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13:ブレイバーズ 1

 今日から三月に入る。

 本格的な暖かさはまだ訪れていないが、もう春と言ってもいい季節。

 俊彦、良太、恵子、瑞穂は、朔斗を追い出したあと、仲間内で話し合って五人目のピースとなる探索者を、<ブレイバーズ>に新しく加入させていた。

 新メンバーの名前は伏見和江。

 純粋な日本人らしい黒目黒髪の可憐な少女で、自分の言いたいことはきっちり言うタイプだ。

  朔斗を追放した枠にどんなジョブ持ちを入れるのか、以前から四人で話し合っていた俊彦たちは、数ある選択肢の中から付与魔術師を選択した。


 敵の攻撃を引き受ける盾役、技術や力で敵を倒す物理攻撃役、物理攻撃が通りにくい敵などに向かって、超常現象の魔法を使い攻撃する魔法攻撃役、パーティーメンバーが負った怪我などを回復魔法で治癒する回復役、この四つのジョブが多くのパーティーにおいて、ほぼ必須だと推奨されている。

 ひとつのパーティーの人数上限は五人のため、残り一枠に入るのはさらなる物理攻撃を得意とする者だったり、攻撃や回復の魔法を得意とする者だったり、サポートに特化したジョブだったりする。


 この中で特筆すべきはサポート系だろう。

 サポート系といってもそれに属するジョブは数多く、特に一番人気があるのはバッファーと呼ばれる役割を持つジョブだ。

 仲間に対して、攻撃力アップや防御力アップなどの良い効果を与える魔法を使い、パーティーとしての戦力を底上げするのがバッファー。

 付与魔術師などがそれにあたり、それより上位の付与魔導師になると引く手あまたと言えるだろう。


 とはいえ、サポート系のジョブは、ほぼ必須とされる四つの役割のジョブ持ちと違い、パーティー内であまり良い待遇を受けられないケースが多々ある。

 他のジョブとの替えがききにくい盾、物理攻撃、魔法攻撃、回復魔法の役割と違って、パーティーごとに特色が出るとはいえ、サポート系のジョブはいくらでも取り換えが可能であるし、サポート系のジョブは幅が広いので、その分人数が多くてパーティーからあぶれやすいからだ。


 さておき、朔斗を追放して以来のダンジョンへ挑戦していた<ブレイバーズ>の面々。

 今回もダンジョンの等級は上級だ。

 WEO東京第三支部にあるモノリスからの転移を終えたばかりの彼らが迎える新たな門出。


 俊彦たちは付与魔導師を求めていたけれど、さすがにこの短期間でフリーの付与魔導師をスカウトするまでには至らなかった。

 もうすぐ中学三年生が卒業するということもあって、自分たちの母校にも連絡を取ってみた俊彦たちだったが、今年の卒業生の中に付与魔導師はいなかったのだ。


 そういうわけで、妥協の結果として和江をパーティーに加えていた俊彦らは、彼女と今後ずっと一緒にやっていこうとは思っていなかった。

 俊彦たちのパーティーである<ブレイバーズ>は若手の有望株として、WEO東京第三支部ではわりと有名なため、彼らのパーティーに出来たひとつの空きを巡って多数の者が応募し、面接の結果選ばれたのが和江だったのだ。


 ダンジョンへの転移を終えたばかりの俊彦が振り向いて和江に言う。


「それじゃあ先頭に立って進んでくれ。警戒を忘れるな」

「どうしても私が?」

「ああ。嫌なら抜けてもいいって言っただろう? 納得した上で<ブレイバーズ>に加入したはず」

「そうね……」


 和江は少し前まで恋人の加藤雄大とパーティーを組んでいた。

 しかし前所属のパーティーは、とあるダンジョンで壊滅状態に陥り、雄大が片腕を失う大怪我を負い、自分と同じようにリーダーである男と恋人だった女性メンバー三人が帰らぬ人となってしまった。

 決死の想いで和江と雄大を逃がしてくれた仲間たちのためにも、自分が恋人のために稼がなければいけないと気合を入れて、俊彦たちのパーティーに応募した結果、彼女が受かったのだ。


(このパーティーはやっぱりサポーターの扱いが悪いわ。でも、今はお金を稼ぐことが重要なのよね……中級ダンジョンに挑戦していて、サポーターの扱いがそこそこのパーティーに加入しても、稼ぎは上級ダンジョンに潜れるパーティーには及ばないのは確実だし……)


「進むわ」


 緊張した面持ちの和江がそう口にしつつも、内心は不安を隠せない。

 彼女が心に思うは、自分と同じく雄大の恋人だった女性。


(今まではハンターのあの子が索敵をしてくれていたけど、<ブレイバーズ>に所属している限り、慣れていなくても私がしなきゃ。せっかくこのパーティーに加入できたんだから……)


