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11:実地訓練

 まずはゴブリンを一匹倒した朔斗。

 彼は魔石に近づき、【ディメンションボックス】を使う。

 途端に掻き消える小さな魔石。


(この調子でできる限り進もう)


 それからしばらくは、一匹から三匹のゴブリンがちらほらと朔斗の前に現れたが、特に問題なく討伐をしていた。

 気分が高揚している彼は精神的な疲れを感じず、さらに今のところは剣を交えることもなかったので、肉体的な消耗もあまりない。

 ダンジョンへ来て一時間ほど歩き、朔斗はY字の分かれ道へとやって来た。


 彼は一度立ち止まり、どちらに進むのかを考える。


(右から饐えた匂いが少しするな。あっちに沢山のゴブリンがいそうだ。となると、いい練習になるか)


 自分が進むべき道を判断した朔斗は右の通路に向かって歩き始める。

 数分歩き続けた彼の視界に映ったのは、少し広い空間にいるゴブリンの集団。

 その数――三十匹は下らない。


(この位置からスキルを使っていったほうが楽なんだが、これは練習だからそういった温い対応をしたらダメだ)


「よし、行くか。いい訓練になるだろう」


 朔斗は気合を入れ、力強く足を動かし始めた。

 練習のため、できる限りゴブリンに近付いてから【解体EX】を使いたかった朔斗だったが、彼が使用する前にゴブリンが侵入者に気がつく。


 ゴブリンのだみ声が洞窟に響く。

 朔斗にとっては不快な大合唱だったが、ゴブリンからしたら戦闘前の雄叫びだ。


(奥にいるのはゴブリンマジシャンにゴブリンシャーマンか。それぞれが六匹程度で、他は普通のゴブリンだな。奴らと相対するのが普通のパーティーなら、回復役のシャーマンから潰すのが鉄則だが、【解体EX】の前に回復魔法は無意味。そうであるのなら、まずはマジシャンから排除すべき)


 ゴブリンの団体が獲物を殺すために朔斗へ殺到する。


「いくぞ!」


 けん制のため剣を突き出し、盾を構えた彼はゴブリンマジシャンへと【解体EX】を使用していく。

 杖を掲げて魔法を使おうとしていたゴブリンマジシャンは順番に発光し、魔石を残していった。


(脅威度が高いマジシャンはやっつけた。次はきちんといくつかの部位が取れるようにするか)


 ゴブリンマジシャンが倒されたことを気にせず、ゴブリンどもは朔斗に突撃してくる。


(まずは前衛から。肉を残すように十匹だ。肉の使い道はないが……それを破棄するだけだとしても、いい練習になるだろう)


 朔斗と対峙していて、より彼に近い位置にいるゴブリンから順番に光を発していく。

 それが予定どおり十匹で止まり、朔斗は再び考える。


(次は肉と骨と魔石を残すってイメージでやろう)


 集中力を増した彼は、一体のゴブリンに定めていた視線を順に動かしていく。

 次の獲物へ向けてスキルを使用したかった朔斗だったが、五匹目まで終わらせたとき、まだ被害を受けていないゴブリンが彼に襲い掛かる。

 

 朔斗は咄嗟に盾を構え、ゴブリンの振り下ろしを防ぐ。

 さらに右斜め前方からゴブリンが木の棒で攻撃を行う。

 しかし、それを朔斗は片手剣で弾く。


 まずは片手剣で攻撃を防がれたゴブリンに【解体EX】を使おうとした朔斗だったが、自分の側面に新たなゴブリンがやって来たことに気がつき、咄嗟にバックステップを踏む。

 ゴブリンの命を奪うことのみに専心したのなら、ここまで手こずらないし、敵との距離があればあるほど単なる作業となるが、戦闘をして自分の身を守りながらだと上手くいかない。


(利き腕じゃない左手で文字を書きつつ、右手で何か作業をするような感じか。なかなか難しいな。だが、これは今後の俺に必要な技術だ)


 五匹のゴブリンが朔斗へ不規則に殴りかかる。

 もし、この場にゴブリンリーダーがいたのならば、もっと連携が取れた攻撃を繰り出していただろう。

 片手剣と盾を巧みに操り、朔斗はモンスターからの攻撃をいなしていく。

 直接的な戦闘向けのジョブを持った探索者には及ばないが、それでもCランク探索者である彼の身体能力は一般市民に比べるまでもなく優秀だ。


 拙い技術で防御に専念していくうちに、徐々にだが敵からの攻撃に慣れていることに気がつく。

 そしてゴブリンからの攻撃の合間合間に【解体EX】を使用。

 一匹一匹と数を減らしていくゴブリンたち。

 攻防を繰り返しているうちに五匹のゴブリンを撃破し、残るは無傷のゴブリンシャーマンたち。


 そちらは積極的に朔斗へ向かって来ていなかったため、彼は視線をゴブリンシャーマンへとやり、順番にスキルを使っていく。

 ものの数秒でそれらを倒した朔斗は大きく息を吐く。


「ふぅ、無事に終わったか……もう少し判断を早くしなきゃダメだ。いくつか攻撃をもらってしまったし……」


 軽く脇腹をさすったあと、頭を振った朔斗は内心思う。


(今のは完封したかったな。倒す順番に間違いはなかったから、あとは慣れやさらなる集中力と判断力。それにできれば戦闘の技術も伸ばしたい。うーん、もっともっと俺自身を鍛えなきゃいけない)


