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-1話- 若返りの過ぎた魔王様が友達として連れてきたのはどうやら勇者 その3

「それで、私たちを集めて幹部会議というわけですか」

 ドラゴンのタリュートゥが口を開く。もちろんこの世界では人間の成人男性の姿へと変えており、朝太の父、君守辰人きみもりたつとと名乗っている。

「そうなんだ。魔王様が勇者に見つかってしまったわけだからな」

「幹部会議なんて大げさなのよ。当の魔王様は友達ができたって喜んでいたんだから」

 羽春が気にする様子もなく、ただほほ笑むだけである。

 幹部会議とは、要するに四天王のうちの一人が敵勢力に敗れ、『あいつは四天王でも最弱』などと言うあれである。もっとも、集まっているのは君守家の茶の間なのだが。

 残る四天王でゴーレムのシュウクレムは体を維持するのが困難なため核となる石だけを持ちこんでいた。その魔力の宝石は君守家の居間にインテリアとして飾られていた。そのため三名での幹部会議となっている。

 ちなみに朝太はユウキと遊び疲れたのか、お昼寝中である。


「こんなところに勇者がいたなんて思わなかったぜ」

「私には勇者ごっこをしている近所のお子様としか思えないわよ」

「俺だってその可能性は否定しないけどさ。いかにも勇者っぽいんだよ」

「やーね。プリンを食べられたことを言っているの? あれは朝太が自分の分をあげたものでしょう」

「プリンの恨みで言っているわけじゃねえよ」

「なんにしてもですね、情報を共有しておくのは重要なことですよ」

 辰人が羽春をたしなめる。丁寧口調のキャラは普段は落ちついているが怒らせると怖いと言うのが定番である。辰人も眼鏡をかけた柔和な顔をして、そんな雰囲気を漂わせてはいる。ただ、雰囲気だけの可能性もある。

「それで、そのユウキって子供が勇者だったとして、どうしようって言うの」

「だからそれを話し合おうっていうんだろ」

「私はどうもしなくていいと思いますよ。朝太が魔王であると気付かれたわけじゃないのでしょう。そもそも朝太には魔王様のときの力も記憶もないようですから、友達づきあいをしているうちに気付かれる可能性は低いでしょう」

「でも、いつ魔王様の力が復活するか分からないじゃないの」

「そのときはそのときです。今は事を荒立てる方が危険を伴いと思います。念のために確認しておきますが、朝太が記憶を取り戻すようなことがない限り正体を明かすことはしないと言うのが当面の方針ですからね。現状でそんなことを言っても混乱させるだけでしょうから」

「記憶がないおかげで私たちを家族として受け入れることはうまくいったわけだけどね」

「だけどよ、何もしないうちに勇者が力をつけてきて手遅れになってから慌てるっていうのもまぬけな話じゃないか」

 武人タイプの敵幹部に『もっと強くなれ』などと言われて見逃され、その後言葉の通りパワーアップを遂げて幹部や敵組織を倒すまでになるのはお約束と言えよう。

「やーね。せっかくできた魔王様のお友達なのよ。友達に何かあったら朝太が悲しむでしょう」

「ええ、私はたとえ勇者といえども魔王様のお友達であるなら丁重に扱うべきだと思います」

「そうだよな。俺たちが魔王様の意思を無視して動くわけにはいかないよな」

 会議の結果、現状維持ということになったようである。


「それよりも、勇者にプリンを食べられたのですよね」

「ああ、そうなんだよ。二個あったプリンを魔王様と勇者の二人で仲良く食べたんだ」

「あんた、もともと自分の分を勇者の子にあげようとしていたんでしょ。いいところあるじゃない」

「褒められたところでうれしかないよ」

「プリンくらいまた買っておくわよ。結構おしかったわよ」

「おい、お前は食べたのかよ」

 よくある三つ入りのプリンだったのである。

「父さんの分は初めからないようですね。とにかくですね、よその子供に食べ物を避けた方がいいかもしれません」

「どうしてだ?」

「自分の預かり知らないところで子供がなにか食べるのを嫌がる親もいるそうです。おやつを食べ過ぎてご飯が食べられなくなることを嫌ったり、衛生的な面で気にしたりということのようです」

「やーね。なんだか世知辛いわ」

「それだけではなく、食物アレルギーということもあります。こっちは命にかかわることですからよく知らない子供に飲食させるのは気をつけたほうがいいでしょう。子供に食べ物を与えたことで親からクレームをつけられることがあるそうですよ」

「そんな普通の注意を受けるとは思わなかったぜ」

「物をもらっても文句を言う人はいるようです。子供がこんなことをしないようにちゃんと管理しろと。なんでもそんな親をモンスターペアレントというらしいですよ」

「なんでモンスターなのかしらね」

「まあ、人間の言葉ですからね。モンスターの存在と同じように理不尽なものということなのでしょう」

「どこにそんな過保護なモンスターがいるんだよって話だけどな」

 モンスターとしてはそんな文句も言いたくなるのだろう。

「勇者の親がモンスターペアレントというのもおかしな話ですけどね」

「こうしている間にも勇者の親が怒鳴りこんできたりしてね」

 羽春がそう言うと同時にピンポーンというチャイム音が響いた。


「ごめんくださーい」

 続いてそんな声が聞こえてきた。

「やーね。本当に来たのかしら」

 玄関に向かう四天王たち。ドアを開けると、そこにはいたって普通の近所の奥さんという女性がいた。その足元にはユウキの姿もあった。

「この子の母でございます。家のユウキがお世話になったそうで。聞けばおやつまでごちそうになったそうじゃないですか。それで、これ、貰いもので悪いですけどお近づきの印にどうぞ。お口に合えばいいんですけど」

 そう言ってユウキの母は菓子折りを差し出し来る。

「ありがとうございます。かえって気を使わせてしまったようですね。朝太、家の子も友達ができたと喜んでいましたよ」

 辰人が笑顔で返す。

「いえいえ、この子は何かご迷惑をおかけしていなければいいのですが」

 ほうぼうで迷惑をかけているんだろうな。そんなことを思わせるセリフを言ったあと、ユウキの母は大げさに挨拶をしてそそくさと帰っていった。

「思ったよりも普通の親だったな」

「むしろ勇者の傍若無人振りに手を焼いている感じでしたね」

「そうね。あ、カステラだわ。真洋、おやつに食べる?」

「うん」

「魔王様……朝太ちゃんの分も残しておかなきゃだめよ」

「分かっているよ」

「なんにしても、勇者の親がモンスターペアレントじゃなくてよかったですよ」

「でもさ、あたしたちって魔王に対してどうしても過保護になっちゃうわよね」

「さしずめリアルモンスターペアレントと言ったところだな」

 勇者という不確定要素を抱えながら、リアルモンスターファミリーは結構いい家族をやっていけそうだった。



  第1話 終

2話へ続きます

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