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-1話- 若返りの過ぎた魔王様が友達として連れてきたのはどうやら勇者 その2

 日本の地方都市にある一軒家。表札には君守という文字が書かれている。

「それじゃ、ママはお買いものに行くからお兄ちゃんと一緒にお留守番していてね。冷蔵庫にプリンがあるからお兄ちゃんと二人で食べるのよ」

「はーい」

 兄弟に留守番を頼む母親。一見すればどこにでも見られそうな仲のいい親子のひとこまである。

君守朝太きみもりあさたは小魔王と呼ばれた子供であり彼の家族は魔王軍四天王である。彼と魔王軍四天王とともにその正体を知られることなく、家族としてこの家で暮らしていた。

「朝太は順調に育っているわ。魔王にしてはちょっといい子すぎるけど」

 家を出ると女はそんなことをつぶやく。彼女は母親の役目を担っている魔王四天王の一角を担うハハルアピ。今は君守羽春きみもりははるという名前で人間として暮らしている。

 留守番を任された兄の方の正体は四天王のマカマフィン。今は十代前半の少年のような姿をして君守真洋きみもりまひろという名前で朝太の兄を演じていた。

「さて、お留守番の間、何をしていようか」

 真洋が朝太に尋ねる。

「お庭で遊ぶ」

 君守家には小さいながらも庭があった。

「分かった。お兄ちゃんがシャボン玉の液を作るから待っていろよ。庭から道路に出ちゃ駄目だぞ」

「うん!」

 真洋がキッチンでシャボン玉液を作る。もともと真洋ことマカマフィンは水の使い手なのでその程度のものは魔法で簡単に作り出せる。正体を隠して生活しているが、誰も見ていなければ魔法も使うのである。


「お兄ちゃんお兄ちゃん」

 真洋が庭に戻ると朝太が声をかけてきた。

「どうした?」

「友達ができたー」

 庭には朝太と一緒にもう一人子どもがいた。

「おおう、そうなのか」

 いきなりのことに少々戸惑う真洋。

 君守家の庭に隣接した道路を通りかかり、同年代の子供を見てどちらかが声をかけてすぐさま友達になったといったところだろうか。

「こんにちは。お名前はなんていうのかな?」

 ぎこちないない笑顔というか軽く顔をひきつらせながら真洋が朝太の友達に話しかける。人間と話をするのはまだ慣れていないようだ。

「ユウキ。勇者のユウキだ」

 朝太を人間の世界で育てるのは勇者から身を隠すためだったのだが、朝太と友達になったのはそんな子供だった。


「ええと、君は勇者なのかな?」

 さらに顔をひきつらせながら真洋がユウキに尋ねる。

「ああ、いつか旅立って魔王を倒す存在なのだ」

「魔王を……」

 真洋は朝太の顔をちらっと見る。朝太は無邪気な笑顔を見せている。

「待っているがいいまだ見ぬ魔王よ」

「まだ見ぬ魔王ね……」

 ユウキの言葉に真洋は動きまでぎこちなくなる。少々挙動不審ぎみである。

「ああ、魔王は遠いがいつかたどり着いてやる」

「遠い目標を見据えているけど近くは見えないものだな」

 真洋が小声でつぶやく。

「朝太、俺が魔王を倒すたびに出るときはお前も一緒に連れて行ってやるぞ」

「うん! 僕がお父さんとお母さんとお兄ちゃんを守る!」

 幼い勇者には友達がいなかったのか、やけにうれしそうである。

 魔王としても友達ができてうれしいのは同じ気持ちだった。

「頼もしいんだけど、守るのはこっちの仕事なんだよな」

 真洋はそんな二人を見守るのだけである。


 朝太とユウキはシャボン玉を作って遊んでいる。

 真洋は仲良く遊ぶ二人を複雑な表情で見つめる。

「本当に将来二人で旅に出るとか言い出さないだろうな」

 勇者が魔王を倒すべく世界中を探しまわった挙句、結局パーティーメンバーに魔王がいた。これだけ聞くとギャグでしかないが、本当にそういう展開になってしまったら悲壮な戦いになることだろう。

「魔王を見つけるぞー」

「おー」

 楽しげに遊ぶ二人からはそんな未来を想像するのは難しかったし、実際そんなシリアスな展開にはなりようもないと思えた。

「ねえねえ、魔王ってどんな感じなのかな」

「魔王なんだからきっと恐ろしい姿をしているに違いない。きっと角とか羽根とか生えているぞ」

「ううー、こわいー」

 朝太は自分で想像した魔王の姿におびえているようである。

「案外かわいらしい見た目をしているかもしれないぞー」

 真洋が二人に聞こえないようつぶやく。鏡でも見せたい気持ちだろう。

「一緒に魔王を倒す冒険に出るぞ」

 などと二人は盛り上がっていた。


「とりあえず今は静観しておいてやる。朝太の友達なわけだし、おやつくらい出してやるか。プリンがあったはずだよな」

 真洋が家の中に引っ込みシャボン液を片づけたあと冷蔵庫の中を探る。

「おかしいな」

 冷蔵庫にプリンはなかった。

「どうかしたのか?」

 ユウキが尋ねてくる。

「いや、プリンが一個しかない……って、なんで家の中にいるんだよ。やっぱり勇者って勝手に他人の家に入るものなのか?」

真洋が冷蔵庫の中からユウキの方へ目を向けるとプリンを食べていた。

「ちょっ……!」

 ご丁寧にカップに入ったプリンを皿の上に出していた。

「宝箱を開けたら入っていたぞ」

 ユウキは誇らしげに言う。

「勇者って、やっぱりそういうものなのか? タンスの中だろうが冷蔵庫の中だろうが見つけたものは自分のものなのか?」

 他人の家のタンスや冷蔵庫の中のものは自分のもの。そんな考えの人間がいたら警察に相談すべきであろう。

「お兄ちゃん、ユウキちゃんが食べているのは僕の分のプリンだよ。冷蔵庫のプリンはお兄ちゃんのだから大丈夫だよ」

 朝太がそんなことを言い出す。

「お兄ちゃんは朝太がいい子すぎて将来が心配だ。魔王としての将来が」

「魔王?」

「いや、なんでもない。このプリンは朝太が食べるといい。友達と二人で食べたほうがおいしいだろう」

 魔王の機嫌を取っているつもりなのかもしれないが、真洋も十分いい子に見える。こいつはなんで魔王軍の四天王なんてやっているのだろうかと思われるレベルだ。

「いいの?」

「ああ。それに引き換え勇者ときたら。もしかして勇者ってそういうふうに育てられているものなのか? 他人の家で壺やタンスを漁って中に入っていたものを手に入れるものなんだとでも、親に言われているんじゃないだろうな」

 そんな風に育てられている子供がいたら児童相談所に通報すべきであろう。

 

 朝太とユウキは仲良くプリンを食べ、それからユウキはさんざん遊んだあと帰って行った。


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