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【私の誕生日①】

 あの日から何年か経った春の季節の事。

 迷宮測量を終えた私は、期待に胸を膨らませて帰路を急いでいた。

 なんていったって、今日は私の十六歳の誕生日。そして久々に"パパ"に会える日なのだから。


 トランパルの城門が見えてくると、自然と足も前に進む。

 少し息を切らしながら城門の前にたどり着くと、見慣れた顔が一人。

 私がお世話になっている人、クレア・ルエーシュさんだ。


「お帰りなさい、今日も早いわね」

「ただいま、クレアさん! パパはもう来てる?」

「いいえ、そろそろ見える頃だと思うんだけど」


 ふう、と一息ついて、クレアさんの前に立つ私。

 いつの間にか背を追い越していて、少し優越感に浸っていたのを思い出す。

 昔はずっと見上げてる立場だったのにな。時の流れって不思議なものだ。


「……? どうしたの、じっと見て」

「ふふん、何でもないよー」

「む……なんかちょっと小馬鹿にしてたわね? 顔に出てるわよ」


 うっ、クレアさん鋭い……いや、私が分かりやすいだけか……。


「クレアさん小っちゃくて可愛いなーって思っただけ……だよ?」

「誤魔化さないの、まったく」

「ハイごめんなさい」

「……ま、確かに随分と成長したわよね」


 クレアさんはやれやれといった様子で私の頭の上にぽんと手を置く。

 頭半分くらい追い越してしまったけれど、彼女は昔みたいに頭を撫でてくれる。

 嬉しいけど、外でやられるのはちょっと恥ずかしいかな。


「このままパパも追い越しちゃうかもね?」


 そう言って優しい笑みを浮かべてくれるクレアさん。

 パパを追い越すだなんて考えもしなかったけれど、でももしも追い越せたら──。

 ……ちょっとだけ優越感に浸れるかな、へへへ。


「ふふっ……あ、馬車が見えてきたわ」


 クレアさんが向く方向を見ると、一台の帆馬車がゆっくりとこちらへと向かってきていた。

 冒険者ギルドの紋章が見えるから、多分あの中にあの人は居る。

 私は待ちきれなくて、馬車が近づいてきた時に駆け出してしまった。


「止めてくれ」


 馬車の中から懐かしい声が聞こえてくる。

 御者さんが馬車を止めると、中から一人の男性が降りて来た。

 

 ちょっと白髪交じりの茶髪、整ったあごひげ、コートマントを羽織ったその男性。

 その人は駆け寄る私を見ると、いつものように優しくほほ笑んで迎えてくれた。


「久しぶり、ニーナ」

「……っ! パパっ!」


 名前を呼んでくれたことが嬉しくて、思わず昔みたいに飛びついてしまう。

 流石に大きくなった私を受け止めるのは大変だったみたいで、パパは少しよろけてしまって。

 でもパパは怒らずに、抱きつく私の頭を優しくぽんぽんと撫でてくれるのだ。

 小さかった頃、よくこうして撫でられたのを思い出して、私はとても懐かしい気持ちになった。


「大きくなったな、手紙にも書いてあったがクレアの身長越したんだって?」

「うんっ、えへへ」


 なんだか童心に帰った気持ちで、パパに微笑む私。


「ふふ、もう……大きい子供みたいね、ニーナちゃんったら」


 私の後ろからくすくすと笑ってクレアさんがやってくる。

 その言葉に私ははっとして、ちょっと照れ臭くなってパパから離れた。

 周りの人の微笑ましい視線がちょっと恥ずかしい……。


「久しぶり、ジム。元気そうで何よりだわ」

「ああ、クレアも元気そうで良かったよ」


 パパとクレアさんが互いに見つめあって、仲睦まじそうに話している。

 こうしてみると二人は夫婦って感じで、羨ましいような、少し嫉妬しちゃうような。

 私もパパが大好きだけど、クレアさんも私と同じくらいパパが大好きで、話してると凄く嬉しそうなんだ。

 クレアさんをママって呼ぼうかちょっと考えちゃったけど、それはなんだか二人の間柄を認めちゃうようなものだしやめておく。……今はね。


「あ、二人とも久しぶりで……わああっ!?」


 次に馬車から降りて来たのはシエラさん。

 ……だけど降りる瞬間足を滑らせて落っこちて、目を回している。

 変わらないなあ……なんて思いながら、私はパパが慌てて手を差し伸べるのを眺めていた。


「ったた……すみません私ったら」

「シエラ、大丈夫か?」

「はいっ、なぜか大怪我だけはしないので!」


 ……流石『幸運』の持ち主というか。

 元気そうに振舞うシエラさんを見てパパも少し苦笑い。

 相変わらずだな、なんて言いながら私とクレアさんの元へと戻って来た。


「ふふっ、二人とも元気そうでよかった! ダンジリアのみんなは元気?」


 私がそう聞くと、シエラさんはこくりと強く頷いて答えてくれた。


「うんっ、お母さんもカイルくんもマオちゃんも、みんな元気にしてるよ! あ、そうそう、ニーナちゃん宛てに手紙も預かってるんだ」


 シエラさんはそう言って懐から三通の手紙を出してくれる。

 三人ともトランパルに来れないから、代わりにお祝いの手紙を書いてくれたみたいだ。

 ふふっ、とっても嬉しいな。どんなことが書いてあるんだろう?


「シエラ、それはサプライズじゃなかったのか?」

「あっ! ……な、内容はパーティの時に見せるからね、ニーナちゃん!」


 ……シエラさん、やっぱり抜けてるなあ。


「ふふ、相変わらずね……さて、立ち話もなんだしギルドの方に向かいましょうか。みんな待ってるだろうし」

「ん、ああそうだな。全員馬車に乗ってくれるか?」


 パパの言葉にうんっと頷くと、私とクレアさんは馬車に乗る。

 シエラさんとパパも乗って、パパが御者さんに合図を出すと、ゆっくりと馬車は動き出した。


「ああそうだ、言い忘れてた」


 馬車の中で、パパは私に微笑みかけてくれて。


「ハッピーバースデイ、ニーナ」


 と、私の誕生日を祝福してくれた。

 私はその一言で嬉しくなってしまい、ありがとうって言ってまたパパに抱きついてしまう。

 みんなの微笑ましい視線が、ちょっとだけ恥ずかしかった。

 ……ファザコンって言われてもしょうがないよね、これじゃ。

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