 断末魔さえ上げさせることなく息の根を止める自分自身のスキル。

 それに恐ろしさを覚えないわけじゃなかった朔斗だが、今の状況でスキルを使用しないことは有り得ないし、エリクサーを求めたり探索者として上へいったりするためにも、【解体EX】は絶対に不可欠だ。


「緊張が途切れた途端、痛みが出てきたな」


 そう呟いた朔斗は【ディメンションボックス】からポーションを取り出す。

 500ミリリットルのペットボトルに入っている緑色の液体をぐびぐびと飲み始める。

 彼はポーションを半分ほど飲んだあと、キャップを閉めて【ディメンションボックス】にしまう。


 ポーションとは傷を治す液体であり、飲んだり患部にかけたりして使用する物だ。

 それには等級が存在していて、上の等級ほど効果と価格が高くなる。

 今のところ、人の手で作れる限界は上級までであり、それ以上だとダンジョンの報酬箱から産出されるのみ。


(さてと、続きといくか)


 朔斗は、再び敵を求めて歩き始めた。

 それからもさまざまなゴブリンを相手にしつつ、彼は【解体EX】を使用した戦闘経験を積んでいく。

 そうして、ゴブリンリーダーが指揮している集団、ゴブリンマジシャンばかりの団体、五十匹を超える無印ゴブリンの群れなどを、多少の怪我を負うだけで朔斗は難なく撃破していった。


――二日間の実戦訓練をこなした彼がたどり着いたのはボス部屋の前。


「いくか」


 扉を開けて朔斗が中に入る。

 彼がボス部屋に入室すると同時に、扉が自動的に閉まった。

 ボス部屋に挑戦できるのは五人までとなっていて、その人数が入ってしまえば六人目以降が突入しようとしても、見えない壁に阻まれて入室が不可能になってしまう。


 自分たちのテリトリーに侵入者が現れたことに気がついたゴブリンジェネラルやその配下。

 彼らは下品な笑みを浮かべて獲物へと殺意を乗せた視線を向けた。

 まず足を動かしたのはゴブリンニ十匹とゴブリンリーダーが二匹。

 その後ろで魔法の発動させるために集中し始めたゴブリンマジシャンが七匹、さらにアサシンゴブリン三匹が物音を立てずに攻撃の機会を窺っている。

 三十二匹を支配下に置いたゴブリンジェネラルは悠然と佇む。


(まずはジェネラルをやって指揮系統を崩す!)


 そう意識して朔斗が【解体EX】を使うと、ゴブリンジェネラルがぼんやりと光り動きが止まる。

 そして、その場には太い骨が数本と魔石がゴブリンジェネラルと引き換えに現れた。

 指揮官を前触れなく失ってしまったゴブリンたちに動揺が走る。

 その隙を見逃さず、次はゴブリンリーダー二匹を片付けたところで、ゴブリンマジシャンたちからの魔法が朔斗目掛けて飛来。

 火球や水球を危なげなくかわした彼は内心考える。


(魔法を使うゴブリンマジシャンは厄介だが、それよりもアサシンに急襲されるほうがきついな)


 そう判断した朔斗は、存在感が希薄になりつつあったゴブリンアサシン三匹を数秒のうちに撃破。


(幸いにして、ゴブリン二十匹はまだ足が止まっている。この隙にマジシャンだ)


 ゴブリンリーダーと一緒に朔斗へと襲いかかろうとしていたゴブリンたち。

 それらと朔斗の間の距離はまだ十メートルほどある。

 二発目の魔法を撃つため、人間には理解できない言葉で気合を入れてから集中しようとしていたゴブリンマジシャンを彼が次々に倒していく。


(残りは普通のゴブリンのみ。上位種に指揮されていれば能力も上がっていただろうが、それらはすでに倒した)


 自分たちの上位者が易々と葬られたことで、及び腰になってしまったゴブリンたちだったが、人間を喰らいたいという本能が恐れを塗り潰す。

 深く考えるのが苦手なゴブリンの団体が朔斗へ殺到するも、彼は片手剣と盾を上手に使いながら、地道にゴブリンの数を減らしていく。


 そうして、ものの数分でボス部屋にいたすべてのゴブリン種は、ダンジョンの階級に強さが見合っていない侵入者に倒されたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 解体EXは10m離れても機能するのか なかなか凄いな
[気になる点] スキル強すぎて敵即死しか有り得ないんだから、 「ゴブリン30匹を全部解体EXで倒した」 これだけでよくないですか? [一言] 解体EXの効果をあらすじに書いてもらえないでしょうか。 あ…
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