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勇者を討伐した魔王様は魔力を封じられた為に解雇される。  作者: 吉樹
第5章 『魔族国編②』
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第14話 「魔王様、真相を知る」

前話のあらすじ:裏切られました。

 一本道の通路を進むと、やがて行き止まりへと行きついた。

 しかしただの行き止まりというわけではなく。

 壁の一部に、取っ手らしきものが取り付けられていた。



「取っ手……か」



 見るからに怪しさ満点だった。

 かといって、その取っ手を使うしか方策が見つからない以上、どうしようもないだろう。



「……ここで悩んでいても仕方ないか」



 最大限の警戒をしながら、私はその取っ手に手を伸ばした。

 がこんっと取っ手が動くと、行き止まりだった壁がスライドしていき──

 

 かつては当たり前の光景だった王の間が、私の視界に飛び込んでくる。


 郷愁の念に似た感傷と共に、私は驚きの感情も抱いた。

 なぜならば、すでに”決着”が付いていたからである。



「マイアス……お前ひとりで勝ったのか」



 部屋の中央にて。

 血の海に沈むは現魔王ブレア。

 その傍らにて炎の魔剣を引っさげているマイアス。

 そんな彼らの周囲には、傷つき事切れている両陣営の兵士たち。


 王の間の大扉が固く閉じられていることから、この場に両陣営の新手が入ってくる様子もなかった。



「……義姉さん。そうか、隠し通路を使ったんですね」



 マイアスが敬語を使ってくるのは、私を義姉として敬ってくれているからだ。

 どんな状況でも礼儀礼節を重んじている義弟のもとへと、私は安堵の息を吐いてから歩いてく。



「さすがだな。ブレアの最期を見られなかったのは残念だが……」



 あれだけ私を貶めてくれた男が、こうもあっけなく屍を晒していることに、私はなんとも複雑な心境にさせられた。

 てっきりマイアスと協力して、こいつと死闘を演じるものと思っていたからだ。


 まあ……想定外だったが、嬉しい誤算と言えなくもないだろう。


 これで名実ともに、マイアスが次期魔王となることに誰も異を唱えることはないのだから。



「マイアス、お前が無事でよかったよ。お前の近衛隊長が裏切っていたから心配していたが……どうやら、杞憂だったようだな」

「裏切っていた……?」



 怪訝そうに眉根を寄せる義弟に、私は経緯を簡潔に説明。

 聞き終えたマイアスは、眉間に皺を寄せて大きな溜め息をひとつ。



「……そうですか。まさか彼が……」



 口元を押さえて、わずかに考え込んでから。



「そうなるとむしろ、義姉さんの方がご無事でよかったです」

「そう言ってくれるか。すまないな、何も力になれなくて」



 腹心に裏切られてショックだろうに、それでも私の身を案じてくれる義弟に逆に申し訳なくなってくる。

 首を横に振ったマイアスは、どこまでも紳士な態度で私を改めて見てきた。



「いえ……それで義姉さん、怪我はしていませんか?」

「怪我、か……まあ、腕を切られてしまったが、治療魔法で癒したから別に問題はない」

「腕を……」

「ああ。だがまあ、かすり傷だ。こうしてすでに治療し終えているしな」



 先程斬られた腕に軽く触れてから、私は玉座へとマイアスを促す。



「さあ、マイアス。あの席に座るのはお前だ。ブレアを倒した以上、誰も異論はないだろう」



 しかしマイアスは、ゆっくりとかぶりを振ってきた。



「……いいえ。僕じゃない。義姉さんにこそ座ってほしい」

「マイアス……気持ちは嬉しいが、私はもう魔王になる気はないんだ。それに私としては、お前だからこそ、安心して魔族国を託せられるということもある」

「義姉さん。貴女があの席に座ってくれないと……()()()()

「気持ちは嬉しいがな……くっ──なん、だ……?」



 唐突な眩暈に襲われてしまい、私はふらつく。

 そんな私を前に、マイアスは割と冷静な様子で私に駆け寄ると、私を支えてくれて転倒から守ってくれたのだが……



「義姉さんの腕を切った刃には、神経毒が塗ってあるんです。()()()()()()()()()()()()みたいですね」

「なん、だと……」



 なぜお前がそんなことを知っている……?

