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この日の光景は悪夢となって、
皆の心に刻まれることだろう。
皆の視線がその少年に注がれる中、
僕はその横で鎮座する弁護人役の友人の顔を
見逃さなかった。
弁護していたはずの友人が、
なぜかホッとしたように顔を弛める、
その僅かな表情筋の動きを、
僕は見逃していなかった。
彼が安堵したのは、
淘汰される側の人間が一人減った事実により、
自分が淘汰される可能性が少し減ったためだろう。
もしかしたら彼は、
被告の友人より成績が悪かったのかも知れない。
それはある事実を如実に示していた。
それが例え友人でも、
自分の命以上にはなりえない現実。
先生はその表情の変化に気づいたのか!?
ふっとそんな疑問がわき先生の方を見ると、
先生の立った位置からはその僅かな表情の変化は
見えない事に気づいた。
そしてもう1つ気づいたことは。
皆の視線が倒れた少年に注がれる中、
先生が見ていたのはその少年ではなく、
それを見つめる生徒一同だったことだ。
先生がそんな僕の視線に気がつき、
こちらに目線を走らせた瞬間、
僕は反射的に視線をそらしていた。
何もかもが狂っていた。
恐怖にとりつかれた生徒を観察する教師。
友の死に安堵するその友人。
そして一番狂っているのは、
そんな状況を冷静に分析する僕自身だった。
死を前に崩れ落ちた少年の恐怖は、
すでに教室全体に感染し、
僕のように周りを観察する者はいなかった。
いや、いないと思っていた。
だがすぐに、それは間違いだったと気づかされた。
ただ一人だけ僕と同じように、
そんな教室の様子を観察する者がいたのだ。
3つ席の離れた場所で彼は座っていた。
冬夜 仁 《 まさき》。
僕と同じく、いやそれ以上に冷めた目で、
そんな教室全体を観察する者。
彼は先生には見えない位置でノートの走り書きをかざした。
ノートにはこちらを見るなと書かれていた。
どうやら彼のほうが早くこちらの存在に気がついて
いたようだ。
僕よりもかなり前から教室で被害者ではなく、
その様子を観察する者を、観察していたのかも
知れない。
いち早く危険人物を割り出すために。
そう考えると彼の存在は無視できないものだった。