脱獄囚はタクシーを見つける
初めて小説を書きました。
その日は激しい雨が降っていた。
俺は秋元康、ーー脱獄犯だ。
無期懲役を裁判所に言い渡されて既に10年が経った。
10年が、だ。
刑務所の受刑者仲間から聞いた話だと‥
通常、無期懲役をクラッた受刑者は30年間刑務所に服役してやっと仮釈放のための申請が出来る様になるらしい。さらに、もしその申請に落ちると次の申請は
10年後‥‥
ふざけんな!!
たかだか強盗殺人で、そこまでの刑期が付くなんておかしいんだよ!
あの女どもを殺したのは奴らが最初に暴れやがったのが悪い。
俺はあの時、金が無くて、飯も無くて、手元にあるのはこの前空き巣に入って手に入れた。
包丁だけだった。
そんな無い無い尽くしの俺が生きて行くには強盗しかなかったんだよ!!
その事をあの女どもに言ったら、事もあろうにこの俺に「だったら働けばいいじゃん」と言いやがった!
ムカつく女どもだった、それが出来たら苦労しないんだよ。
俺は、命令されるのが嫌いだ、自分より上の存在が嫌いだ、俺は誰よりも自由に生きていきたいだよ。
だから俺は逃げる。
刑務所を脱獄する時、偶々落ちていた緑のカッパを着て、ひたすら逃げる。
道中、ゴミ箱に俺のサイズぴったりの服があった。
いつまでも囚人服を着ている訳にもいかず着替えた。
気付いたら俺は山道を歩いていた。
外灯が一定区間並び、たまに消えそうな外灯がチカチカと光っているのが目につく。
ーーブロロロロ‥キィィ。
何かが横切り、俺の前に止まった。
前を見たらそこは、タクシーの停留所だった。
やった!
これでタクシーに乗れれば、さらに遠くに逃げられる。
運転手を殺して服装を奪い、タクシー運転手の振りをしながら、タクシーを使って逃げる。
‥これだ。
しかし、ここはダメだ。
山道と言っても畑があり、古民家らしきものもあり、どこに人の目があるかわかったもんじゃない。だから目立たない場所で、
絶対バレない場所で確実に‥‥
俺はニヤけそうになる口角を必死で堪えながら、運転席の窓を叩く。
窓がゆっくり開き、声を掛けてきたのは、人が良さそうな初老の男だった。
ーーアア、コイツもか‥。
人に騙された事がないような、
人の善意を信じ切っているような表情。
顔を見れば分かる。
俺はコイツのような人間が大嫌いだ。
虫唾が走る。こういう人間は自分が不幸になると、他者のせいして、自分は今まで善行を積んできたのに何故不幸になるんだと喚くんだ。
馬鹿な奴らだ。
不幸というものは、善行を積んでいる奴も、悪行を積んでいる奴にも等しく訪れるものだ。
突然家に強盗が押し入るかもしれない。
家族が詐欺に遭い、莫大な借金を負わされるかもしれない。
だからこそ、善行ばかり積んでも無駄なのだ。
それが分からないからこそ、
こういう奴らは俺は大嫌いだ。
しかし、それを顔に出さず、俺は頼まなければならない。
「すまない、タクシーに乗せてもらえないだろうか?」
今にして思えば、このタクシー乗ってしまったことが俺の人生最大のミスだろう。
運転手はにこやかな笑顔で言った。
「どうぞ、お客様」
この小説は4話あります。
毎2日12時に更新していきますので、
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