 ──いや、何を言っている……?

 そんな疑問が脳裏を過る。



「弱体化したとはいえ、さすがに義姉さん相手に無策で挑むほど、無謀じゃない」

「なに、を──」



 私が最後まで言葉を言う前に、義弟が行動に移っていた。



「ようやく、この瞬間がきた──」



 様々な想いが込められた彼の声と共に、私の身体に衝撃が駆け巡る。



「っ!? ──が、は……」

 


 意味がわからなかった。

 マイアスが私を片手で抱き寄せながら、炎の魔剣で私の腹部を──

 貫いていたからだ。


 刃で貫かれた痛みと、体内が炎で焼かれる痛み。


 脳天を直撃する激痛と共に血塊がこみ上げた私は、我慢できるはずもなく吐血。

 そして血に濡れる唇をそのままに、マイアスを愕然とした面持ちで見上げた。



「な……なぜ、だ……」



 私の吐血で袖が汚れるが構う様子のないマイアスは、炎の魔剣を無言で引き抜いてから、私を優しく抱き上げて玉座へと。


 成す術なく玉座に座らされた私は、神経毒と激痛のせいで身動きひとつできず。

 懐かしい玉座の感触を愉しむ余裕など、今の私にはあるはずもなかった。


 苦悶する私を前に、義弟は熱に浮かされたような眼差しで私を見つめてきた。



「義姉さん。やはり貴女には、その席こそが相応しい。そして、そこに座ってくれないと──」



 炎をまとう魔剣の切っ先が、まるでいまの彼の心境を代弁するかのように、激しく燃え盛る。




「僕の()()が完結しないんだ」




 冷たい視線で私を見据えてくるが……



「な、に……」



 もはや私は、訳がわからなかった。




 ※ ※ ※




 マイアスの私に対する”復讐”……

 まるで、検討がつかなかった。



「検討がつかない、って顔をしていますね」



 この状況下にあってもどこまでも冷静なマイアスの態度が、逆に不気味だった。



「マイ、アス……お前、は……」

「義姉さん。いま初めて告白しますけど、僕のこの魔剣は……父の形見なんです」



 炎の切っ先が鼻先に突きつけられ、熱気にあてられた私は顔をしかめる。



「形見……」

「ええ。父はとても勇敢でいて、夢の為にどこまでも懸命に頑張る人でした。そんな父は僕の誇りであり、目指すべき目標でした。でも父は……”あの日”、死にました。義姉さん……父を殺したのは、ほかならぬ貴女なんですよ」

「な、に……」



 驚くものの、私にはまったく記憶になかった。

 私がマイアスの父親を殺した……仮にそれが事実として、いったいどういった状況なのか。激痛と出血のせいで意識が朦朧としてきているのも手伝って、私は記憶整理がままならない。


 そんな戸惑いを見せる私に対して、マイアスは静かな口調で告げてきた。



「やっぱり覚えていませんか……まあ、無理もないのかもしれないですね。なにせ、貴女が魔王に就く前の出来事ですからね」

「それ、は……」



 私が魔王に就く前となると……次期魔王の座を巡って、何十人もの相手と戦った日々のことを指しているのだろう。

 そこで私は合点がいった。

 恐らくは私が打ち倒した連中の中に、彼の父親が居たということなのだろう。


 ……しかし。


 それでも私は、まったく思い出せなかった。


 あの時の私は、別に魔王になどなりたいとは思っていなかったのだが、勝手に私を脅威と感じた連中が次々と襲い掛かってきており、いちいちひとりひとりを覚えていることなど、困難というものだろう。


