今回はトロール・上級ダンジョンに来ている。

 奇しくも<ブレイバーズ>が少し前に挑戦したのと同じ。

 数回のチェンジを繰り返し、草原や岩場がある環境を選択していた。


 中に入り、少し歩いたところでひとりの男性が明るい声を出す。


「よっしゃ、そろそろ始めるぜー」


 撮影用の魔道具である魔動カメラを右手に持った彼は、朔斗たちが頷いたのを確認し、インカメラに向かって話し始める。

 ちなみにスキルの【コネクト】は使用済み。


「皆さんこんにちはー! 今日も始まったケースケチャンネル。今回は上級ダンジョンに挑戦する様子を見せていくよ。今回のゲストは<EAS>というパーティーだー!!」


 彼の名前は宇野啓介だ。

 朔斗たちが月刊探索者通信の記者である新島千代から取材を受けた日、彼女は彼らに正式なオファーを出していた。

 その内容は、月刊探索者通信の専属人気Dチューバーが生配信する動画に出演してほしいというもの。

 彼の甘いマスクも手伝って、ケースケチャンネルは探索者のみならず、幅広いファン層に登録されていた。


 啓介のジョブが『リンカー』ということもあり、彼自体の戦闘能力は高くない。

 しかし、トーク力や撮影に関しては定評があり、そこはさすが人気Dチューバーで面目躍如だ。

 啓介は基本的に特定のパーティーを組んでおらず、会社や彼が自ら動画に出演するパーティーを選びオファーを出す。

 そしてそれを受け入れてくれた場合、事前に打ち合わせを済ませ、撮った動画を配信しているのだ。

 彼が持っている魔動カメラの液晶には視聴者のコメントが流れている。


 名無しの視聴者:やっほー

 名無しの視聴者:こんにちは

 名無しの視聴者:ケースケチャンネル!

 名無しの視聴者:ケースケ大好きー

 名無しの視聴者:こんちはー

 名無しの視聴者:楽しみ

 名無しの視聴者:今日は上級ダンジョンか、いいね

 名無しの視聴者:ケースケが上級ダンジョンは珍しい

 名無しの視聴者:最近は中級が多かったからなー

 名無しの視聴者:上級いけるの?

 名無しの視聴者:放送事故は止めてねー

 名無しの視聴者:ところで<EAS>って聞いたことある?

 名無しの視聴者:ない

 名無しの視聴者:俺も

 名無しの視聴者:ないなぁ

 名無しの視聴者:ないね

 名無しの視聴者:上級行きたい

 名無しの視聴者:ね

 名無しの視聴者:うむう

 名無しの視聴者:ケースケに取り上げさせるなら期待の新人?

 名無しの視聴者:情報不足


 啓介が少しおどけたような声を出す。


「さてさて、僕の動画に初登場した彼らは――な、な、なんとたった三人で上級ダンジョンをクリアする猛者あああ!」


 名無しの視聴者:まじでw

 名無しの視聴者:三人とかヤバいでしょ

 名無しの視聴者:え!?

 名無しの視聴者:本気で言ってる?

 名無しの視聴者:無理無理無理無理

 名無しの視聴者:今日はグロ確定

 名無しの視聴者:見るの止めようかな……

 名無しの視聴者:三人って無理でしょ? え、無理だよね?

 名無しの視聴者:うーん、相当強いジョブが揃ってるとかかも

 名無しの視聴者:有名どころならまだわかるけど、聞いたことないパーティーじゃなぁ

 名無しの視聴者:どんなジョブなんだろう

 名無しの視聴者:『剣神』や『盾神』のジョブとかいるんじゃないかな

 名無しの視聴者:それならもっと人数を集めて、さらに上位ダンジョンに行くんじゃない?


