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番外編 運転手のこれから

番外編です。

これで終わりです!

ありがとうございました!!


私は達成感に満ちていた。

やっと家族の仇を取ることが出来た。

しかし、それも自宅に着くまでだった。

ここはお世辞にも綺麗な家ではない。

二階建てのボロアパートだ。

今の私の収入ではこれが限界なのだろう。

蓄えはあるが使う理由がない。

今私はテレビを見ている。

バラエティ番組だ。

しかし、コメディアンの笑い声が酷く遠くに感じる。

私は食事をしている。

机の上にはコンビニで買った缶ビールとサバの味噌煮とレンジで作る白米がある。

味がしない。

この感覚は前にも味わったな。

無気力で時間が止まっているような感じだ。

一か月前この感覚を味わっている時にあの子が‥‥


「おじさん元に戻ったね」


後ろから声が聞こえる。

そうこんな感じだ、こんなふうに彼女は突然現れた。

一カ月前は面食らったがこれが何度も続くとなると慣れるものだ。


「やあ、どうしたんだい?」


振り返ったらやはりあの子がいた。

自宅の鍵は確かに掛けたはずだ。

一体どうやって入って来ているのか。

まぁ、でも、どうでもいいか。

この子は私の恩人だ。

どうせ聞いても教えてくれないだろうし、この子のやる事成す事いちいち驚いていたらキリが無い。


「おじさんは‥‥この世にもう未練は無くなったんじゃない?」


未練がない?

‥‥確かに、もうないな。

このまま大人しく眠るように死ねたら、

それはそれでとても幸せな事だろう。

そう考える程度には私は生に執着していないように思う。


「そうだね、もうないよ。

大切なものもないし、このまま死ねたらそれはそれで幸せな人生だと思うな。」


そう言ったら‥‥少女はにっこりと微笑んだ。


「私はね、とても傲慢なの。

私は大切なものが傷付くのは見たくない。

大切な物を傷つける存在を許すことが出来ない。

この世界は弱者に優しくないでしょ?。

だからこそ、私は強者であり続けないといけない。

私は‥‥大切な物を全て守ると決めたんだ。」


少女は私を見る。

琥珀色の瞳には確固たる覚悟が秘めていた。

今の私にはその眼差しがとても眩しく感じられた。


「そもそも、何が大切かなんて、決めることが出来るのは自分しかいないよ。

真っ暗な暗闇の中、なんの導きもなく、なんのヒントもなく、選択という名の分岐点に放置されることこそが人生だ。

その中で、必死で考え、悩んで、そして選んで行動し、結果を掴む。

生きるとはそういうことじゃない?」


この子言いたいことはわかる。

しかし‥‥


「人間はそこまで強くないよ。

みんながお嬢さんみたいに力強く生きて行けるとは限らない。

ほとんどの人間は失敗を恐れ、リスクを恐れ、前に進むことを諦める。」


「さっき君は暗闇の中で選択肢を選び掴み取ることが重要だと言ったね?

でも、現実はほとんどの人間はそれをしないものさ。

理由は簡単だよ、ほとんどの人間は楽をして幸せになりたいのさ。

でも、楽をして掴んだ幸せなんてたかが知れてる。

だってそうだろう?

そういう幸せは他人が用意してくれた物だ。

と言うことは、他人が奪うことも簡単だと思わないかい?」


結局のところ私の人生は他人に奪われたのだ。

私の知らぬうちに簡単に‥‥。


「そうだね、おじさんの言う通りだよ。

そのことに気付かず一生を終える人もいれば、

おじさんみたいに不幸のドン底まで落ちて初めて気付く人もいる、

死ぬ間際になってやっと気付いてあの時ああしてればと、後悔しながら死んでいく人もいる。

人間は本当に面白いよね。」


そこで少女はひと息吐き私に尋ねた。


「奥さんと娘さんに会いたい?」


一瞬少女が何を言っているのかわからなかった。

会える?

二人に?

もう一度?