 この際ぶっちゃけるが……私は()()()()()()()()()()()ので、そのことも輪を駆けていたというわけである。



「まあ、貴女が覚えていようがいまいが、僕が復讐することに変わりありません」



 私の失念を責めることもなく、マイアスは淡々とした口調で語ってくる。



「玉座に座るかつての貴女には、まるで隙がなかった。それもそのはず。最強だったのですから。だから僕は……貴女に近づく為に、貴女の妹に近づいたんです」



 衝撃の告白だった。

 そうなると妹は──ラーミアは、私への復讐の足掛かりとする為だけに、利用されたということに…… 



「マイ、アス……っ」



 動けない私は、代わりに憤怒の視線をマイアスへと突き差した。

 しかし彼は何ら動じた様子もなく、静かに私を見つめてくる。



「……貴女の怒りは当然です。僕も自覚していますよ、最低なことだと。それでも僕は……復讐を諦めることはできなかった。玉座に座るかつての貴女は、本当に憎々しかった。そこは、父が座るはずだった席だというのに。魔王になる為に血反吐を吐いて努力した父じゃなく、()()()()()()魔王になっていたという貴女……こんな理不尽なことが、許されていいはずがないじゃないですか」



 あくまでも冷静だったが、マイアスの瞳の奥には憎悪の炎が灯っていた。


 そういえば、マイアスは父子家庭だったと妹から聞かされたことがあった。

 流行り病で亡くなったと、彼から聞かされたと言っていたが……



(死別の原因は、私だったのか……)



 負の感情を叩きつけられる私は、心の奥がズキリと痛む。

 その痛みが肉体的な痛みを遥かに凌駕していたのは、言うまでもないだろう。



(私は……お前を何も知らなかったんだな……)



 妹の夫として認めた男。

 次期魔王に相応しいと思っていた男。

 私が信頼していた男……


 かつて、ラーミアとの仲を認める際のあの戦いの中で、マイアスから何度か本気の殺気を感じたことを思い出す。

 あの時は、私に認められることに必死になりすぎた故のことだろう、と思っていたのだが……

 あわよくば、あの時に偶然を装って私の命を狙っていたのだろう。



(マイアス……お前は……)



 義弟()()()彼は、小さく嘆息ひとつ。



「……ですけど。貴女に近づけば近づく程に、貴女がどれだけ遠い存在なのかを痛感させられ……圧倒的な力の差を前に、僕は半ば諦めてしまったんです」



 私が弱体化してしまったことで、マイアスの萎えていた復讐心が再燃してしまった、ということなのだろう。



「ですけど。あいつ(ブレア)のくだらない野心のおかげで、僕はこうしてやっと本懐を遂げることができる」



 血に濡れる私の顎を左手で掴み上げ、憎悪と歓喜に揺れる瞳を近づけてきた。



「僕の復讐は、玉座に居る貴女に、この剣(父の形見)を突き差すことで完結する」

「お前、は……」

「弱体化した貴女を殺す機会はいくらでもありました。今では、僕の方が貴女よりも強いですからね。ですけど、ただ殺すだけでは意味がないんです。父の無念を晴らす為にも、貴女はこの玉座にて、父の剣で貫かれないといけないんですよ」

「…………」



 ショックだった。

 それはもう、言葉に言い尽くせないほどに。

 いまの私の心境は、もはや察してくれとしか言えないだろう。


 それと共に思い出されるは、ダミアンが冗談交じりで言った言葉。



 ──なんか、クレアナード様がこのクーデターの中心になってますよね──



 まさに、その通りだったというわけである。

 マイアスは──復讐の鬼と化している男は。

 この状況を作る為だけに、クーデターを起こしたようなものなのだから。



(ここまでのことをしてでも、私が憎かったのか……)



 私は脱力する。

 この男は、全てを捨ててでも私への復讐を優先させたのだ。

 そして現状、私はひとり。

 もしかすると、精霊避けの結界を張ったのも、彼の仕業なのかもしれない。



「……すべてを、ブレアのせいに……するつもり、か」



 ここで私が殺されたとしても、この場にいるのは私とマイアスのふたりだけの以上、生存者(マイアス)の言葉が真実となってしまうことだろう。


 しかしながら、マイアスは私の予想とは違う反応を見せてきた。



「僕は、そこまで恥知らずじゃないですよ」



 マイアスは微笑する。



「すでに彼女(ラーミア)を裏切っている以上、もう彼女を裏切りたくないんです。だから……貴女を殺した後、僕は彼女の前から消えるつもりです」

「お前、は……」

「彼女と──ラーミアと……長く一緒に居過ぎたようです。最初は利用するだけだったのに……」



 ラーミアへの愛情と私への復讐心。

 揺れるマイアスは……結局、復讐を選んでしまったということなのだろう。


 嘘を吐けばいいものをと思ってしまうが……



(こいつは、こういう誠実なところがある男だからな)



