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-2話- 魔王軍四天王たちの子育てに必要なのはどうやら話し合い その1

 魔王デアザードの忠実な部下たちである魔王軍四天王。その四天王たちが一堂に会していた。


「まさか魔王軍でこんな仕事をするとは思っていなかったわ」

 そう言ったのは魔王軍四天王の紅一点であるハハルアピである。ハハルアピはハーピーと呼ばれる半鳥半人のモンスターである。主に山を縄張りとするモンスターの指揮を執っていた。


「確かに正体を隠して人間として生活するなんて思っていなかったぜ」

 こちらは魔王軍四天王の少年幹部のマカマフィン。マカマフィンはマーマンと呼ばれる半魚人というか人魚のようなモンスターである。魔王軍では水に住むモンスターの頂点にいて、水を操るのはもちろんのこと毒や眠りなど相手を状態異常にする攻撃を得意としている。


「我々の任務には情報収集や工作活動もあり得ますよ。もっとも、今一番の任務は魔王様のお世話ですが」

 このセリフの主は魔王軍四天王のドラゴンであるタリュートゥ。タリュートゥはドラゴンとしての強靭な肉体とドラゴンとしては異例の高い魔力を合わせ持つ万能のモンスターである。彼は主に平地に住むモンスターを従えている。


「あたしたちだけでやり遂げないとね。シュウクレムはあんな感じだし」

 このシュウクレムは残る魔王軍四天王のゴーレムである。非生物系の魔物たちをまとめる存在であるが現在は活動を停止させている。核である魔力の宿った宝石である魔法石のみが飾りとして部屋に融け込んでいた。

シュウクレムは魔王の魔力によって動いているゴーレムであり、物に命が宿ったモンスターやゴースト、ゾンビなどの非生物モンスターの指揮官である。ただし現在は魔王から供給する魔王の力がなくなって動くことができないのである。


「ああ、俺たちだけでやり遂げないとな」

「部下たちにも頼れませんからね。この子を育てるのは」

 そう言うと一同はスースー寝息を立てる子供、朝太の寝顔を覗きこむ。

 四天王たちはこの朝太を魔王とするべく人間の世界で暮らすようになった。ここは彼を家族として育てる魔王四天王の暮らす家の一室で、朝太を寝かしつけた四天王たちが一息ついていた。


「俺たちも人間としての生活にもだいぶ慣れたと思うけどよ」

 マカマフィンは仮の姿として朝太の兄の真洋として生活していた。

「まだまだ覚えることは多いですよ」

 タリュートゥは朝太の父親の辰人役を務めている。

「やっぱり楽じゃないわよね」

 ハハルアピは羽春という名前で朝太の母親として彼を育てる役目を負っている。

「いい機会だから俺も言いたいことを言わせてもらっていいか?」

「もちろんです。どんなことですか」

「こっちの世界で生活するようになっていろいろ分かったことがある。はじめは分からなかったけど気になることが出てきた」

「そんなことも出て来るでしょうね」

「まず、人間界での生活をするにあたって、どうして日本を選んだんだ?」

「この国は不満でしたか?」

「不満があるわけじゃないけど、人間の世界にはいろいろな国があって、その数だけ候補があったわけだろ。その中でこの国を選んだ理由が知りたい」

「いくつか理由があります。転居が一般的に行われているのでいきなり知らない顔が生活を始めても不自然だとは思われません。子供を育てるにあたり危険でも過干渉でもない。魔王様を守りながらお育てし、正体を悟られないのに都合がいいと判断しました。そして何より、以前の魔王様はこの国の文化に興味を持っていましたからね」

