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-2話- 魔王軍四天王たちの子育てに必要なのはどうやら話し合い その3

 真洋たちがやり取りをしていると、公園に人の声が響き渡ってきた。

「ユウキー! ユウキー! いたいた。あら、朝太ちゃんと遊んでたのね」

 ユウキの母である。

「こんにちは」

 朝太が元気にあいさつする。

「はい、こんにちは。まあ、お兄ちゃんにも遊んでもらったのね」

「どうも」

 真洋も挨拶をする。なんとなくぎこちない。

「まあまあ、砂だらけになって。一緒になって遊んでくれたのね。いいお兄ちゃんね」

 しつけが悪いから砂まみれになってるんだと言いたいけれど、褒めてもらった手前、喧嘩腰になることもないかという、そんなこと思っているような複雑な表情を見せる真洋であった。

「さあ、ユウキ。そろそろ帰るわよ」

 ユウキを迎えに来たようである。

「やだ! もっと遊ぶ!」

 駄々をこねるユウキ。

「勇者は困った人を助けるんだよ。困らせちゃ駄目だよ」

 朝太の言葉にユウキは黙り込む。

「勇者を黙らせるとは。さすが、カリスマ性が違うな」

 真洋は感動のあまりか涙を流していた。その涙で目の中の砂も完全に除かれたようである。

「何を泣いているのですか?」

 いつの間にか買い物を終えた辰人が公園に来ていた。

「パパ」

「公園でお兄ちゃんとお友達と遊んで楽しかったですか?」

「うん」

「朝太が楽しかったのなら俺は満足だ」

「それでは、帰りましょうか。今日はオムライスですよ」

「あら、お父さんがお料理してくれるのね。いいお父さんね」

 大げさに驚くようなリアクションを取るユウキの母。うちの旦那は家事を手伝おうだなんてことはないのよ、などと続けたそうである。


「さて……」

 ユウキとその母と別れた後、辰人が真洋に小声で話しかける。

「真洋。あなた、何か魔法を使いましたね。周辺からかすかに魔力を感じますよ」

「ちょっと砂を水で固めたり勇者を麻痺させようとしたりとな。痺れさせる術は妨害されたけどさ。それに麻痺って言っても正座しすぎて足がしびれる程度の奴だからな」

「威力の問題じゃないですよ。人間として生活する以上、魔法はなしです」

「分かったよ」

 一応納得した真洋。そこに一匹の蜂が飛んできた。蜂は朝太に近づく。

「おや、危ない」

 辰人がそう言って指先に小さな火の球を作り出すと、蜂は飛び去っていった。あきらかに火属性の魔法である。

「おい。言ったそばから自分で使ってるんじゃねーよ」

「さあ、自然発火じゃないですか?」

 とぼける辰人。

「そんなわけないだろ」


「ねえねえ、なんの話?」

 朝太が真洋と辰人の話に割り込んでくる。

「いえ、羽春さん……ママはパパのオムライスを食べてくれるかなって話です」

 辰人が適当にごまかす。

「きっと大丈夫だよ」

「そもそも料理なんてしたことあるのかよ。不安なら俺が毒見してやるぜ」

 真洋は毒に強い耐性を持ち毒物の鑑定もできる。こんな能力が役に立つような生活をおくりたくないものである。

「これでも料理の心得はあります。火加減が絶妙だと評判なんですよ」

「いや、料理に重要なのは出汁だろ」

「オムライスに出汁なんて使いましたっけ?」

「そういえば、オムライスって周りが卵で中身がチキンライスなんだよな」

「ああ、羽春さんはオムライスって平気なんですかね」

 ハーピーである羽春が鶏肉を食べるのかを気にしているようだ。

「ママの嫌いな食べ物なの?」

「いやまあ、平気だろ。大きな魚も小魚を食べるわけから鶏肉も平気だと思うし。プリンを食べてたくらいだから卵も問題ないわけだし、おそらく問題ないな」

 真洋が答える。

「うん。僕もパパのお料理ならママも食べると思うよ」

「ええ、これで少しでも疲れを取ってくれればいいのですが」

「疲れるのは朝太の世話じゃなくて勇者の相手だったな」


「オムライスくらい食べるわよ。それと、あたしは料理に重要なのは香りだと思うわよ。風味が違うわ」

 家に帰ってくると、羽春はそんなことを口にした。

「聞いていたのか?」

「風属性の魔法でね、離れた場所の音をとらえるものがあるのよ。心配だったから聞いていたの」

「公園であった事も聞いたのか?」

「ええ。それにしても、ちょっと家事や子育てを手伝うと、いいお兄ちゃんとかいいお父さんとか言われるのよね。私が家事や子育てしたところで誰からもいいお母さんなんて言われないのにね」

 羽春の機嫌は良くなかった。

「おいおい、ついに普通の子育てママみたいな愚痴をこぼし始めたぞ」

「なんだか前よりも機嫌が悪くなったような気がしますね」

 ため息をつく真洋と辰人。朝太と遊んだり家事をしたりするより疲れたようである。

「ねえママ」

「どうしたの朝太ちゃん」

「僕はね、ママはいいお母さんだと思うよ」

 朝太は真剣な顔でそう訴えた。

「あらまあ、うれしいわ」

 その言葉で一気に機嫌がよくなる羽春。

「さすが魔王様だ。これでこの問題も解決だな」

「そうかもしれませんが、今度のために一つ試したいことがあります」


 朝太とユウキが遊ぶ横で、羽春とユウキの母が話に花を咲かせている。

「子供って、親がいいと思う服を着せようとしても気に入らないものよね」

「そりゃ、子供にとっては動きやすいほうがいいものだわよ」

「いつしかこっちも選び基準が丈夫さとか洗濯のしやすさになるものよね」

「分かるわ。あ、ユウキ。危ないことしちゃ駄目よ」

 話しながらも子供のことはしっかり見ているユウキの母。

 同じように朝太を見守りながらユウキの母とおしゃべりをたのしむ羽春。

 ユウキの母を君守家に招いていた。


 その様子を少し離れて辰人と真洋が見ていた。

「どうやら羽春さんに必要だったのは家事を手伝うことより愚痴を言い合える相手だったようですね」

「しかし、これはこれで問題だと思うぜ。なにしろ魔王と勇者が家族ぐるみで付き合っているわけだからな。いいのかね、こんなの」

 真洋呆れるように見つめに先にあるのは、楽しそうに遊ぶ子供たちとそれを仲良く見守る母たち。そんな光景にしか見えないのだった。



 第2話 終

インターバルを挟んで3話に続きます

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