 だからこそ、私はマイアスを信頼していたのだ。

 今まさに私を殺そうとしているというのに、私は彼を評価してしまう。



(く……意識が、遠のいてくる……)



 いよいよ、私の視界がぼやけてきた。

 もう満足に眼を開いていることすら出来なくなってくる。

 会話でどうにか時間を稼ぎたかったのだが……



(私は……ここで終わる、のか……)



 信頼していた者の手によって。


 いろいろあったが、まさかこんな最期を迎えることになろうとは。

 これまでの戦いの中で多くの敵対する者たちを容赦なく屠ってきている以上、私としても殺される覚悟は常にしているつもりではあったが……


 まあ、生に対して未練がないといえば、嘘になるだろう。 


 かといって。

 命乞いというのも、私のなけなしの矜持が決して許さない。

 「なんでもするから助けてくれ」等と、口が裂けても言えるはずもなく……


 それに。

 ここまでの事をしている以上、マイアスとて絶対に見逃すことはないだろう。

 相応の覚悟をもってして、この場に臨んでいるのだろうからだ。


 ──結果。

 私は、この場で死ぬのだろう。

 人生、何が起きるのか本当にわからないというものだった。

 一寸先は闇、というわけだ。



「マイ……ア、ス……」



 私の命を奪う者の名を呟くと共に、私の意識は深い闇の中へと……




 ※ ※ ※


 ※ ※ ※




 意識を失ったようで、玉座に座るクレアナードが目を閉じたまま沈黙する。



「……………」



 マイアスはしばらく彼女を見つめた後、ゆっくりと炎の魔剣を構えた──



 一陣の風が吹き抜ける。



「そこまでにしてもらえないッスか」



 いつの間にか、その場には険しい表情のリングが佇んでいた。


 王の間の大扉は閉められたままだったが、バルコニー側の窓が開いていたので、そちらから侵入してきたことが伺える。

 しかしバルコニーはこの王の間にしか繋がっていないので、そちら側には道といえるようなものはなく。

 身軽な密偵だからこそ、ということなのだろう。


 窓が開けられたことで外から様々な戦闘音が入ってくるために、王の間の厳かな静寂を破っていた。

 


「……リング、か。どうしてここに」



 密偵へと向き直ったマイアスが静かに問うと、リングは抜き身の短剣を構えた。



「ラーミア様の指示ッスよ」

「ラーミアの?」 



 玉座にてぐったりとしているクレアナードをちらりと見たリングは、小さく舌打ちひとつ。



「間に合った──とは、ちょっと言えないタイミングッスね」



 これでも急いで壁を昇ってきたのに……と悔しがる。

 さすがに、身軽さが売りの密偵とはいえ、何もとっかかりのない真っ新な壁を昇ってくるのは困難だったのである。


 マイアスは天井を見上げて、吐息を吐いた。



「……そうか。彼女(ラーミア)は聡明だからね。僕の真意なんて、とっくに見抜かれていたってわけだね」

「ラーミア様は……最後までアンタを信じてたッスよ。わたしがここに向かわされたのは、あくまでも保険……だったんス」

「怖い顔をしてくるね、リング。君のそんな顔、初めて見たよ」

「当たり前ッス。わたしいま、本気で怒ってるんスから」

「……そうか」



 普段何かと軽薄なリングの双眸には、はっきりとした憤怒が宿る。



「ラーミア様は、ずっと悩んでたッス。悩んで悩んで……悩み抜いて。それでもアンタを信じようとして。信じたくてまた悩んで……だからわたしのこの行動は、ただの用心深さ。()()()()()()()()()()()()()()()んスよ。それなのに……」

