生け贄投票
果たしてそれが良かったのか僕は考える。
自分の無実を弁護してもらうのに、
自分の無実に投票してくれそうな相手を選ぶのは
当然だが。
それは同時に確実に無実に入れてくれる相手を一票
失うことにもなるのだ。
それにカンニングをした事がばれている
このケースの場合、争うのは無実ではなく
生け贄にされないための懇願だろう。
弁護士は無実に投票してくれる人でなくてもいいのではないか。
いやむしろ無実に投票してくれそうな人は
残しとくべきなのでは。
そんな考えがグルグルとめぐっていた。
これは何も他人事ではない。
いつ自分がその立場になるかわからない状況なのだ
。
他の生徒もそれぞれの打算に、
考えを巡らしているようだった。
普通の状況なら誰もクラスメートを殺したいとは
思わないだろう。
それは倫理的な事いぜんに、
彼を有罪にすればそれは同時に、
自分も殺される立場になるかも知れない現実を
突きつけられる事にもなるからだ。
だが生け贄が必ず選ばれるこの状況下で、
ライバルを少しでも早く減らそうと考えるのは、
人間のさがだろう。
そんな様々な思惑の絡んだ多数の目を受け、
被告の少年は壇上で震えていた。
弁護人の生徒が必死で情にうったえかけ
被告人を弁護する。
幾人かの友達グループを証人として呼び、
どこか白々しくいかに良い奴かを熱弁していた。
そう、これは彼の罪の是非をとう裁判では
ないのだ。
それはそうだろう、カンニングしただけで死刑など普通ではありえない。
それがありえる裁判。
問われるのは個人の倫理観と損得感情。
その天秤がどちらに傾くかの裁判。
一人一人の打算による裁判なのである。
つまりは彼を生かすのが得か損か、
一人一人が考え導く問題なのだ。
カンニングからもわかるように、
彼はそれほど成績は良くなかっただろう。
それでも中間層の成績の人間からすれば脅威だ。
だが成績上位の人間からすれば、
ここで彼を退場させるのは得策だろうか。
生かしておけば、驚異となりえる中間層を
落とせるかも知れない。
そう言った打算の中、静かにその時はおとずれた。
投票の時間。
それぞれが有罪無罪を書いた投票用紙を、
2つ折にし投票箱に入れていく。