 カメラを朔斗たちに向けて、啓介が解説を行う。


「それじゃあ今日のメンバーを紹介していこう。まずはパーティーリーダーの黒瀬朔斗さん! 彼のジョブは世界で唯一の『解体師』、イケメンで人気が出そう! 続いては黒瀬恵梨香さんでジョブは『大道具師』、彼女は朔斗さんの義妹。仲の良さが画面越しにも伝わるかな? そして最後が秋津サリアさん、ジョブは『ギャンブラー』! サリアさんは特殊探索者とのこと」


 名無しの視聴者:『解体師』!

 名無しの視聴者:世界唯一なんてすごい

 名無しの視聴者:聞いたことなかった

 名無しの視聴者:朔斗君きゅん好き

 名無しの視聴者:さく君いけめーーん!

 名無しの視聴者:めちゃくちゃかっこいい、今日から私は朔斗さんのファン

 名無しの視聴者:いや、私がファン一号

 名無しの視聴者:違う、私だ

 名無しの視聴者:恵梨香さんとサリアさん可愛いな

 名無しの視聴者:特殊探索者キャンペーンを利用したのかな

 名無しの視聴者:そうかも?

 名無しの視聴者:ふたりとも可愛い

 名無しの視聴者:私も利用してる

 名無しの視聴者:朔斗さんに率いられたい

 名無しの視聴者:私のパーティーからひとりチェンジしたいよおお

 名無しの視聴者:あれいいよね

 名無しの視聴者:てか、誰もツッコんでないけど、三人ともサポート系ジョブじゃん?

 名無しの視聴者:これクリア無理ゲーじゃないの?

 名無しの視聴者:『解体師』のこと知らないんだけど特長は?

 名無しの視聴者:たしか倒したモンスターを解体したり、アイテムボックスの上位互換スキルがあったりするジョブのはず

 名無しの視聴者:だね

 名無しの視聴者:サポート系ジョブ三人www

 名無しの視聴者:え、やばば

 名無しの視聴者:朔斗君きゅんが怪我しちゃう……

 名無しの視聴者:『大道具師』は結構いいね。『道具師』はそこそこ見るけど、『大道具師』はあまり見ない

 名無しの視聴者:まさか『ギャンブラー』をパーティーに入れるとは

 名無しの視聴者:この構成で上級ダンジョンとか死ねる

 名無しの視聴者:逆に考えると、これで上級に行けるなら実は強い?

 名無しの視聴者:サポート系ジョブでも、ダンジョンを何回も何回もクリアしてたら、身体能力が跳ね上がってる可能性が微レ存


 啓介はコメントを見て、今回の生配信が盛り上がることを確信していた。

 実は彼も朔斗がどうやってモンスターを倒すのかは知らない。

 ドッキリ的な扱いで、千代は【解体EX】の効果を秘密にしていたのだ。


 今回に限ってではないが、もしもダンジョン内で危機に陥った場合は、専属Dチューバーの啓介が無事にダンジョンを脱出できるように、彼には会社から転移石が支給されていた。