「…………」

「なんで……ラーミア様を裏切ったんスか!」

「……僕にも、事情がある」

「そんなの関係ないッスよ! アンタを信じて! 今でも愛してるラーミア様を裏切る程の事情なんて! あるわけない!!!」



 リングが見せてくる激情に、初めてマイアスの顔が引きつった。

 しかしそれでも平静さを装う男は、あくまでも冷静な態度と口調で。



「……僕だって悩んださ。ギリギリまでずっと。今でも思うよ。義姉さんが弱体化さえしなければ……」

「そんなの言い訳ッスよ!」

「っ……確かに、そうかもしれないね」

「どうしてなんスか……アンタだってラーミア様を愛してたからこそ、ゾーイ様が生まれたんじゃないんスか……」

「……それでも僕は──」



 マイアスが最後まで言葉を紡ぐ前に、その場に乱入してくる人物が。

 天窓を突き破って現れたのは、傷だらけのダミアンだった。



「マイアス!!!」

「!?──く……っ」



 頭上からの容赦なき強襲。

 はっきりとした殺意が込められた刃は炎刃で受け止めるものの、流れる様な動作による回し蹴りが炸裂しており、マイアスは大きく弾かれることに。



「クレアナード様は俺が守る!」


 

 玉座でぐったりするクレアナードを守るように身構えたダミアンが、怒りを内包させた声で叫ぶ。

 このやり取りを前に、一瞬だけ怒りを忘れたようにリングが口笛を。



「やるじゃん、後輩君」

「先輩があいつの注意を惹いてくれたからです」

「や。別にそういうつもりじゃなかったんだけどね」



 天窓で様子を窺うダミアンの存在を感知していなかったリングは、苦い笑い。

 それだけ彼女も、現状に気持ちがいっぱいいっぱいだったのだ。



「演技じゃ……なかったんですか?」

「……そういうことにしておいて」



 激情に駆られて怒声を飛ばしたことを恥ずかしいと思っているのか、リングの頬がほんのりと朱に染まる。



「……参ったな」



 呟きを零したのは、図らずも密偵ふたりを相手にすることになったマイアス。



「悠長に義姉さんと会話をするんじゃなかった、ってところか。僕も詰めが甘い」

「……アンタも、悩んでたんじゃないんスか?」

「……そうかも、しれないね」



 態度と表情を真剣なものに戻したリングの指摘を受けて、マイアスは深い溜め息を吐いた。


 復讐を優先するならば、会話などせずに、さっさと目的を果たしていればよかったのだ。

 そうすれば、彼ら(ダミアンとリング)がこの場に間に合うという事態は避けられたはず。

 それなのに……



 これ以上、ラーミアが悲しむようなことは……したくないと思ってしまう自分がいたのである。



 復讐を選んだマイアスだったが……やはり、ギリギリまで悩んでいたのだ。

 悩まされてしまったのだ。

 ラーミアへの愛情によって。



 だったらどうして復讐を選んでしまったのか。



 マイアスという男は……

 不器用な生き方しかできなかったということなのである。

 本当に、不器用としか言えないだろう……



「……ブレアとの戦いで消耗している上に、君たちふたりが相手となると……分が悪い、か」



 視線をちらりと、意識のないクレアナードへと。

 ダミアンが過敏に反応するも、マイアスはどこか満足した表情を浮かべた。



「義姉さんを──まだそう呼んでいいのかわからないけど、血に濡れた彼女を玉座に座らせたことで、ある意味では、僕の復讐は完結したと言ってもいいかもしれないね」



 彼の言葉に密偵ふたりが眉根を寄せるも、マイアスは気にせずに言葉を紡ぐ。



「君たちと死闘を演じてまで、義姉さんを殺す必要性を……僕は、もう持たない。だから──」



 炎の魔剣が、無造作に床に転がった。



「降伏する。僕は逃げも隠れもしない」



 そう告げるマイアスは、もう全てに見切りをつけたかのように、達観した態度だった。



密偵たちは顔を見合わせるのでした。

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