何度も会いたいと思った。

神にまで祈った願いを‥‥。


「やっとおじさんの瞳に光が灯った。」 


少女が嬉しそうに私の顔を見た。


「からかわないでくれ、死んだ人間は蘇らない。」


私は否定をした。

期待をして裏切られるのが怖かった。


「蘇らせることは出来ない、でも、会わせることはできる。」


少女は真っ直ぐ私を見た。

その瞳は嘘言っているようには見えなかった。


「本当に‥本当に会わせてくれるのだろうか‥‥。」


気付けば涙が出ていた。

会える‥‥もう一度。

話したいことは山ほどある。

謝りたいことも山ほどある。


少女は左手を前に出す。

左手から青い光がキラキラと輝き、

2人の女性が現れた。

間違いない。

私の家族だ。


「精神体‥‥所謂幽霊を喚びました。

おじさんの近況はすでに話してあります。

肉体を持っていませんので僅かな時間しか姿を維持出来ませんが、別れの挨拶をするくらいの時間はありますよ。」


この子は一体何者なんだ。


だが、今はそんなことはどうでもいい。

私は二人に話したいことが山ほどあるんだ。


私ゆっくり二人に近づき深々と頭を下げる。

「二人ともすまない。

私が不甲斐ないばかりにとてつもない迷惑をかけてしまった。」


娘が笑いながら答える。

「本当だよねー。

これから花の高校生活が始まると思ったのにー。」

パァん

娘の頭に母親の張り手が炸裂した。

「いった〜い?!」


「全く‥‥この子は、すぐに調子に乗るんだから。あなた気にしないで下さい。

私達はあなたを恨んでいませんよ。

それに恨むにしても、私たちを殺した男は既に死んでしまったのでしょう?」


「そうだよね。

今更恨んでも死んじゃってるんだったらどうしようもないじゃん!」


懐かしい。

あの頃に戻れたようで私は思わず口元が緩む。


「そんなことより、パパあの子から聞いたけど、パパ自殺しようと考えていたらしいじゃん?」


「え‥ああ、もう思い残すことも無いから天国でお前達に会いたいなと思ったんだ。」


「ダメ!絶対ダメ!そんなことで死んで私たちが喜ぶと思うの!?」


「え!?でも、もう私は疲れちゃって‥‥。」


「それでもダメです!

そうね、じゃああたしは世界旅行をしたいと思っていたの!

でも、あたしはもう出来ないから、

パパがあたしの代わりに行って来てよ。

それから、寿命まで生きて死んだ後に、

あたしたちにどんな所だったのか教えてよ。」


「ふふふ、そうね。

それが良いわ。あなたよろしくね。」


「うわぁ‥‥それって拒否権は?」


「「ない(わ)!!」」


「それはどうしても?」


「どうしてもよ、今のあなたは多少強引に言わないと聞かないと思うから。」


「‥‥はいはい、わかったよ。

旅行でも何でもしてこれば良いんでしょ。」


そうやって話していると二人の体が徐々に薄くなっていく。


「そろそろ時間のようですね。あなた、私たちはもう死んでしまったけれど、あなたは生きている。

私たちはあなたが悲しむ姿より笑っている姿の方が好きよ?。」


「ああ、わかったよ」


「パパ!お土産話楽しみにしているね。」


「うん、そっちに行くのは少し遅くなるけど待ってて欲しい。」


そう言った瞬間2人は青い光の粒子になって消えていった。


「生きる目的が出来て良かったですね」


少女が私に話かける。


「君はずるい子だね。

二人にこんなお願いをされたら私が断れるわけがないじゃないか。」


「アフターケアまでが私の仕事ですよ。

それに私は彼女達に、

あなた達のお父さんが自殺しようとしてますよ。

今度三人で話が出来る場所を作るから説得したほうが良いのではないですか。

と言っただけですよ。」



「更に、本音を言うと苦労してようやく目的を達したのに、おじさんがあっさり死んだら、

私的になんともいえない気持ちになるんですよ。

おじさんは53歳、まだまだ人生を楽しめる年齢じゃない。

凄くもったいないなって思ったんだよね。」


まぁ、確かに私の年齢は53歳、年々体は衰えてはいるが、全然動かせないわけではない。

結局は私の気持ち次第か。



「おじさんはこれからどうするの?」


その質問に私は苦笑をしながら答えた。

「そうですね、エジプトのピラミッドを見に行こうと思います。」

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