 このアイテムの効果はダンジョン内で使用した際に、ダンジョン内の最初にあるモノリスまで転移可能といったもので、破格の性能を誇る命綱的な物となっている。

 転移石をダンジョン以外で使用しても効果がなく、また効果範囲は使用者本人にしか及ばない。

 とはいえ、これはボス部屋でも問題なく効果を発揮する優れもの。

 その分価格は非常に高くなっていて、産出は報酬箱からのみ。

 転移石の値段は一個二千万となっており、おいそれと手を出せないが、転ばぬ先の杖として有用なのは間違いない。


 啓介が最後方で魔動カメラを操作しながら足を動かし、朔斗が先頭でその少し後ろに恵梨香とサリアが付き従って歩みを進める。

 しばらく歩くと、トロールが遠巻きに見えてきた。

 それを発見した朔斗が即座に指示を出す。


「あの岩場近くにいるトロールは俺がやる」

「了解」

「おっけー」


 気を引き締めた恵梨香とサリアの返事を聞いた朔斗が、五十メートル程度離れた場所にいるトロールの数を確認する。


「三十二匹か。これからあれらを倒すから、宇野さんはトロールをズームで捉えていてくれ」


 振り返ってそう言った朔斗に対し啓介が言う。


「ここから攻撃が届くのか?」

「ああ、問題ない。任せてくれ」


 朔斗の答えを聞いた啓介は、アイテムボックスから魔動カメラをもう一台取り出し、それを左手に持ち声で起動させていた。

 右手のはズームでトロールを映し、左手のは朔斗らが画面に入るように啓介は調整を行う。

 朔斗はそれを確認しつつ考える。


(うーん、今回は距離もあるし、【解体EX】の使い方は初期のままでいいだろう)


 判断を下した彼は、一匹一匹照準を定めてスキルを使用していく。

 それに釣られるように遠くにいるトロールが淡く光る。

 今回残す素材は、骨、肉、皮、目玉、いくつかの内臓だ。

 トロールは再生能力を持っていることも関係してか、その目玉や内臓はポーションの材料のひとつになる。

 一体につき一秒もかけずに戦闘というよりも、ただただ処理という仕事をしていく朔斗。

 その様子を見ていた啓介は、開いた口が塞がらない。

 そして当然ながら、生配信のコメント欄も凄まじいことになっていた。


 名無しの視聴者:は?

 名無しの視聴者:え?

 名無しの視聴者:お?

 名無しの視聴者:ん?

 名無しの視聴者:なんだあれ

 名無しの視聴者:トロールが光った

 名無しの視聴者:なぜ光る?

 名無しの視聴者:魔法?

 名無しの視聴者:あり得ないw

 名無しの視聴者:意味不明

 名無しの視聴者:何がどうしてどうなった

 名無しの視聴者:三十匹くらいいたはずのトロールが蹂躙されちゃった

 名無しの視聴者:おかしいだろww

 名無しの視聴者:私は<EAS>が映ってる画面を見てたけど、魔法を使ってなかった

 名無しの視聴者:ならスキルじゃね

 名無しの視聴者:どんなスキル?

 名無しの視聴者:トロールが秒殺とかヤバい

 名無しの視聴者:今起こったことを言うぜ?

 名無しの視聴者:トロールが光ったと思ったら

 名無しの視聴者:くそ! 間抜け面晒しちまったじゃねーか

 名無しの視聴者:素材になってたwww

 名無しの視聴者:俺なんてモニターにコーヒー噴いたしww

 名無しの視聴者:私は床にコーラ落としちゃった……掃除面倒

 名無しの視聴者:私はお菓子が口から発射されたよw

 名無しの視聴者:あーりーえーなーいー

 名無しの視聴者:解説はよ

 名無しの視聴者:まじそれ

 名無しの視聴者:教えてくれるのかな?

 名無しの視聴者:今のは本当にヤバいどころじゃない

 名無しの視聴者:誰かに今の光景を説明しても、絶対に噓つき呼ばわりされるww

 名無しの視聴者:激しく同意


 恐ろしい勢いで流れていくコメント。

 そして啓介は、手元のモニターを通して見ていた現実を受け入れられず、未だに呆けたまま身体を硬直させていたのだった。

文法や表記法。

ケース9。

「羽」、「羽根」、「翼」。


「羽」:鳥の全身を覆う軽い毛、鳥や昆虫が飛ぶための器官。

※昆虫の場合、生物学の専門用語では翅。


「羽根」:根っこが身体から離れた羽や、羽を加工した物や、羽根の形状を真似て作られた物。

羽根ペン、飛行機の羽根、ヘリコプターの羽根。


「翼」:一対になった羽。

飛行機の翼、鳥の翼。


お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最高です! 毎日楽しみに待ってます! これからも感想に流されず自分が思った通りに書いてください!!
[一言] 強いけど戦闘の見栄えが一切ないから人気はそこまででなそう
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