5.入学式前夜
「ただいまー」
久しぶりの我が家だ。普通の家屋より少し大きい程度のごく普通の家造り。
「凛ちゃんお帰りなさい、大変だったでしょ?」
「まあいつも通りかなぁ。父さんは?」
「さっき帰って来てたとこよ。もうすぐご飯できるから手を洗って来なさい。」
手を洗い居間に行く。
「おー凛夜か、どうだ?これ飲んでみるか!?」
「はぁ、まだ俺は二十歳にもなってないよ」
「まあそう硬いこと言わずにチョビっとだけ!?」
ガン!と鈍い音が響く。
「あらあらお父さん、凛ちゃんにお酒はまだ早いですよ?」
物凄い形相の母さんこと萩野夕美がそこにはいた。というか、その手に持っているパイプはどこから出して来たのだろう。ちなみに父さんの名前は萩野透だ。
「か、母さん!凛夜もそろそろ社会経験をだなぁ!」
ガン!と2度目の音が響く。このアホは何度これを繰り返すのだろう。前にも同じ過ちを犯し昇天していた。
「ささ、久しぶりに家族揃ってご飯よ。しーちゃん、あれ持って来て〜」
「見ないと思ったら紫苑は台所に居たのか。」
紫苑とは俺の妹の事だ。年も同じだが実の兄妹、というわけではない。まず俺はこの両親の子ではない。透が壁の外を調査してる時たまたま見つけ、もちろん親を探したが見つからなかったので萩野家で引き取るということになったらしい。
「おい紫苑、あまりくっつくな!」
「いいじゃないですか。減るものでもありませんし」
こっちの精神がすり減るんだよ!紫苑は俺から見てもとても可愛いと思う。吸い込まれそうになるほどの漆黒でサラサラと腰まで伸びる髪、肌も雪のように白い傷ひとつないシルクのような柔肌。顔立ちもスッキリとした大きな瞳に長い睫毛、淡くピンク色でぷっくりとした唇。そんな完全無欠な少女なのに何故か昔から俺に懐いていた、今も変わらずに。
「まあまあ、中が良いのは良い事じゃない!」と母さんもこの調子だ。
それにこの妹は俺が入るアールスハイン学院の首席だ。学力、戦闘技術、容姿、どれを取っても一級品だ。
こんな調子でいたら俺はこの妹絡みで絶対何か起こると思っている。
「今日は凛ちゃんの好きなサンマの塩焼きをしーちゃんと一緒に作ったのよ?」
急だけど、サンマってやっぱり美味しいよね!旬のサンマのあの脂の乗り方といったらもう…!
「それじゃ食べましょーか!」と母さんが言うと一緒に頂きますと手を合わせ、ご飯を食べ始める。そこで伸びているアホを除き…。
やっぱり母さんと紫苑の作るご飯は美味いな!と久々に堪能しながら思う凛夜であったーーーー。
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久々の家でゆっくりしたいところだが、今日はアールスハインの入学式の日だ。
「それじゃ、凛ちゃんもしーちゃんも気をつけて行って来てね」
「そうだぞ凛。初日から女の子引っかけて帰ってくるなよぉ!?」いつも通り要らん事を言おうとした父さんが母さんのボディーブローをもろにくらい失神している。
ホントにアホな親父だ、とつくづく思う。
「じぁ、行ってきます」「行ってきます」
「いってらっしゃい」
2人で駅に向かって歩き出すと後ろから、「もうお父さん!いい加減起きなさい!」と言いながらバシバシという音が聞こえてきた。
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駅に近づくにつれ登校中の学生や出勤中の人たちが駅に向かって歩いて行く。
「ねぇ、あれ!」 「何あのイケメン!それに隣の女の子も!」
その他にもこっちを見ながらヒソヒソしたり、横まで見てくる人が大勢いる。
「はぁ。紫苑もうちょっと早く歩こっか」
「そうですね、そうしましょう」 紫苑も気にはなっていたようだ。
電車を1度乗り換え、揺られること40分。電車からでも分かるほど大きくそして広い敷地を持つ建物が現れる。
そうあれが世界屈指の学院、アールスハイン学院だ。世界中から受験生が集まり、毎年のように定員の30倍になるらしい。そして俺と同じ十英傑の1人、ベル サンドラが学院長として治める学院。
基本的に十英傑の素性は個人の自由で明かすか明かさないかは決める事ができる。最初はサンドラも公表していなかったが、学院長の席が決まった時に色々面倒だからと公表したのだ。
ちなみに俺は年齢だけは公開している。だから3年前に十英傑の1人になった時は世界中に注目されていた。というのも自分でいうのもなんだが、12歳で入ったのだ。もちろん史上最年少で。注目されない方がおかしかった。
それにあれから3年だ。高校に入学してもおかしくはない。だから今年、日本、いや世界で屈指の学院、アールスハインに入学してくるのではないかと巷では囁かれている。
まあ、そうなんですけど。