9.挑戦状
「よし、めんどかったこの学院の説明も終わりだ。明日から早速授業が始まっていく。気を引き締めて行け。それと萩野。お前は特待で入っているから実力を確認しておきたい。この後職員室へ来い。以上だ」
「え、おい凛夜。お前特待ってまじかよ!」
「す、すごいね萩野君」
「ホントね!顔も良くって実力もあるってどうなってんのよ!ずるよずる!」
「あの顔で特待って、お、俺は一体なんなんだ!ま、まさか!この俺にも隠された力ってのがあるっていうのか!?」
「おいやめておけ。夢をみるだけ無駄だぞ」
「バッサリ切ってくんなよ!」
「マジ!?私、彼狙っちゃおーかな!?」
「無理でしょ。相手小野川さんじゃん?勝ち目ないでしょ」
と、さっきの特待って言葉で場が騒ついている。なんでこんなとこで言うんだよ…。教室の外で言ってくれればいいじゃん…。
ため息をつきながら、「悪いな。そういう事だから先行くわ」
「おう!また明日な!」
「そうね!また明日!」
「は、はい。また明日お話しましょう!」と顔を赤くしながら言ってくれる。
こんな人数がいる中言われると流石にちょっと恥ずかしいな。いくら俺が周りを気にしないのにといっても限度がある。カイと朝日はニヤニヤしてるし。 カイは実戦練習でお仕置き決定だな、と1人で考えていると、
「ふん!どうせ親のコネか何かで入ったんだろ!どーやってあの学院長に取り合ったか知らねーが俺はお前を認めねーぞ!」
「そうだ!明日の実戦練習でやっちゃおーよ!」
「おお!それはいい案だな!おい萩野良いよな?」と薄ら笑いを浮かべながら尋ねてくる。
「ん?明日から早速練習するのか?早くても1週間後とかだと思ってたんだが」
「こ、この学院は入学式の次の日に模擬戦をする事で自分のクラスでの位置を把握し、これから少しでも上に行けるように努力させるらしいです。」
「それに学院内序列があって1位〜10位まではこの学院内でとても優遇されるらしいぞ!例えばー、そうだな。食堂がタダになるな!」
なんだと!?食堂がタダ!?それは一大事じゃないか!? この学院の食堂はとても美味しいと評判だ。なんでも超有名レストランから引き抜いたりしていると紫苑から聞いた覚えがある。そんな学院の食堂がタダとなると凛夜は黙っちゃいない。
「ホントか!ちょっと上目指そうかな?」
「おいおい凛夜。いくらお前が特待でも入学式したての奴じゃキツいぜ? しかも今年は特に上位争いが厳しいらしいしな」
「そうね、なんでもあの三大貴族の…」
「おい!俺を無視すんじゃねぇ!お前らなめてるだろ!?」
「ああ悪い。これは食堂の話をしたカイが悪い」
「俺なのか!?」
「いい加減にしろ!お前タダじゃすまさねぇぞ!みんなの前で恥かかせてやる!お前ら行くぞ!」
と、子分2人を連れて出て行ってしまった。
「萩野君、大丈夫なの?」ととても心配してくれている。
「ああ、大丈夫だよ。こういうのは慣れてるから」
「慣れてる?萩野、それどういう意味よ」
「そうだぜ凛夜。どういう事なんだ?」
実はまだ凛夜が幼くして十英傑になり、軍に入った時お前なんかがあの方達と同じな訳がない!と何度も勝負を挑まれたことがあったからつい言葉に出てしまった。今バレると余計にややかしくなるからな。
「いや、こんな見た目してるから何度も勝負を挑まれたことがあるんだ。それでだよ」と苦笑いしながらいうと、
「そういうことなのね。目に見えてその様子が浮かんできたわ」
「ああ、全くだ!」
「萩野君はかっこいいからしょうがないよ」
「なによ桜、もしかして萩野に気があんの?さっきも他の女子が萩野には小野川が〜みたいな事言ってたけど?」とニヤニヤしている。
「や、やめてよ真由ちゃん!そんなんじゃないよ!ただ単純に…!」
「単純に…?」
「もう!」
ハハハハ!とみんなで笑い合うと、先に失礼する。
「じぁみんな明日な」
「ああ!ビビって明日休むなよ?!まあお前に限ってそんな事無いだろうけどな!」
「大丈夫だ。今日は早めに寝るよ」と笑いながら別れた。
先に紫苑に連絡入れとかなきゃだな。特待の件で呼ばれてるから先に帰っていいぞって。カタカタと端末を叩くとすぐにピコンという音が鳴る。
返信はや!と思いながら見ると、
「私もそちらに向かいます」と書いてあった。
という事は待ってくれるということだ。先に帰っておけばいいのに。可愛い妹だホントに。
などと考えていたらあっという間に職員室に着く。
コンコン、失礼します。と最早定型文を述べながら、
「河野先生はいらっしゃいますか?」というと、
「ああ、来たか。正直だるいんだがお前の実力を知っておきたい。訓練場今から行けるか?」
「大丈夫ですけど、服はどうするんですか?」
「あー、まあ魔力測定とか威力とかしか今日は見ないから大丈夫だろ」
「わかりました」
どれぐらいの力でやればいいのだろうか。全力では流石にまずいしなぁ。でも食堂無料があるからあまり抑えたくはない。んー、迷うなぁ。
最早この学院の序列は凛夜にとって食堂無料権を貰うためのものと化してしまっている。普通の人が聞いたら卒倒もんだ。
まぁ、テキトーにやるかぁ。と軽い気持ちで考えている凛夜であった。