「そういえばそうだったわね」

 羽春も思い出したのか、納得してる。

「もっとも、文化と言ってもサブカルチャーと呼ぶべき分野なのですが」

「サブカルチャーね。俺もちょっと影響を受けたぜ。そのおかげで自分の魔王軍四天王ってベタな立場がちょっと恥ずかしく感じないでもない」

「やーね、変な影響をうけて。それじゃあたしが魔王軍に代わる新しい呼び名をつけであげるわ」

「どんなのだよ」

「そーね。魔王は朝太なわけだから、魔王きゅん四天王なんてのはどうかしら」

「……もっと恥ずかしいじゃないかよ」

 羽春も日本の文化に妙な影響を受けてしまっているようであった。


「とにかく我々もだいぶこの国の文化や生活になじんできたということですね」

「ああ、言語に関しては覚えるようにはしているけど翻訳魔法でどうにかなるしな」

「魔王様は翻訳魔法に頼るわけにはいきませんから日本語を覚えています。我々もきちんと覚えていきましょう」

「そう言われて一応覚えてはいるけど、本当に必要なのか?」

 真洋が疑問を口にする。

「もちろんです。たとえば誰かがこんなことを言ったとします。布団が吹っ飛んだ」

「お前は急に何を言っているんだ?」

「このように日本語として理解していれば爆笑するとことが翻訳魔法ではそのニュアンスが伝わらないこともあるのです」

「……言いたいことは分かったけど、リアクションは間違ってなかったと思うぜ」

 爆笑する方が不自然なことでも相手によっては愛想笑いの一つも必要なのだが、そこまでの使い分けを求めるのは酷というものであろう。


「ここで暮らす上であたしたちにつけた日本人風の名前にも慣れてきたわよね」

「その俺たちの名前だけどさ。この名前はこっちで生活する上でタリュートゥが用意したものだったよな。名字である君守ってのは魔王様をお守りするという意味合いでつけたんだと思う。魔王様まで君守姓になったのはこの際仕方ないとは思う」

「ええ。それが不満なのですか?」

「名字はいい。名前の方も元の名前からこの世界に合わせて似たようなのをつけたと思うぜ。俺たちの名前はな」

「なんだかもったいぶった言い方ね」

「問題は魔王様の朝太と言う名前だ」

「気に入りませんでいたか? 字画も悪くなかったのですが」

「魔王の名前をつけるのに姓名判断を気にしてんじゃねーよ」

「やーね。親としては気にするところじゃないの」

「そもそも、朝太って名前は魔王様のデアザードって名前からつけているんだろうけど、それだけじゃないだろう」

「ええ。この国で魔王として代表的なのは『サタン』です。魔王様が子供になってしまったので、亜空間や亜熱帯のように準じると言う意味の『亜』を『サタン』につけて『亜サタン』から朝太と名付けました」

「うん。それが問題なんだよ。要するに『亜魔王』ってことだろ。『あまおう』ってイチゴの品種じゃねーかよ!」

「いいじゃないの、イチゴなんてかわいらしくて」

「細かいことを気にしますね」

「きちんと日本語を覚えた成果だな」

 真洋は苦笑いを浮かべている。


「他に何か問題はありませんか」

「そーね、朝太が勇者の子と遊ぶようになってから世話をするのに疲れるようになったわ」

「おや、それはいけませんね」

 辰人が心配そうに声をかける。

「おいおい職務怠慢じゃないのか。魔王様をお育てするのは母親役のハハルアピの任務だろう。それに魔王様は手のかからない部類の子供だろ」

「魔王様は我々全員でお育てするのですよ。羽春さんは母親という役割のためにその負担が大きくなっているだけです。この国では母親が子供を育てるのが一般的なので、それにならって彼女に子育て役を担ってもらっているだけです」

 茶化すような口調の真洋をいさめる辰人。

「それは分かっているけどさ」

「慣れない世界で慣れない生活をしているのです。その上で慣れない仕事までしているのですから疲れるのも無理はありませんよ」

「そんなの俺だって一緒だよ」

「ええ、あなたは頑張っていると思いますよ」

 褒められたことで毒気を抜かれて黙る真洋。

「私の方でもっと早くそのことに気付ければよかったのでしょうが、言ってくれてよかったです。これからはもっと積極的に家のこともやりましょう」

「ええ、ありがとう」

「明日は日曜日ですから朝太の世話や家事を私がやっても不自然ではありませんね。ハハルアピ……羽春さんは一日お休みしていてください。真洋もゆっくり休んでいていいですよ」

「全員でお育てするんだろ。手伝うよ」

「それでは明日は羽春さんの代わりに私と真洋で朝太を見ましょう」

 そんなこんなで一日、辰人と真洋で朝太の面倒を見ることになった。


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