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【ダンジリア帰還後①】

 少し肌寒い風が頬を通り抜ける、秋季の初め。

 ダンジリアへと戻った俺は、相も変わらず迷宮測量士の活動を続けていた。


 俺の名は"ジム・ランパート"。"迷宮測量士(ダンジョンマッパー)"という職業を生業としている。

 この世界には迷宮という"転移してくる異世界のダンジョン"で溢れていて、俺たち迷宮測量士は迷宮の地図を作るのが仕事だ。

 まあ実は、迷宮ってのは異世界のものじゃなく……ってのは、また話が長くなるからよしとしよう。


 そうして描いた地図は、迷宮を攻略する冒険者たちが活用する。

 簡単に言えば迷宮測量士の仕事というのは、"冒険者の命を守る"仕事だな。

 まあその分、命を落とす危険もあるんだが……この辺りの話は、また次の機会にでも。


 さて、俺はちょうど迷宮測量(マッピング)を終えて、ここ"ダンジリア"へと戻って来た。

 この街は俺が活動している拠点で、小さいながらも非常に発展した街だ。

 周辺に迷宮も多く、最近じゃ"第二の迷宮の街"だなんてひっそりと呼ばれてるくらいなのさ。


 俺の目的地はもちろん冒険者ギルド。描いた地図を届けにゃならんからな。

 ダンジリアの冒険者ギルドは、小さいながらも多くの冒険者が集う場所だ。

 カフェかと思うくらいの規模だが、その機能は大手のギルドに劣らないものだ。


 というわけで俺は今、ギルドのある通りを歩いている。

 見慣れた光景だが、ついこの間まで遠征してたもんだから妙に懐かしい気持ちを覚える。変なものだ。


 すると、街の知り合いが手を振って挨拶してくれる。


「やあジムさん、毎日精が出るねぇ」


 あれは食料品店の爺さんだ、散歩途中なのだろうか。


「やあどうも」

「戻って来たばかりだというのに、大変じゃあないかい?」

「ハハ……まあ俺にはこれしかないもんですから」


 立ち止まって始まるちょっとした雑談。

 こうして見慣れた顔と話していると、この街に帰って来たんだなって実感が湧いてくる。


「そういえば、娘さんはどうしたんだい? 一緒に帰って来たと思っていたが」

「ああ、ちょっとトランパルで学校に通い始めましてね。しばらくの間向こうに居る事になったんですよ」

「ほぉー学校に! そりゃまた凄い事になったね」


 彼が言う娘さん……"ニーナ・ランパート"についても話しておかなきゃならないだろう。

 彼女は迷宮で見つかった少女で、一応は俺の娘ってことになっている。

 実の父は……信じられないと思うが"カルーン"っていう"神様"なんだ。


 俺は先ほど言った遠征でそのカルーンと出会い、彼が死に瀕していることを知った。

 そして彼を助けるために、ニーナは自分に備わっていた神の力を失ってしまったんだ。

 つまりニーナは、今この世界で唯一の『無能力』の少女なのである。


 この世界の誰しもが持つ能力、"スキル"。人々はそのスキルを活かした職業に就くのが一般的だ。

 かく言う俺も『逃げ足』というハズレスキルを持っているんだ。

 ……まあ最近じゃ再評価されているらしく、"ただの珍しいスキル"ってことになっているらしい。

 こいつのせいで苦労した身からしたら、同じような思いをする人間が居なくなって良かったと思う。


 まあさておき、無能力になってしまったニーナだが、今は俺の友人である"クレア・ルエーシュ"という女性の元で暮らしている。

 彼女は凄腕の冒険者で、"現代最強の魔術師"と言っても過言ではない女性だ。

 二人の仲は良いのか悪いのかは分からないが……まあ、楽しくやっているのを祈ろう。


「しかしそうなると、元気なあの子の姿が見られないのは少し寂しいね」

「まあでも、彼女が選んだ道ですから……俺には応援してやることしかできませんよ」

「そうだね……彼女の将来が明るいものになるようカルーン様に祈ろうじゃないか」


 食料品店の爺さんは手を組んで少しの間祈ってくれた。

 ニーナがダンジリアに居たのは短い期間だったけれど、それでもこうして案じてくれるのはとても有難いな。


「ああジムさん、すまないね長々と話して。これからギルドに行くんだろう、邪魔して悪かったよ」

「いや、急いでなかったので大丈夫ですよ。また帰りにお店に寄らせてもらいます」

「ありがとう、今日は山菜が多く入ったから安くしておくよ」


 彼は組んだ手を解き、俺に手を振って別れを告げた。

 山菜か……サラダにして食べるか、パスタに混ぜて食べようか。

 ニーナは嫌な顔しそうだ……っと、今は俺一人だった。癖で多く買わないようにしないと。


 そんなことを考えながら、俺はギルドへと向けて歩みを進めていく。

 爺さんの言っていた通り、ニーナの反応が見られないのは少しだけ寂しい気がするな……。

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