 集中して草原を歩いていた和江の視界にモンスターが入る。

 まだ遠くでお互いの攻撃が届く距離ではないが、彼女は声を出す。


「前方に敵影発見。数は不明」


 常に気を張る必要がある索敵役と違って、警戒をしつつも精神を休ませていた俊彦が指示を出す。


「和江は後ろに戻って付与魔法。良太は前、恵子と瑞穂は俺と少し距離を取って後方へ。その陣形を維持したまま進むぞ!」

「オッケー!」


 良太が返事をしながら俊彦を追い越す。

 指示どおり臨戦態勢を整えた彼らは、まだ遠くにいるモンスターから注意を逸らさず、徐々に距離を詰める。

 ドスンドスンという地響きが大きくなってきて、敵影もはっきりしてきた。

 そして俊彦が叫ぶ。


「敵はトロールが三匹とサイクロプスが一匹だ! まずは俺が突っ込む!」

「あっ! 待って!」


 瑞穂が俊彦にかけた声は、アドレナリンが全開になっている彼の耳に届かない。

 盾役である良太を追い越していく俊彦に呆れてしまうが、今はそれどころじゃないと、彼女はすぐに恵子へと視線をやり口を開く。


「恵子お願い、俊彦に魔法が当たらないようにして!」


 普段はおっとりとしている瑞穂が心配そうな顔をして声を荒げた。

 魔法を使うため、体内の魔力を事象として具現化しようとしていた恵子の集中力が途切れそうになる。


(今みたいな位置関係なら、いつもは私の魔法から攻撃を開始していたのに……<ブレイバーズ>のリスタートだから、俊彦は焦ってる?)


 そこまで考えた恵子は、今この時は魔法以外に思考を割くべきじゃないと気持ちを切り替え、魔法のターゲットを敵全体から、一匹のトロールへと変更する。

 水色に輝く大きな剣を両手で構えた俊彦がサイクロプスに斬りかかった。

 しかし、彼の攻撃が当たる前に、サイクロプスが大きな口を開いて咆哮を上げる。


「グルアァァァァ!」


 人の筋肉を委縮させる効果があるサイクロプスの雄叫びによって、俊彦の足が少しの間止まってしまう。

 そして高さ三メートルより高所から振り下ろされるどでかいこん棒。

 なんとか敵の攻撃に対応しようと、俊彦は上段に構えていた武器を水平にして受け止めようとする。

 しかし、サイクロプスの攻撃が俊彦に届く前に――


「【シールドバッシュ】!!


 俊彦の前になんとか割り込んだ良太が、大きな盾をサイクロプスに当てた時、スキルである【シールドバッシュ】の効果でサイクロプスがたたらを踏む。

 それと同時にトロールの一匹へと着弾する恵子の魔法。

 炎がトロールをじゅわじゅわと焼いていくが、トロールの種族特性スキルでもある【再生】によって、皮膚や肉がゆっくりと治療されていく。


「くっ!」


 バランスを崩したサイクロプスはすぐさま態勢を整え、視線を恵子に向ける。

 遠距離から攻撃される危険性を感じたサイクロプスが、魔導師へと足を動かそうとした時――良太の【挑発】スキルが発動。


「こっちを見ろ!」


 サイクロプスのヘイトを稼いだ良太が一安心したのも束の間、彼の斜め前方へと躍り出た俊彦が叫ぶ。


「付与魔法でいつもより能力が上がってるんだ! 俺がこいつを押し切ってやる!」


 剣聖らしく鮮やかな剣さばきで敵のリーダーへ襲いかかる。

 俊彦がサイクロプスを側面から攻撃している間、良太は必死にサイクロプスのターゲットを自分へと固定しようとする。

 さらに、トロール三匹からのヘイトも彼がなんとか一身に引き受け、誰かが怪我を負ったときには瑞穂が回復魔法を使い、タイミングを見て遠距離から恵子が攻撃魔法をモンスターへと叩き込む。

 その様子を見ていた和江は内心思う。


(こういう場合、盾がサイクロプスを引き受けて、少し距離を取った場所で物理と魔法アタッカーがトロールを各個撃破したほうがいいんじゃ?)


 同時に四匹からの攻撃を受けつつ、縦横無尽に攻撃を繰り出す俊彦と間合いがかぶらないように注意している良太を見て、そう考えてしまう和江。

 さらに彼女が視線を横に向ければ、恵子が魔法を撃ちにくそうにしている。

 お世辞にも良い連携とは言えないだろう。

 そんな彼女の心配事はよそに、さすがにこの程度の敵では付与魔法もかかっている彼らの敵ではなかったようで、しばらくしてからサイクロプスとトロールらの命が尽きていたのだった。


お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 普通に下手糞か、この4人。
[気になる点] パーティーは5人組って扱いなのに、亡くなったのが女性が3人と和江と彼氏、それに特殊探索者で6人?9話の最後に嘆いてた男女と和江は違う感じですか? 特殊探索者はパーティーにあてがうって言…
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